中山道踏破コース~恵那駅周辺編

坂の上交差点から恵那山を望む

前回の記事でご案内した「西行硯水公園」から中山道沿いに恵那駅方面に歩を進めると、神明神社や昔近隣で茶屋を営んだという「水戸屋」の末裔が経営する「カフェ中山道水戸屋」、豊玉稲荷大明社などを過ぎて「坂の上」という五差路に差し掛かります。
この交差点を過ぎて中山道は線路沿いへと近づき、街中を通過していきます。

坂の上の交差点を過ぎるためには歩道橋を使います。中野観音堂と書かれた方に進むと、途中遥かにそびえる恵那山が電線の向こうに見えてきます。
標高2,191メートル、古くは胞衣山と呼ばれ、「天照大神がここで降誕されその胞衣(えな、胎盤のこと)がこの山に埋められた」と言われた恵那山は、中津川市街や恵那市街を見下ろし、その歴史の深さから今も山岳信仰の対象となっています。

中野村入口の見どころ

歩道橋を下りて恵那駅方面へと進み、中山道は一つ目の信号で右へとカーブを切ります。その先に見えてくるのが「長島橋(おさしまばし)」。さらに奥に中野の観音堂があります。
少なくとも江戸時代からここに存在していると言われている中野観音堂は、阿弥陀如来立像をお祀りし、弘法大師像や三十三観音像なども安置されていて、昔から人々の信仰を集めてきました。観音堂の脇には寛政8(1796)年に建立された秋葉灯篭があり、さらにその隣には高札場の跡もあります。

現在も地域の方々が清掃をするなど、大切に守られている場所です。

観音堂から少し進むと、右側にひっそりと「浸水防止壁」が置かれています。先ほど通り過ぎた長島橋はその昔は「洗ひ橋」と呼ばれていて、大水のたびに水が乗りこし、時には流失することもあったそうです。
増水しやすい地形への対策として、道の両側に幅広く溝を彫った石柱を立て、この溝に厚板をはめて水が本町に流れるのを防いだそうで、その壁の型が今も残っています。

浸水防止壁の並びの立派な邸宅は中野村の庄屋の家で、屋号は本酒屋。文久元(1861)年、皇女和宮降嫁の際には街道の整備や警護のため、この邸宅が郡奉行らの宿泊所となりました。
この時奉行は野井村に人足30人を出すようにと命令しましたが、本来大湫宿の助郷村であった野井村にはその義務はなく、強制的に命令に従わせられたものの、今後同じことが起きてはならぬと、野井村百姓代熊崎新三郎は本酒屋の離れに乗りこみ、奉行に斬りかかりました。
熊崎新三郎の願いは果たされなかったものの、その後裁判が開かれ、最終的には野井村が勝訴。野井村の民は新三郎を義民として称えたそうです。

本酒屋を過ぎ、しばらくは軒先に吊るされた灯篭の「中野村」の文字や、昔懐かしい看板などを見ながら、中山道を進んでいきます。
広い道路を渡ったあとは今も現役で使われている年代物のポストを通り過ぎ、中山道と駅前通りとが交差する中央通り1の交差点へと続きます。

中山道と駅前通り

中央通り1の交差点の手前右側に「中山道大井宿広場」があります。平成24年に整備されたこちらの広場の辺りは、明治に入るまでは田畑や原野が続き、大井宿周辺の人々からは「橋向こう」と呼ばれていました。
明治以降「橋向こう」にも中山道を挟んで家々が建つようになり、明治28年には「新町」と名を改め、以降交通の要衝となり、商業地として発展を遂げてきました。

店頭に昔懐かしい写真を飾る和菓子屋「菊水堂」の向こうは駅前通り。昔はこの道に沿って岩村電気軌道が走っていました。
明治35年に国鉄中央線大井駅が開業し、その翌年から工事が始まったのが岩村電気軌道。岩村町出身の浅見与一右衛門が15万円の私財を投げ売り、地元のためにと敷設しました。
明治39年に運転が開始されたこの電車は、岐阜県初の「電車」であり、国内でも7番目に開通した電車であったそう。城下町として栄えた岩村に新たな力を与えるに値するものでした。

この先中山道はいよいよ大井宿の中心に差し掛かります。東銀座を超えると阿木川にかかる大井橋が見えてきます。

大井橋と河原の榎

阿木川はその昔大井川と呼ばれていました。大井川は大変な暴れ川で、かかっていた橋は何度となく流されたそう。大井橋も流されるたびに強化され、一時は切り石を組んで作った中島を川の中程に築き、これを中継点として二つの端を架ける「中島橋」と呼ばれる構造になっていました。

現在の大井橋には、中山道の宿場町が生き生きと描かれている歌川広重の「中山道六十九次」の版画のレプリカが欄干に飾られています。

橋の東に大きな榎があり、その根元にほこらが祀られています。これは江戸時代の終わりごろに大井橋下流の河原で起きた事件で亡くなった人をとむらうためのもので、濡れ衣を着せられ殺された人の怨念が宿って一代目の榎は枯れてしまい、今の榎は二代目だそうです。

ここから大井宿本陣までの「中山道踏破コース~桝形編」は後日公開します。いよいよシリーズラスト!

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