『ブギウギ』吉柳咲良が纏う“新人”らしからぬ圧 スズ子の“義理と人情”が試される一幕に

ディレクター・沼袋勉(中村倫也)の提案で、年末の大舞台『オールスター男女歌合戦』で若手の有望株である水城アユミ(吉柳咲良)と新旧対決をすることになったスズ子(趣里)。今週から新たなキャラクターが登場し、いつにもまして華やかな週となっているが、『ブギウギ』(NHK総合)第118話ではアユミからある提案を持ちかけられる。

スズ子が大野(木野花)とアユミの話題で盛り上がっている最中、自宅に小田島(水澤紳吾)とその息子の一(井上一輝)がやってくる。言わずもがな小田島は愛子(このか)の誘拐未遂騒動を引き起こした張本人。2人が対面を果たすのはこれが初めてである。スズ子も名前を聞くまで誰なのか分からなかった。あの時と決定的に違うのは小田島の身なり。以前は顔や服装からみすぼらしい雰囲気が漂っていたが、スズ子のもとを訪れた小田島は小綺麗でさっぱりとしていた。

親戚から紹介された富山の家で庭師の見習いをしていた小田島。だが、一の希望もあり東京に戻って仕事を探そうとしていた。「一と地道に生きていこうと決めましたんで」と語る小田島の表情はもうあの頃とは違って誠実な人の目をしていた。きっと元来、真面目な人だったのだろうと思う。そんな小田島の思いを聞いたスズ子は彼を家事手伝いとして雇うことに決める。なんと心が広いのだろうか……。

タケシ(三浦獠太)は「なぜ誘拐犯なんか雇うのか」と声を荒げていたが、至極真っ当な反応だ。改心したとは言え、一度犯罪に手を染めてしまった以上、いつまた一線を越えても不思議ではない。「この世は義理と人情や」と言い切ってしまえるスズ子のほうが異常なくらいである。だが、それがスズ子の良さもであり、ここまで来られた理由でもある。

後日、股野(森永悠希)と喫茶店で会うことになったスズ子。約20年という歳月は大きいもので、股野には白髪も生え、声もどこか落ち着いている。まだまだ青かった当時と比べると、その変化は一目瞭然。青年から父親へ。その変化を森永悠希は巧みに表現していた。仕事をしながら男手ひとつでアユミを育ててきた股野の境遇は、スズ子にも共感するものがあったのではないだろうか。

股野がスズ子とアユミの話し合いの機会を設けた最大の理由、それは『オールスター男女歌合戦』でスズ子の「ラッパと娘」を歌わせてほしいと懇願するためだった。「福来先生、どうかお願いできないでしょうか」と凛とした表情で語るアユミの圧に押されてしまうスズ子。あのスズ子が勢いで押されてしまうのだから、アユミの肝の座りようはとても新人とは思えない。

トリを務めるスズ子の前にアユミが「ラッパと娘」のカバーをするということは、直接その歌声を比べられるということでもある。テレビ局的にはまたとない機会ではあるが、大げさに言えばスズ子にとっては歌手生命を脅かしかねない事態だ。しかも、アユミとの会話の内容を鮫島(みのすけ)にも聞かれており、すでにその内容は世間に出回っていた。「義理と人情」を大切にしてきたとは言え、彼女にだって歌手としてのプライドはある。スズ子はどんな決断を下すのか。
(文=川崎龍也)

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