地下鉄サリン事件発生から29年 遺族ら法務大臣、公安調査庁長官に要望書を提出「賠償金未払い」の早期解決など訴え

会見を行った被害者の会の高橋シズヱさん(左)仮谷実さん(右)(3月18日都内/弁護士JP)

死者14人、負傷者約6300人の被害を出した、世界でも類を見ない無差別テロ事件となった地下鉄サリン事件発生から29年を迎える3月20日を前に、遺族らが小泉龍司法務大臣、浦田啓一公安調査庁長官と面会し要望書を提出、未払いとなっている被害者らへの賠償金の支払いなどを求めた。

滞る被害者への賠償金

オウム真理教の後継団体とされるアレフに対し、オウム真理教犯罪被害者支援機構が賠償金の支払いを求めた裁判では、2020年11月に最高裁が上告を棄却、約10億2900万円の支払いを命じる判決が確定しているが、被害者への弁済は滞っている。

令和元年に約12億9000万円あったとされるアレフの資産は、約2000万円まで減少しているが、「支払いから逃れるための“資産隠し”の意図があるものと思われる」(公安調査庁『内外情勢の回顧と展望』)とも指摘されている。

18日、要望書提出後の会見で、被害者の会代表世話人の高橋シズヱさん(地下鉄サリン事件で営団地下鉄(当時)霞ケ関駅助役であった夫を亡くす)らは、支払いについて早期の解決を訴えた。出席者のひとり、オウム真理教に拉致され死亡した目黒公証役場元事務長の長男、仮谷実さんは、新全国犯罪被害者の会(新あすの会)でも活動しており、「被害の回復として、被害者側が全部民事の裁判で勝ったとしても加害者側は、払わない、 “払う意思がない”というのが圧倒的に多い。やはり国の方が動いてもらわないと、なかなか加害者を被害者が追いかけ、追い詰めるのは難しい」と賠償に関する被害者個人での対応の難しさについても語った。

後継団体の観察処分の継続も求める

現在、オウム真理教の後継団体は、前出の主流派と呼ばれる「アレフ」、上祐史浩氏が率いる「ひかりの輪」、この2団体と一定の距離を置きつつも麻原元死刑囚への絶対的帰依を堅持する「山田らの集団」に分かれており、この3つが観察処分の対象になっている。

団体規制法に基づき、組織や活動の現状について、3か月ごとに公安調査庁長官へ報告することが義務付けられているが、アレフなどは度々報告しない、その内容の不正、さらには報告しないこと自体を正当化する主張を繰り返すなどの「非協力姿勢」を示し、公安調査庁は再三忠告を行っている。

要望書では、これらオウム真理教後継団体の観察処分の継続、事件の記録・資料のアーカイブ化なども求めている。事件から29年という長い年月が経過、高橋さんは事件の風化についても懸念している。

「今29歳の人がリアルタイムでは知らない事件となり、あったことは分かっていても、どれだけ大変な事件だったかということは理解できないと思います。話しても、実感として受け取ってもらえない。この状況をなんとか国にしてもらいたく、(アーカイブ化については)情報提供などは協力しますので、とお願いしました」(高橋さん)

事件で殉職した職員二人を追悼する霞ヶ関駅構内のプレートに高橋さんの夫の名が刻まれている(弁護士JP)

「被害者の立場を理解していただいている」

今回、要望書を受け取った小泉法相は、事件当時財務省(旧大蔵省)に勤務。当日は霞ヶ関駅行きの地下鉄に乗車していたが、出勤が30分遅れたことで発生現場を逃れたという経験をしている。そのような背景もあり、会見に同席した宇都宮健児弁護士(オウム真理教犯罪被害者支援機構理事長)も「(要望については)被害者の置かれた立場については理解していただいているという感触を得た」と提出への反応について話した。

その上で、「30年近くもたち、事件を知らない若者がたくさん出てきている。国民全体にも今一度この問題への理解を深めていくことが非常に重要。30年(来年)に向けて、もう一度さまざまな取り組みを具体的に行いたい」(宇都宮弁護士)と今後についての決意を示した。

被害者の高齢化にも懸念する宇都宮健児弁護士(3月18日都内/弁護士JP)

3月13日、崇拝の対象になり得ると国が引き渡しを拒否していた、オウム真理教元代表の麻原元死刑囚の遺骨や遺髪を、東京地方裁判所が所有権がある次女へ引き渡すよう命じる判決が出るなど、事件から29年経てもさまざまな場所で問題は収束していない。

明日20日、多くの被害者が出た東京メトロ霞ケ関駅では献花が行われる予定となっている。

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