ハイチの治安危機、一段と悪化 「神しか状況を変えらない」と住民に絶望感も

ウィル・グラント、中南米特派員、BBCニュース

治安が崩壊し暴力事件が相次いでいるハイチの首都ポルトープランスで、危機的な状況が一段と悪化している。住民は「パニック状態だ」と訴えている。

ポルトープランスの裕福な家庭が暮らし、安全な地域とされるペティオンヴィルでも、暴力が多発している。

通りには、ギャングによって銃弾が多数撃ち込まれた死体が十数体、横たわったままになっていた。

裁判官の自宅も襲撃された。権力争いを繰り広げてきたエリート層への明確なメッセージとみられている。

こうした光景が、首都の安全なだとされる場所で起きている。

国連は、首都で多くの病院が閉鎖されているため、妊婦約3000人が医療支援なしの出産を強いられる恐れがあるとしている。

北部の都市カパイシャンの公立病院の産科病棟では、2日前に男の子を出産したばかりのマルキンソン・ジョゼフさんが、チャンスがあれば赤ちゃんを国外に脱出させたいと、通訳を介してBBCに話した。

「でも私にも夫にも、逃げられるだけのお金がない」

この病院の産科医マルドシュ・クレルヴィル医師によると、ポルトープランスの妊婦たちが出産のため、比較的安全なカパイシャンに移動しているという。

同医師は、「ベッドもスタッフも十分だ。だが、社会経済的な問題や暴力のせいで、妊婦たちがこのまでたどり着けないことがよくある」と話した。

また、ギャングがポルトープランスを出入りする道路を押さえているため、照明や扇風機に使う燃料や薬、器具を入手しにくくなっていると説明した。

そのため、適切な医療措置が受けられず、赤ちゃんが死亡するなどの悲惨な出来事も起きている。

生活に不可欠なものも入手困難に

ハイチではいま、全国的に人道的ニーズが危機的な状況にある。しかしこれまでのところ、支援の動きは非常に鈍い。

食料、水、安全な避難場所など生活に不可欠なものが、何百万人もの人々にとって、ますます確保しにくくなっている。

ポルトープランスでは、ファラ・オキシマさん(39)と彼女の9人の子どもたちが、ギャングが支配する地区の自宅から市内の別の場所に移らざるを得なくなった。そうした国内避難者は、今回の紛争が始まってから36万人以上に上っている。

オキシマさんは、路上で水道管からプラスチック容器に水を入れながら、子どもたちに必要な食料と水を与えるのに苦労しているとし、こう言った。

「どうすればいいのかわからない。この国が目の前で壊れていく」

オキシマさんは、政権移行のための評議会が短期的にでも秩序や安全をもたらすことは、全く不可能のように思えると話した。

「この場所を変えられるのは神だけだ。どんな変化も起きているようには見えない」

追加取材:ジェレミー・デュパン

(英語記事 'Only God can change this place': Haitians see no end to spiralling violence

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