衝撃タイトルが意味するのは?
アドルフ・ヒトラーが1945年に死んでから79年。ホロコーストという過去の過ちと向かい合い人権を尊ぶことを掲げてきたはずのドイツは今、新たな大虐殺から顔を背け続けている――。
映画『ヒトラーの死体を奪え!』(2022年)は、その衝撃的なタイトルにまず興味を惹かれるだろう。非道のかぎりを尽くしたヒトラーは第二次世界大戦最後の年、腹心ヒムラーが英米連合軍に対し全面降伏宣言したことでそれ以上の抗戦を諦め、妻エヴァと共に自害。遺体は償却するよう命令していたという。
本作は、そのヒトラーの亡骸をめぐるサスペンス劇。ベースは史実だが、当然ながらフィクション。原題は「Burial(埋葬)」で、他の“ヒトラー映画”と同じパターンの惹句だ。とはいえ内容に忠実な邦題でもあり、歴史の“もしも”をスリリングに描く戦争アクションに仕上がっている。
ヒトラーの死体が狙われる理由とは
1945年、陥落後のベルリン。ソ連軍情報士官のブラナたちは、スターリン直々の極秘指令で、棺のような木箱をモスクワまで運ぶ任務を命じられる。その中身は焼却されたはずのヒトラーの亡骸だった。だが移送中、ドイツ軍パルチザン<ヴェアヴォルフ>に襲撃され、亡骸が奪われてしまう……。
ガソリンで焼却され灰になったはずのヒトラー。だが彼の最期には諸説あり、実は生きているのでは? という都市伝説がまことしやかに囁かれたりもした。第二次大戦を生き抜いたおばあちゃんの回想から始まる本作は、ソ連兵たちが極秘で運ぶ死体をめぐって、襲いかかってくるナチスの残党たちと戦った――というトンデモ昔話だ。
オカルトB級映画にあらず! 戦争映画としての見応えアリ
しかしオカルト的なB級映画化というと、そうでもない。戦闘シーンはなかなかのクオリティで、銃火器が殺傷兵器であることを実感させる臨場感がある。『ハリポタ』シリーズのドラコ・マルフォイ役でお馴染みトム・フェルトンを含め、誰がいつ死んでもおかしくない緊張感が漲っていて、しっかり“戦争映画”になっている。
本作はナチス・ドイツ/ヒトラーを皮肉るのと同時に、ロシア軍=ヨシフ・スターリンの蛮行も忘れさせない(1930年代にはウクライナに対して人為的飢饉=ホロドモールを仕掛け、数百万人を死に追いやった)。しかし、ユダヤ人への贖罪を続けるドイツは今、大きなジレンマに陥っている。過去を顧みることが新たな虐殺への加担になっては本末転倒なのだが……。
『ヒトラーの死体を奪え!』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2024年3月放送