大気の状態が不安定ってなに?春夏秋冬の季節ごとに原因や注意点を気象予報士が解説

天気予報では、“大気の状態が不安定”というキーワードがよく出てきます。落雷や突風、急な強い雨、竜巻やひょうといった、シビアな現象が起こりやすいことを意味しますが、あまりピンとこない方も多いのではないでしょうか。
このコラムでは、大気の状態が不安定という言葉の意味や表す天気を、気を付けたいキーワードとともに読み解き、また、春夏秋冬の季節ごとに、大気の状態が不安定となる原因や注意したい点を分かりやすく解説していきます。

大気の状態が不安定となる原因とは

・大気の状態が安定・不安定ってなに?

大気の状態が不安定とは、地上付近は暖かく、上空が冷たい状態のことを表す気象用語です。
暖かい空気は膨張して密度が大きくなるため“軽く”、冷たい空気は圧縮して密度が小さく “重く”なるという性質があり、また、地球では重力によって軽いものは上に、重いものは下にいきます。
大気の状態が不安定な場合は、地上付近の暖かく軽い空気が上昇して、“積乱雲”という活発な雨雲が発生しやすくなります。特に、地上付近と上空の気温差が大きくなるほど、積乱雲は発達します。反対に、冷たく重い空気が下に、暖かく軽い空気が上にあれば、上昇気流や下降気流は起こりづらいため、大気は安定した状態になります。
大気の状態が不安定の場合は、局地的に雨雲が発生・発達するため、同じ都道府県や市区町村内であっても、自分のいる場所は晴れていることがしばしばあります。油断してしまいがちですが、雨雲は移動してくる可能性がありますので、雨雲レーダーや注意報などでお住まいや外出先の情報を確認することが重要です。

・落雷、突風、強雨への備えが基本

大気の状態が不安定な場合、落雷突風急な強い雨に注意が必要です。
また、季節によっては雹(ひょう)の降る可能性もあり、大気の状態が非常に不安定な場合には竜巻の発生するリスクもあります。ひょうや竜巻は、雷注意報の付加事項として注意喚起がされ、雷注意報を補足する情報として、竜巻注意情報が発表されることもあります。さらに、竜巻は稀な現象ですが、被害が大きくなりやすいため、NHKニュース速報ではお住いの地方の竜巻注意情報がテロップで表示されます。

・天気予報で気をつけたいキーワードとは

大気の状態が不安定なことを表す言葉には、“雷を伴う”や“落雷”、“急な強い雨”、“竜巻などの激しい突風”、“ひょう”があります。それぞれ大気の状態が不安定なときに起こりやすい現象です。また、“にわか雨”や“夕立”、“ゲリラ豪雨”、“時雨(しぐれ)”なども、気を付けたいキーワードです。
局地的な現象は先々の予測が難しいものの、前日・当日に雷の発生が予想される場合は、天気予報で“雷を伴う”や“大気の状態が不安定”といった表現が使われます。この段階で、屋外の予定がある場合は、折り畳みの傘やレインコートなどの雨具を用意したり、柔軟に予定を変更できるようにしたりするなど、検討しておくと安心です。
とはいえ、大事な予定や計画を変更・中止するのは、簡単ではありません。出かける前には、雷注意報や竜巻注意情報の発表の有無を確認しましょう。

・天気急変の3つのサインとは

天気が急変する前には、①真っ黒い雲が近づいてきた②雷の音が聞こえてきた③急に冷たい風が吹いてきた、という3つのサインがあります。どれか1つでも当てはまれば積乱雲=雨雲の近づいてくる可能性があります。
また、雷の稲光が確認できる場合は、雷が光ってから音が聞こえるまでの時間によって、雷とのおよその距離を計算することができます。音の進む速さは1秒で約340mのため、“光ってから音が聞こえるまでの秒数×340(m/s)”という計算方法で、雷がどのくらい近くで鳴っているのかを把握することができます。

春の大気不安定の特徴

・春に大気不安定となる主な原因

春は移動性の高気圧と低気圧が交互に訪れるため、天気は周期変化となります。また、春は上空を流れる“偏西風”という強い西風が日本付近を通りやすく、南北に波打った時には北側にある寒気が南下します。このため、高気圧に覆われて地上付近は春の暖かい空気で気温が上がっても、上空には冬の冷たい空気が流れ込み、大気の状態が不安定になりやすいのです。
さらに、春は低気圧が発達しやすい時期で、爆弾低気圧と呼ばれるほど急速に発達することがあります。爆弾低気圧によっても、落雷や竜巻といったシビアな現象がもたらされる可能性があります。

・春はひょうの被害に注意が必要

雹(ひょう)とは、空から落ちてくる氷の粒で直径5mm以上のものです。氷の粒は落ちてくる間に雨に変わることがほとんどですが、とけきらずに降ってくるのがひょうです。
ひょうは1年の中でも春や秋に降りやすい傾向があります。夏はとけて雨に変わってしまうため、冬は気温が低くても他の季節に比べると積乱雲が発達しにくいため、ひょうはできづらくなります。

・ひょうによる被害と注意点とは

ひょうによってもたらされる被害としては、まず家屋や自動車に傷がついたり、窓ガラスが割れてしまったりすることが挙げられ、ひょうの大きさや固さによっては被害が甚大になることもあります。一般的に、多くの保険では、火災保険の補償対象にひょう被害が含まれています。自動車であれば、車両保険で補償されます。
また、農作物への被害も考えられ、過去には2023年6月3日に千葉県で降ったひょうにより、千葉県内の農作物に17億円を超える被害が出てしまいました。
さらに、人体への影響としては、例えば直径が5㎝のひょうの場合、時速100kmを超えるスピードで氷のかたまりが落下してきますので、頭部など当たる場所によっては命に関わるおそれがあります。
屋外にいるときにひょうが降ってきたら、大きさに関わらず、急いで頑丈な建物内に避難してください。車の運転中であれば、無理に外へは出ず、安全な場所へ停車して、活発な雨雲が過ぎ去るのを待ちましょう。

夏の大気不安定の特徴

・夏に大気不安定となる主な原因

夏は強い日差しによって地表付近の空気が暖められるため、上昇気流が起こりやすくなります。特に、気温の上がりやすい午後は、山沿いを中心に雨雲が発達して夕立となり、平野部にも雨雲が流れ込んでくることがあります。
また、アスファルトやコンクリートの多い都市部は地表面の気温が上がりやすく、また排気ガスやエアコンの排熱などによっても空気が暖められるため、近年では都市部で局地的に雨雲が急発達し、“ゲリラ豪雨”が発生しやすい傾向があります。

・夏はゲリラ豪雨となる可能性も!

ゲリラ豪雨とは、突発的で予測の難しい、局地的に短時間で降る大雨のことで、正式な気象用語ではありません。気象庁では、“集中豪雨”や“局地的大雨”と表現しています。
一般的に、ゲリラ豪雨は、規模が10~30km四方ぐらい、時間は数十分から長くても1時間程度の現象です。ゲリラ豪雨は夏に発生しやすく、短時間のうちに、中小河川の増水、アンダーパスや地下街など低い土地の浸水といった甚大な被害をもたらします。
夕立やスコールと混同してしまう方もいますが、夕立やスコールは正式な気象用語です。夕立はゲリラ豪雨と異なり、予測がある程度可能です。また、スコールは突発的な風の強まりのことで、雨が降るとは限りません。

・車の運転中にゲリラ豪雨にあったらどうする?

屋外でゲリラ豪雨に遭遇した場合、一刻も早く、頑丈でより高い場所へ避難することが大切です。地下街は浸水する可能性があり、水圧で扉が開かなくなることもあるため、高い場所というのが重要なポイントです。
車の運転中など避難が難しい場合は、①雨で視界が悪化するためヘッドライトを点灯した上でスピードを落とし②アンダーパスなどの低地や川沿いの運転は避け③可能であれば雨雲が過ぎるまで安全な場所で車を停めて待機してください
一般道ではマンホールが外れていたり、側溝にはまって脱輪する可能性があり、マフラーや吸気口から浸水すれば電気系統がショートしてエンジンが停止したり、水没すればドアを開けることが困難になって避難できなくなるおそれもあります。高速道路では、最寄りの出口で降りるか、サービスエリアやパーキングエリアへの避難を検討しましょう。

秋の大気不安定の特徴

・秋に大気不安定となる主な原因

秋は、台風や秋雨前線によって大雨となりやすく、南から暖かく湿った空気が流れ込んで、台風から離れた地域でも大気が不安定となることがあります。
また、秋のはじめの頃は夏の空気の影響が残りやすく、ゲリラ豪雨が発生する可能性もあります。晩秋は、日本海側で雨が降ったりやんだりする、“時雨(しぐれ)”となりやすく、雷を伴ったり、ひょうが降ることもあります。

・秋は竜巻発生のリスクが高まる!

竜巻とは、発達した積乱雲に伴う強い上昇気流によってできる、渦を巻いた風です。積乱雲は、特に発達して巨大になると“スーパーセル”と呼ばれ、竜巻の多くがスーパーセルによって発生します。また、発達した積乱雲の近くでは、竜巻だけではなく、“ダウンバースト”や“ガストフロント”と呼ばれる激しい突風の発生することもあります。
竜巻は、季節を問わず、低気圧や寒冷前線、台風の近くで発生しやすく、台風シーズンの9~10月は特に多い時期です。以下のような兆候が見られたら、竜巻に注意が必要です。

・雲から下に伸びる漏斗雲(ろうとぐも)が見える
・飛散物が巻き上げられながら飛んでいる
・ゴーという音がする
・気圧の変化で耳鳴りがする
・土煙が近づいてくる

・過去の被害や竜巻から身を守るには

日本の陸地では、年間に平均で25個程度の竜巻が確認されていて、東北日本海側から北陸、関東から九州の太平洋側、沖縄で発生確認数が多い傾向があります。竜巻は発生件数こそ多くはありませんが、一瞬で家屋などの建物が倒壊したり、看板などが飛んできて負傷したりするなど、大きな被害をもたらします。
過去に日本国内で発生した事例としては、2013年9月2日に埼玉県・千葉県・茨城県で発生して76名が負傷した竜巻や、2012年5月6日に茨城県で発生し、1名が死亡、37名が負傷した竜巻などがあります。また、人的被害が大きかったものとしては2006年11月7日に北海道で発生した竜巻があり、9名の死者が出てしまいました。
竜巻の発生する兆候に気づいたら、屋外にいる場合は速やかに頑丈な建物に避難し、屋内では1階の窓のない部屋や、窓から離れた場所に移動してください。

冬の大気不安定の特徴

・冬に大気不安定となる主な原因

冬は地上の気温は低くても、上空に強烈な寒気が流れ込むと気温差が大きくなるため、大気の状態が不安定となります。特に、日本海側では、シベリアから冷たく乾いた空気が流れ込み、相対的に暖かい日本海上で水蒸気を補給して雪雲が発生しやすくなります。大気の上空は冷たくて下層は暖かい、つまり大気が不安定の状態となりますので、雪雲が雷雲にもなります。雷を伴って雪が降るのは、世界的にもめずらしい現象です。
日本海側に雪をもたらす雪雲は背が低いため、本州中央にそびえる山脈を越えることはできず、太平洋側は乾燥した空気が吹き降り、大気は安定して晴天となりやすい傾向があります。

・冬の不安定は一発雷に要注意

冬季は特に日本海側で落雷による被害に注意が必要です。冬に発生する雷は“冬季雷”といい、昼夜の時間を問わずに突然発生するため、予測の難しい現象です。雷雲の高さが夏の半分程度と地上からの距離が近く、また、夏の雷よりも1回あたりのエネルギーが大きいのが特徴で、 “一発雷”ともいわれます。
長続きはしませんが威力が強く、雲中放電ではなく落雷の可能性が高まります。山間部や高い構造物に集中的に落雷する傾向があります。

・落雷の可能性があるときの対応とは(避難できる時+緊急時)

発達した雨雲・雪雲が近づいてくるサインに気が付いたら、鉄筋コンクリートなどの頑丈な建物の中に速やかに避難してください。木造の建物や自動車(ソフトトップのオープンカーを除く)でも基本的には安全です。

屋内への避難が難しい場合は、高い木の近くは危険ですので木の下で雨宿りをすることはしないでください。緊急時は、①頭を下げてしゃがんで姿勢を低くし、②両手で両耳をふさぎ、③足を閉じてつま先立ちをする、いわゆる「雷しゃがみ」をしてください。雷が止んだ後は20分以上経ってから安全な場所へ移動するとよいでしょう。

<参考・引用>
・気象庁HP 知識・解説 「急な大雨や雷・竜巻から身を守るために」
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/tenki_chuui/tenki_chuui_p1.html

・気象庁HP 知識・解説 「竜巻・ダウンバースト・ガストフロント」
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/toppuu/tornado0-0.html

・気象庁HP 知識・解説 「雷」
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/toppuu/thunder0-0.html

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