自転車がいつもポートにあるのはなぜ?「チャリチャリ」の自転車輸送を担当する唯一の外部パートナー・西鉄運輸の存在

福岡の街中を走るシェアサイクル、「Charichari(チャリチャリ)」。駐輪用の「ポート」では、自転車をトラックに積み込んでいる様子を目にすることも少なくない。

シェアサイクルを利用したい時、ポートに自転車がなければ意味がない。しかし、いったいどのようにして常に自転車を配置しているのだろうか?

実は、ポートからポートへ自転車を動かしている「頼もしい裏方」がいる。サービスが開始した当時から業務に従事する西鉄運輸のプロフェッショナルに、チャリチャリに関する業務とその想いを聞いた。

「チャリチャリ」の自転車を運ぶ仕事

西鉄運輸の福岡支店長・坂本さん(左)と、入社時から「チャリチャリ」を担当する山口さん(右)

(坂本さん)
シェアサイクルサービスでは、一部のポートに自転車が多く集まりすぎたり、また別のポートでは自転車が足りなくなったりすることがあります。でも、いつの間にか決まった数だけポートに戻ってきていますよね。利用状況をリアルタイムでみながら自転車をトラックで運び、ポートごとの台数をバランスよく調整しているのが私たちなんです。

(山口さん)
西鉄運輸が担当するのは、福岡のなかでも特に利用者の多い竹下や中洲川端など、博多駅周辺のエリアです。専任の助手とドライバーがペアを組み、毎日7時から14時の間に担当する約40カ所のポートを巡回。チャリチャリ独自の管理システムで、リアルタイムの駐輪状況を見ながら自転車を輸送しています。

業務の様子を本社前で再現してもらった

特に自転車が多く集まる場所はどこですか?

(坂本さん)
やはり博多駅です。駅前からキャナルシティ博多にかけて、博多駅前のエリアは特にポートが集中しています。また、朝は周辺地域から博多駅に向けて通勤の波があり、エリア内に散らばっていた自転車が駅中心部に集まってきます。その自転車を周辺地域に戻していくのが主な流れです。

業務で特に大変なことはなんですか?

(山口さん)
自転車がポート外で見つかる時です。すぐ近くならともかく、チャリチャリの利用範囲外などで見つかる場合もあって……。遠くだと、ピックアップの往復ですごく時間がかかります。その分、ほかのエリアを回る時間が限られてしまうので、できるだけポートに停めてもらえるとありがたいですね。

また、チャリチャリの自転車にはGPSがついていて、居場所が常にわかるようになっているのですが、マンションや建物の影になっていて信号がうまく拾えず、GPSの場所に自転車がないこともたまにあります。昔に比べると、今はGPSの精度がかなり上がったので、めったになくなったんですけどね。

あとは、ポートで作業していると、「自転車が歩道にはみ出している」と通行人の方からおしかりを受けることもあります。邪魔にならないよう、作業前にきちんと並べ直すようにしているのですが、台数が多いと間に合わないこともあるんです。

むむ、なるほど……。一人のユーザーとして、あらためてポートにきれいに停めようと思いました。

(坂本さん)
最近は電動タイプが人気で台数が増えて、やや力が必要と言いますか……。普通のタイプよりちょっと重たいので、運ぶのも大変なんです。

普通の自転車とどのくらい違うんですか?

(坂本さん)
普通の自転車は約20kg、電動タイプは約27kg。7kgも違うんですよ。

そ、そんなに!

電動タイプ(手前)と通常タイプ(奥)

創業時からのパートナーとして

2018年2月、チャリチャリの前身である「メルチャリ」が、福岡市との共同プロジェクトとしてシェアサイクルサービスをスタート。事業開始前に、福岡の物流事情や交通事情について相談を受けたのが西鉄運輸だった。

(坂本さん)
「(当時)メルチャリ」さんの事業内容は、今までにない交通サービスだったので、最初は「こんなことできるのかな?」と心配もありました。でも、実現できれば利用者にとってはうれしいサービスですし、社会に対して大きなインパクトがある。そのスタートの地が福岡で、拠点も移されて本格参入されるというのもすごいことだと思っていました。

どんな話から協業することに?

(坂本さん)
最初は、地元密着で事業を展開する企業として、福岡の物流事業について情報交換するところから始まったと聞いています。それから輸送の依頼を受け、最初は博多区だけでなく、西区や中央区などすべてのエリアの輸送を西鉄運輸のみで担当していました。

当時はまだ台数が少なかったので広範囲でも車1、2台で対応できていたのですが、エリア・台数拡大に合わせて、今は私たちの拠点が近い博多区だけを担当しています。

チャリチャリの創始者である家本賢太郎氏(neuet株式会社・代表取締役)も、前回の日髙との対談記事(https://nnr-nx.jp/article/detail/112)で取材した際、西鉄運輸との関わりついてこのように語っていた。

(Charichari 家本さん)
福岡で「交通」と言えば、西鉄電車・バスを運営する西鉄さんです。福岡市で事業を展開するなら、まずご相談したいと思い、話を聞きに行きました。特に担当の山口さんはすごくいい方で、創業当初から今でもずっと私たちを支えてくださっているんですよ。

チャリチャリで特徴的なのは、改善スピードを上げ、コストを抑えるために、自社で車体の設計、製造、管理、運営のすべてを手掛ける「垂直統合」で事業を展開していることだ。自転車の輸送についても、西鉄運輸は例外として、現在はすべて自社内で業務を担っている。つまり、西鉄運輸だけが唯一の外部パートナー企業なのだ。

(坂本さん)
事業が始まったばかりの頃に続けていたのが、週に1度のミーティングです。業務全般について意見を交わし、システムや専用端末のUI・機能についてのフィードバックを重ねてきました。今はチャットでのやりとりがメインですが、それは創業時にとことん業務をブラッシュアップできたおかげだと言えます。

「チャリチャリ」さんにとって、心強い“相談役”なんですね。

(坂本さん)
現在も、エリア拡大などの際は相談を受けることがあります。また、中国地方から九州へ、九州から本州へなど、福岡県外のサービス展開エリアに自転車を運ぶ依頼を引き受けることや、「チャリチャリ」用の自転車を倉庫で保管することもあります。

こうして役に立てるのは、物流全般の機能があり、全国に拠点があるからこその強みだと感じています。

「チャリチャリ」さんとは、日ごろどのようにやり取りを?

(山口さん)
私たちが使う専用の端末があり、作業をしながらチャリチャリさんと常に連絡を取り合っています。端末からは、自転車やポートの状況がリアルタイムで閲覧でき、現場の状況が一目でわかります。

輸送する時は、端末で自転車情報を読み込む。移動先でも同様に操作してシステムに反映させる。
1台ごとの充電状況までわかる

チャット機能もあるので、相談や報告があればすぐに連絡する。わからないことやトラブルがあっても、その都度コミュニケーションが取れるので、基本的にすぐに解決できます。

先方からは、回収指示などが届くのでしょうか?

(山口さん)
いいえ。依頼があるわけではなく、ポートごとの駐輪数を見ながら私たちの判断で自転車を移動させているんですよ。

赤色が台数が超過しているポート

リアルタイムで自転車の位置情報を見ながら、状況に応じて効率的に対応していくのはとても大変だと思います。そんななか、日々の業務で大切にしていることを教えてください。

(山口さん)
チャリチャリを運営するneuetさんと、現場で動く私たち。遠隔で働くからこそ、大切なのは信頼関係だと思います。信頼を生み出すのはやはりコミュニケーションで、質も量もどちらも大切だと実感しています。
連絡を取りやすい環境を用意してくださっているので、すぐに課題や疑問を解決できるのも、信頼関係の構築につながっていると思います。

協業から生まれる働きがい

福岡市博多区東光にある西鉄運輸本社

福岡に本社を構え、関東・関西・中国地方など全国に20カ所以上の拠点を構える「西鉄運輸」。「運輸」と聞けば、一般的にはトラックによる輸配送のイメージが強いが、業務内容は実際もっと幅広い。

物流センターの運営(ロジスティクスサービス)や陸上・航空運送サービス、引越サービスのほか、家電リサイクルサービスやPCB廃棄物輸送サービスなど。顧客の要望に合わせて最適な「物流」を提案し、その環境をコーディネートする「総合物流会社」として、さまざまなサービスを提供する。そのうちのひとつが、シェアサイクルサービス「チャリチャリ」の自転車の輸送なのだ。

「チャリチャリ」の仕事を通して、会社やご自身に変化はありましたか?

(山口さん)
入社以来ずっと担当しているのがチャリチャリの仕事です。チャリチャリが大きくなる前から知っているので、利用者が増加していくのをまるで自分のことのようにうれしく思えています。社内でも、最初はチャリチャリを知らない人もいましたが、今では一部門として存在感が出てきたと思います。

(坂本さん)
私が糸島支店に行く前はまだ実証実験の段階だったのですが、去年福岡支店に戻って来たら、市内にチャリチャリがあふれているのに驚きました。急拡大・急成長を遂げたサービスに携わることができ、やりがいを感じています。

通常の運輸業務はすでに仕組みがあるのが当たり前ですが、チャリチャリの事業では会議と試行錯誤を繰り返しながら仕組みをつくり、サービスをゼロから組み立てる経験ができました。めったにない、貴重な機会ですよね。

2024年4月には、福岡県久留米市でのサービスが始まる「チャリチャリ」。拡大の舞台裏で活躍する西鉄運輸の成長も楽しみだ。

坂本 剛一 さん

西鉄運輸株式会社 福岡支店 支店長
大学時代、引っ越しのアルバイトを経験したのをきっかけに、1999年11月に入社。糸島支店(支店長)、筑後支店勤務を経て、2023年4月から福岡支店へ。

山口 拓郎 さん

西鉄運輸株式会社 福岡支店
アルバイト勤務を経て、2018年4月に入社。入社当初から「チャリチャリ」に関する業務を担当する。父は西鉄運輸勤務歴20年以上のベテランドライバー。

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