社説:地域交通の再生 全国が注視する滋賀「交通税」

 滋賀県は新年度から、鉄道や路線バスなど地域の公共交通を支えるための新たな税「交通税」の導入に向け、検討を本格化させる。

 三日月大造知事は「額や規模、負担のありようを示す」と述べ、制度をより具体化して県民に提示する考えだ。

 交通税は、地域公共交通を利用しない人にも負担を広く求める制度である。鉄道やバスを単なる移動手段でなく、道路などと同じ「社会インフラ」と捉える。人口減少が急進する日本で、地域交通を守り残す手段として発想は理解できる。

 各地で山間部はもとより、都市近郊でもバスなどの減便や路線廃止の動きが著しい。利便性の低下が、乗客離れを加速させる悪循環に陥っている。滋賀の試みは全国的に注視される。

 地域交通にいかなる役割を求め、どう持続的に支えるのか。新税導入を巡る議論を、滋賀の将来像に合った交通の形を考える契機としたい。

 2040年代を見据えた「地域交通ビジョン」づくりを進める滋賀県は昨年末、地域交通の維持に必要な費用を試算した。県内の鉄道やバスを県民が理想とする便数に充実させる場合、年間最大で127億円が必要という。現状維持でも25億円が要るとした。

 24年度当初予算案に、県が地域公共交通の維持・活性化に充てる費用として計上した12億円を大きく超える。国からの支援も一定程度は見込めるとはいえ、独自の財源確保は避けて通れない。

 試算の背景には、県民の交通満足度の低さがある。県が毎年実施する世論調査によれば、23年度まで13年連続で「公共交通」が不満度の1位だ。

 一方、交通ビジョンの策定に向け昨年行った対面調査で9割超が「公共交通が必要」とした。ただ、鉄道やバスの利便性維持・向上に新たな負担が必要になる場合の望ましい方法について、「県民全員の税負担」とする回答は3割だった。

 地域交通の維持・充実には新税負担が必要との認識や理解は十分でないことを、県は踏まえなければならないだろう。

 「地域の足」を担う民間の交通事業者には、すでに国や自治体から補助金が支出されていることが少なくない。

 新税負担で公金を追加投入するなら、まず事業者の効率性や工夫が問われよう。地域交通の将来ビジョンを描くことと併せ、その経営実態について情報公開と説明を尽くす必要がある。

 県内では、バス路線が廃止された地域で住民自らがコミュニティーバスを運行するなどの活動が生まれている。他方、運転手不足といった課題も大きい。

 県には、事業者を支える視点にこだわらず、地域特性に応じた代替手段や新増設も含めた幅広の発想を求めたい。

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