目で見えないから把握しづらい…… 「デジタル遺産」の申告漏れにご注意を!

デジタル資産の特徴は?

皆さんは、両親がどのようなデジタル遺産を有しているかを、把握しているでしょうか?

通常の相続財産の一つである不動産は、実物を目で見て把握することができます。銀行預金も通帳やキャッシュカードによって、その存在を目で見て把握することができます。その一方で、デジタル遺産は通常、本人(被相続人)にしか把握できない情報によって管理されているため、スマートフォンなどのデジタル機器のロックを解除しないと把握できません。したがって、情報を確認するには、パスワードや生体認証などが必要となることがあります。

デジタル遺産の種類は多岐にわたり、ネット銀行やネット証券の口座、FXの取引、仮想通貨、スマホ決済サービスなど、私たちも利用している可能性のあるものが多数を占めます。そして、これらの存在をさらに把握しづらくしている要因として、デジタル遺産の取引に郵便物など紙面での通知等が使用されないことが多い点が挙げられます。

そのため、存在の有無はそれぞれのアプリで確認したり、クレジットカードや預金口座の取引履歴、メールのやりとりから把握したりする必要があります。

デジタル資産を把握できなかった場合の影響は

デジタル遺産を把握することができず、遺産分割や相続税の申告後にその存在が発覚した場合に、想定される主な影響は以下のとおりです。

(1)遺産分割協議のやり直し

遺産分割協議の後に、未確認のデジタル遺産の存在が発覚した場合には、その分について、遺産分割協議のやり直しを必要とする場合があります。遺産分割協議は、相続人全員が協議し、遺産分割協議書に署名押印する必要があるため、相続人全員のスケジュール調整をする時間と手間がかかることになります。

(2)デジタル遺産に損失が生じる可能性がある

相続財産としてのデジタル遺産の評価を行ううえでは、原則として「相続発生時の時価」が適用され、相続税額が計算されます。仮に、デジタル遺産の把握が遅れ、デジタル遺産の価値が大幅に下落した場合には、相続人が受け取る金額と相続税の負担との間に、実質的に損失が生じる可能性があります。

(3)期限後申告等によるペナルティー

デジタル遺産の把握時期にもよりますが、「相続発生を知った日の翌日から10ヶ月以内」である相続税の申告期限を過ぎてしまった場合には「期限後申告」、申告後に修正が必要な場合には「修正申告」などが必要となります。それぞれの状況に応じて、加算税や延滞税などの、追徴課税というペナルティーが課されます。また、ほかにも税務調査により申告漏れを指摘され、重加算税などの重いペナルティーが課されることもあり得ます。

(4)サブスクリプションサービスなどの解約漏れ

映画や音楽などのサブスクリプションサービスによる課金は、基本的には利用者からの解約手続きがないかぎり、自動更新されるものがほとんどで、相続発生後も課金が継続されてしまいます。解約手続きまでの期間が長くなればなるほど、無駄な費用負担が発生することになります。

デジタル資産の把握をスムーズに進めるために

相続が発生した場合に、デジタル遺産の存在を遺族がスムーズに把握するためには、準備が必要です。ここでは、生前に実践可能な方法を確認してみましょう。当然ながら、親族との普段の関係性や本人の意向を踏まえて、それぞれに合った準備を進めておきましょう。

(1)本人(被相続人)が生前に親族(相続人)にデジタル遺産の存在を伝えておく

デジタル機器等のロックの解除方法や、利用しているアプリの情報なども生前に伝えておくことで、いざというときにスムーズに対応できるでしょう。

(2)エンディングノートや遺言書にデジタル遺産の存在を記載しておく

親族への伝達方法としては生前の伝達だけでなく、エンディングノートや遺言書に残しておくことも有効です。また、あらかじめ財産目録にまとめておいてもよいでしょう。

(3)利用していないサービスの解約など、常に見直しを心掛ける

利用していないサービスが解約されないまま放置されているケースなどは、往々にしてあるものです。都度見直しや解約をしておくと、普段の無駄な費用負担の軽減とともに、生前整理がなされて相続財産の構成がスリム化され、その把握がしやすくなります。

(4)死後事務委任契約を締結しておく

生前に「死後事務委任契約」を、弁護士や司法書士などの専門家と締結しておくこともできます。そうすることで、遺族が相続発生時の事務負担を減らすことができます。ただし、専門家と契約する場合に、一定の費用負担が必要となります。

まとめ

相続財産といえば、不動産(土地、建物)や現預金、有価証券等が代表的なものといえるでしょう。今後は、現物を把握しづらい(目に見えない)デジタル遺産の全体に占める構成比が、現物を把握できる(目に見える)財産よりも高まっていくものと想定されます。

現状においても、相続財産を把握する際には常に、デジタル遺産が存在することを想定して、スマートフォンのアプリやメール等のやりとりから、その存在を明らかにしていくことが重要であるといえます。

執筆者:高橋庸夫
ファイナンシャル・プランナー

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