アングル:熱を帯びる中国国債ラリー、背景に「資産飢饉」

[上海 19日 ロイター] - 中国国債の記録的な上昇が熱を帯びている。金融システムへの信用感が低下し、キャッシュと銀行預金があふれていることが改めて浮き彫りとなった格好だ。

長期国債は余剰資金の流入で利回りが過去最低に低下。銀行関係者によると、貯蓄国債は発売とほぼ同時に売り切れとなり、個人投資家が夜明け前から銀行支店の前に列を作っている。

30年国債の利子はわずか3%で、中央政府など借り手にとっては朗報だ。

ただ、市場関係者が一段の金利低下を予想する中、あらゆるタイプの投資家が生産的な資産ではなく、安全な金融商品に資金を投じており、景気回復期待や信頼感のもろさが垣間見える。

上海にある国有銀行の関係者は、貯蓄国債が「数秒」で売り切れると指摘。3年物の金利は2.38%で、定期預金金利をわずかに上回る。

30年物国債利回りは今年40ベーシスポイント(bp)近く低下し、今月には過去最低の2.4%を記録した。22年ぶりの低水準を付けた10年物国債利回りをあとわずかで下回る状態だ。

中国当局は以前から、利下げなどの措置を通じて資金を銀行から成長資産に誘導しようとしてきた。だが、投資家はこうした取り組みに逆行。不動産市場の低迷を受けて安全資産に資金が集中している。

上海の債券ブローカーに勤務するあるトレーダーは、こうした状況を「資産飢饉」と表現する。預金が急増し、融資が伸び悩む中、金融機関には他に買うものが残されていないという。

この債券トレーダーによると、長期国債の多くは金融機関が購入している。融資需要が低迷しているため、預金資金の待機先として買っているという。先週発表の統計によると、2月の融資の伸びは過去最低の10.1%だった。

中国人民銀行(中央銀行)のデータによると、国内銀行の2月末時点の預金残高は過去最高の291兆元(40兆ドル)。融資を上回るペースで預金が増えている。

国債には外国人投資家の買いも入っているが、外国人の保有比率は3%未満。海外勢が相場を左右する傾向は見られない。

人民銀行は最近の市場操作で政策融資のロールオーバーを見送り、銀行システムから資金を吸収しているが、アナリストは人民銀行が資金の滞留を意識している証拠だと指摘する。

人民銀行は3月に債券オペを通じて差し引き940億元を銀行システムから吸収した。こうした動きは2022年以降初めてだ。

ANZのシニアストラテジスト、Xing Zhaopeng氏は「『資金循環の滞留を避ける』とした(今年の)政府活動報告を反映したものだ」と分析。この文言は前回、20年に政府活動報告に盛り込まれた。

人民銀行は今月、農村部の銀行の債券保有状況について定期調査を行ったとも表明。農村部や零細企業などに対する重要な責任を果たすことに注力するよう指導する方針を示した。

国債価格の上昇により、中央政府が低利で長期資金を確保できることは確かだ。政府は調達した資金を国のために投じられる。国債発行も市場の安定につながるとみられる。

ただ、低金利は人民元の安定に向けた取り組みを複雑にする。アナリストは、行き場を求める多くの資金で市場が膨張することを現時点では懸念していないものの、警戒は怠っていない。

BNPパリバの大中華圏為替・金利戦略を統括するJu Wang氏は「長期のデュレーションに資金が集中し、イールドカーブがフラットになっている。われわれは短期的に警戒している」と発言。

「中期的には、中国国債の調整はデュレーションを積み増すチャンスになるかもしれない。金融緩和サイクルは終わっていない」と述べた。

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