ベテランがいる日本代表には強固な一体感と結束力が生まれる――長友佑都に求められる役割と存在意義

アジアカップの惨敗から1か月半。森保ジャパンは再起を懸けて2026年北中米ワールドカップのアジア2次予選、北朝鮮との2連戦に向かう。

タフさと粘り強さを前面に押し出してくる北朝鮮は難敵に他ならないうえ、3月26日のアウェーでの一戦は平壌開催だ。未知なる環境での戦いは若い選手たちにとって不安なはず。こうした逆境をどう乗り越えるのか。このシリーズは代表の底力が問われると言っても過言ではないだろう。

チームは18日から千葉県内で始動。初日はいち早く帰国した久保建英(レアル・ソシエダ)や田中碧(デュッセルドルフ)らに国内組を加えたフィールド5人とGK2人がピッチでトレーニングを実施。ひと際大きな声で仲間を鼓舞していたのが、2022年カタールW杯以来の復帰となった長友佑都(FC東京)だ。

「これまで代表で15年間プレーさせてもらいましたけど、やっぱり良い時ばかりじゃない。苦しい時こそ、盛り上げるメンタルの強さとかが本当に必要。メンタリティの部分は、自分は誰よりも強いとは言わないけど、コントロールはできるなと。『悪い時こそ長友が必要だ』と思われる存在でいたい」と、初日の練習後に力を込めた37歳の大ベテランは今、自分が何をすべきかよく分かっている。自信を失っている代表に新たな活力と安心感をもたらすことが第一の責務なのだ。

過去の代表を見ても、2002年日韓W杯の中山雅史や秋田豊、2010年南アフリカW杯の川口能活、2022年W杯の川島永嗣のように、チームをまとめるベテランがいた大会の日本は、強固な一体感と結束力が生まれ、結果もついてきた。

逆にグループステージで敗退した2006年ドイツ・2014年ブラジルの両W杯はそこが足りなかったという指摘もあり、森保一監督も年長者の存在感や経験値の重要性をよく理解しているはずだった。

実際、第一次体制の時は、2019年コパ・アメリカに川島と岡崎慎司(シント=トロイデン)を帯同させるなど、具体的なアクションも起こしていた。

しかしながら、第二次体制移行後は「30代選手を極力減らして、東京五輪世代を軸に据える」という意向が色濃く表われていた。その流れで2023年は快進撃を見せ、一時は「史上最強」とも評された。

が、アジアカップではベトナムやイラクに苦戦。伊東純也(スタッド・ドゥ・ランス)の週刊誌報道が重なった時、チームはどこか求心力を失ってしまった。現状のままではW杯予選も厳しい戦いになる可能性が大ではないか。

そんなネガティブなムードを払拭し、困難の伴う北朝鮮のアウェー戦を乗り切るために、どうしても必要だったのが年長者の存在感だ。特に中山雄太(ハダースフィールド)が負傷で今季絶望となり、左SBの人材難を解決してくれる人材として、長友は特に重要なピース。だからこそ、いったん2022年W杯後に“代表引退状態”になっていた彼を呼び戻すという決断を森保監督は下したのだろう。

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今回の2連戦に限って言うと、左SB要員は第二次体制で同ポジションの主軸となっている伊藤洋輝(シュツットガルト)を筆頭に、CB兼任の町田浩樹(ユニオンSG)、左右のSBをこなせる橋岡大樹(ルートン)、長友という陣容だ。

アジアカップでは低調なパフォーマンスを見せた伊藤には不安もないとは言い切れないが、所属先ではCBと左SBでコンスタントにプレー。今回もファーストチョイスの位置づけは不動と見ていい。

これまでの森保監督なら、その伊藤をホーム&アウェーで2試合連続先発させるところだろう。ただ、やはり平壌でのゲームは実力以上に強靭なメンタルが求められてくる。そういう時こそ、数々の修羅場をくぐってきた長友の出番ではないか。

彼がピッチにいれば、同じ最終ラインを形成する板倉滉(ボルシアMG)らも安心感が高まるだろうし、キャプテンの遠藤航(リバプール)もより自分のプレーに集中できる。守田英正(スポルティング)がアジアカップ期間中に苦悩していた立ち位置や距離感、バランスの問題も、長友が加わることで話し合いが進み、解決策をより早く見出せるようになるはずだ。

長友にとっては、このビッグチャンスを確実にモノにできるかどうかで、次の代表招集が決まると見ていい。森保監督もバングーナガンデ佳史扶(FC東京)や三浦颯太(川崎)など、若い左利きのSBを引き上げたいと熱望しているから、「若手よりも長友が絶対に必要」という状況にならないと、継続的なメンバー入りは難しい。

本人は「5度目のワールドカップに出ます」と宣言した通り、2026年北中米W杯行きを本気で目ざしている。それが叶うのか否かを大きく左右するのが、今回の2連戦なのだ。彼自身がさらなる進化を遂げ、37歳という年齢を感じさせないパフォーマンスを示すことができれば、未来への道が開けてくるかもしれない。そういう意味でも、この男の動向から目が離せない。

取材・文●元川悦子(フリーライター)

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