押し寄せる津波、失われた町の風景…「涙が止まらなかった」 東日本被災女性の絵本を紙芝居に 京都の男性が各地で上演

絵本の原画を生かし、縦型で作られた紙芝居

 京都府京丹波町口八田の創作紙芝居師小川よしのりさん(37)が、東日本大震災で被災した女性が描いた絵本から新たな紙芝居を制作した。依頼に応じて近畿各地で上演しており「紙芝居を通じて被災地に思いをはせるきっかけをつくりたい」と意気込む。

 原作は、宮城県南三陸町出身の工藤真弓さんの絵本「つなみのえほん ぼくのふるさと」。雪の降る中、目の前まで押し寄せる津波から家族で必死に逃れる様子や、慣れない避難所での生活、失われた町の風景など実際の体験を元に自身や家族の心理描写を、五行歌を織り交ぜながら描く。

 紙芝居化は昨年秋、茨城県からの避難者で、防災イベントを手がける川﨑安弥子さん(56)=京都市伏見区=が、小川さんに絵本の読み聞かせを依頼したのがきっかけ。初めて作品を読んだ小川さんは「自分の子どもと一緒に読みながら、涙が止まらなかった」というほど感じ入った。

 ほどなく「読み聞かせではなく、紙芝居にしたい」と川﨑さんに打診。オンラインで工藤さんと対話を重ねながら、せりふを紙芝居仕様に仕立て直した。絵本の原画を生かすため、紙芝居を縦型にするなど工夫して、約2カ月かけて完成させた。

 1月下旬に開いた京都市下京区の下京いきいき市民活動センターでの初上演では、登場人物の特徴や五行歌を柔らかな語り口で表現し、家族連れらを中心に物語の世界に引き込んだ。子ども2人と観賞した同市下京区の30代女性は「同じ子どもを持つ母親として、被災者の心情やその変化がそのまま伝わってきた」と、感慨深げに話した。

 紙芝居は今後も、神戸市や府内各地の防災イベントなどで披露する予定。小川さんは「津波の恐怖だけでなく、ふるさとへの思いといった温かさが感じられる作品。絵本とは違った味わいを感じてほしい」と話している。

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