採用カメラが続かず消えたデジカメ向け光磁気ディスク「iD PHOTO」(730MB、2001年頃~):ロストメモリーズ File032

採用カメラが続かず消えたデジカメ向け光磁気ディスク「iD PHOTO」(730MB、2001年頃~):ロストメモリーズ File032

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[名称] iD PHOTO
(参考製品名 「DSM-D730AC」)
[種類] 光磁気ディスク
[記録方法] レーザーパルス磁界変調方式、レーザー光(650nm)、ランド・グルーブ記録、ZCLV
[メディアサイズ] 59.5×56.5×4.8mm
[記録部サイズ] 直径約50.8mm
[容量] 730MB
[登場年] 2001年頃~

ひとつ、またひとつと消えていき、記憶からも薄れつつあるリムーバブルメディア。この連載では、ゆるっと集めているメディアやドライブをふわっと紹介します。

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「iD PHOTO」は、オリンパス光学工業、三洋電機、日立マクセルによって開発された光磁気ディスク。3.5インチMOはもちろんのこと、MDよりもコンパクトながら、730MBという大容量を実現していたのが特徴です。

デジタルカメラはその利便性から広く一般に受け入れられましたが、2000年前後になると100万画素は当たり前。さらに300万画素のモデルが登場するなど、高画素化によるデータ量の増大が急速に進みました。

こうなると問題になるのが、記録メディアの容量です。高価なフラッシュメモリーではどうしても容量を増やしにくいため、撮影枚数が少なくなってしまうのがネック。より大容量で低価格に使えるメディアが求められるようになりました。

この要望に応えるよう開発されたのが、iD PHOTOです。

ID PHOTOは光磁気ディスクですが、従来あった3.5インチMOや、MD DATAなどとは異なる技術が使われています。

そのひとつが、記録に「レーザーパルス磁界変調方式」が使われていること。ここで、ちょっと光磁気ディスクの変調方式をおさらいしておきましょう。

128MBの3.5インチMOなどで使われていたのが、「光変調方式」。これは、磁界をかけながらレーザー光で熱することでマークを消し、磁界を反転したのち、反転したい場所だけレーザー光で熱して記録する方法です。「0001」と記録したければ、最初にすべて「0000」で上書き消去し、その後で「xxx1」と書き換えるわけです。

磁界を細かく制御しなくていいというメリットがありますが、書き換えに手間がかかるため遅くなる、というデメリットがありました。

これに対し「磁界変調方式」はMDなどで採用されているもので、レーザー光を連続照射し、磁界の向きを適宜変更することでマークを記録する方法です。これなら消去することなく、最初から「0001」と一発で上書きできます。

ただし、磁界の変化が連続的に記録されるため、マーク間の境界が不明瞭。正しく読むには十分な間隔をとる必要があり、記録密度の向上が難しいといった問題がありました。

「レーザーパルス磁界変調方式」は基本的には磁界変調方式と同じですが、加熱のためのレーザー光を連続照射ではなく、マークを記録する時だけ照射(パルス照射)しているのが特徴です。この方式なら磁界の変化途中が記録されないため、マークの境界がシャープになるというメリットがあります。

境界がシャープになれば、マークの間隔を詰めても区別がつきます。iD PHOTOでは、マークの直径よりも狭い間隔で記録することで、データ容量を増やしています。

▲「iD PHOTO規格対応光磁気ディスクの開発」より引用

ただし、いくらマーク間隔を詰められても、読み出せなければ意味がありません。この読み取れる限界は、基本的にレーザー光をレンズで絞ったスポットサイズまでです。

この限界を突破する技術として採用されたのが、「CAD(Center Aperture Detection)型磁気超解像方式」。これは、直接記録層を読むのではなく、再生層を用意し、そこに転写された情報を読み取るというのがポイントです。

再生層をレーザーで加熱すると中心部から徐々に温度が上がり、記録層の磁化情報が転写されていきます。すべてを転写してしまえば記録層を直接読むのと変わりませんが、短時間の加熱であれば、中心部分のみを転写できます。つまり、読みたい情報だけが転写された状態となるため、正確に読み取れるようになるわけです。

といっても、この技術を使用してもまだ2~3個のマークが同時に読み取れてしまうため、さらに信号処理を行ない、信号波形のパターンから正しい情報が読み出せるよう工夫されています。

これ以外にも、ガイド溝となるグルーブだけでなく、グルーブ間のランドにもデータを記録しているとか、より効率のいいデータ変調方式の採用、ディスク面に刻まれたクロック信号を使って正確なタイミングを実現するといった技術により、CDを超える730MBという大容量を実現しました。

そんなiD PHOTOのカートリッジを見ていきましょう。

MDの特徴を色濃く受け継ぐカートリッジの仕組み

カートリッジサイズは59.5×56.5×4.8mmで、小型の光磁気ディスクとなるMD(72×68×5mm)よりも小さくなっています。フラッシュメモリーを採用するコンパクトフラッシュ(42.8×36.4×3.3mm)よりはだいぶ大きいですが、標準価格で1枚3500円という安さと、730MBという容量を考えれば、十分競争できるものです。

▲左から、MD DATA、iD PHOTO、コンパクトフラッシュ

アクセスウィンドウを保護するシャッターが右にあるというのは、MDと同じ。挿入方向となる上面が緩やかに丸められていて、これがiD PHOTO特有のシルエットとなっています。

ちなみに、中央左にある四角いスペースは、ラベルシールの貼り付け位置。ラベルシールはここだけでなく、下面にも細長いものが用意されています。このあたりも、MDっぽさがありますね。

▲シャッターが右側にあるのが、MDと同じ
▲ラベルシールの貼り付け位置は、下面にもあります

裏面を見ると、シャッターが中央のクランピングプレート部まで覆われていることが分かります。これはゴミやホコリの侵入を極力阻むためで、3.5インチMOやMD DATA(音楽用MDは覆われていません)などと同じです。

ただし、シャッター端を押さえるガイドがないのが大きな違い。サイズが小さい分シャッターが浮きづらく、ガイドなしでも十分密閉できるということなのでしょう。

また、カートリッジの組み立てがネジ止めとなっているあたりは、3.5インチMOっぽさがあります。

▲カートリッジの組み立てはネジも利用されています

裏面の右下に見える窓の赤色は、書き込み許可となるもの。設定は表面から行い、上へスライドさせると書き込み禁止となります。このとき、裏面からは赤色がなくなって貫通穴となるため、表裏のどちらからでも書き込み禁止状況が確認できます。

▲鍵マークの方へとスライドさせると、書き込み禁止

ちなみに、下面にも小さな穴があって、ここからも書き込み禁止状況を確認できます。スライドさせる位置が異なりますが、3面から確認できるというのはMDと同じです。

シャッターは簡単に開かないよう、ロック機構を装備。この点はMDと同じですが、シャッターにバネが入れられており、自動で閉まるようになっている点が異なります。

▲ロック機構あり&バネありのシャッター

単純に考えれば、ドライブ側にシャッターを閉める機構を作りさえすれば、バネが不要となるぶんカートリッジのコストが下がります。それでもバネを入れたということは、ドライブ側のコスト増を気にしたのでしょうか。MOやMDドライブの製造経験があるはずのオリンパスと三洋電機の判断ですから、その可能性が高そうです。

ディスクの回転制御は、ZCLVを採用。具体的にはディスク面を12の領域に分け、外周から内周へと向かうごとに、回転速度を1900rpmから3100rpmまで段階的に上昇させています。これにより、線速度が約5m/sで固定され、20Mbpsを越えるデータ転送レートを維持しているわけです。

ディスク面を観察すると、記録密度を一定にするため1周当たりのセクター数が内側に行くほど減少し、境界がズレていっている様子が分かります。

▲ZCLVの特徴となる、セクター境界のズレが目視で分かります

さらに拡大して見ると、このセクターよりも細かい境界が観察できます。前述の説明で、ディスク面にデータの読み書きタイミングに使うクロック信号が刻まれていると触れましたが、これがそのマーク(FCM、ファインクロックマーク)でしょうか。

▲クロックを生成するマークかも?

ドライブ内部のクロックを使うと完全な同期が難しく、読み書きのタイミングがズレてしまうことがありますが、ディスクに刻まれた情報から外部的にクロックを生成すれば、より正確なタイミングで読み書きできるようになります。データ密度が高いということは、それだけタイミングがシビアになるということですから、こういった技術を使うことで信頼性を高めているわけです。

とはいえ、この見えている境界がFCMかどうかは自信ありませんが。

カートリッジがネジ止めだったので、せっかくなので分解してみましょう。ただし、角あたりを中心に外周が接着されていたため、ネジを外すだけでは分解できず、少々てこずりました。

▲左が表面のカバー、右が裏面のカバーとディスク

中はシャッターのロック、書き込み禁止スイッチ、そしてディスクがあるだけとシンプル。無理なく組み立てられるような構造になっており、よくできているなと感心するばかりです。

ちなみに、適当に検索して回った限りですが、iD PHOTOの内部に言及しているものは見つかりませんでした。たぶん、この内部写真は珍しいはずです。

デジカメ用に開発されながら、デジカメで扱いにくい

高度な光磁気ディスクの技術を使い、小型ながらも大容量を実現したiD PHOTOは、価格、信頼性、サイズといった多くの面で、優れた特徴を持っていました。

ただし、これはあくまでカートリッジだけの話。メディアとして利用するにはドライブも必要となるため、どうしてもデジカメが高価になってしまいます。また、サイズも大きくなってしまうため、小型デジカメに搭載するのは難しいという問題があります。

実際、搭載モデルとして2001年2月に発売された「iDshot IDC-1000Z」は、標準価格16万円という高価なモデルでした。

これ以外にも欠点があり、ディスクの回転開始から記録可能になるまで時間がかかる、消費電力が大きいといったあたりは、とくに悩ましい部分でしょう。

2001年のコンパクトフラッシュの容量は、大きくても512MB程度。価格は4~8万円くらいしていましたから、730MBで3500円というiD PHOTOの安さは圧倒的です。しかし、搭載機が出なければ使いようがありません。結局、デジカメやドライブの製造・開発が可能なオリンパスと三洋電機、そしてカートリッジの製造ができる日立マクセルといった役者が揃っていながら、IDC-1000Z以外の搭載デジカメは登場せず、わずか1世代で消えていきました。

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