『マルス』最終話の激突は“傍観者”へのアンチテーゼに 道枝駿佑による新たな主人公像

クロッキー社の國見(江口洋介)と“ゼロ”こと美島零(道枝駿佑)が率いる動画配信集団“マルス”の闘いについに決着がついた『マルス-ゼロの革命-』(テレビ朝日系)最終話。

國見は常にマルスのことを試すような言動を繰り返してきていたが、彼の思惑は“マルス”がウイルス除去アプリ「ゼウス」を奪還するところまでだったようだ。骨抜きになってしまった今の日本の若者らを嘆いていた國見が、唯一この国の未来を託してもいいと思えたのがマルスだったのだろう。

そしてそれをわかった上で、エンダーグループの会長・西城澪子(原田美枝子)はゼロをサポートしていた。ゼロが西城に差し出した木箱の中身は、生前の倉科エリ(大峰ユリホ)が彼女から贈られたもので、エリが繋いだご縁だった。そうやって運命は数珠繋ぎのように連なっている。

“ウド”こと大城大木(戸塚純貴)が残した意味深な伝言の「マルスの魂が眠る場所」はエリの墓前で、ゼロと國見は「ゼウス」が保管されたデータを奪い合い、結果軍配はゼロに上がった。そしてマルスがサイバーテロ犯だという汚名も返上できた。

しかし、何より彼らがマルスでの革命を通して得たものは、ネットでは知ることができない仲間と過ごす濃厚でリアルな日々だった。そしてその中でダダ漏れる感情やダイレクトに刺さる喜怒哀楽。自身の危険も顧みず仲間の使命や夢を優先して送り出せる、そんな関係性だ。

“アイコン”こと逢沢渾一(板垣李光人)が校内放送を通して訴えた「相手の痛みを知って人は初めて優しくなれる」というメッセージは、ネットだけで世界を、人間を知った気になって、流れてくる断片的な情報だけで人を断罪するような者への痛烈な批判を感じさせる。ネットの画面越しに自身は安全な場所からジャッジするばかりで、自分自身がバッターボックスに立つことは決してない。本作は、失敗した人や間違えた人の揚げ足をとって楽しむ悪趣味な匿名の傍観者へのアンチテーゼにもなっていた。

それを象徴するかのように、ゼロと國見は現実社会ではなかなかないほど生身の人間同士、これでもかとぶつかり合う。ネット上だけでやり合う空中戦ではなく、高校生と今をときめく一大企業の社長が直に対峙するぶつかり稽古のような姿が新鮮に映った。

白い狼の着ぐるみの下に繊細さを併せ持ちながらも自身を奮い立たせ、仲間のことを牽引するゼロは、改めて道枝にしか務まらなかったことを思わせる。センターにいながらも、その正体や本心までは掴み切れないミステリアスさを秘めた“神出鬼没なヒーロー”という新たな主人公像を作り上げた。クールでいながら、彼には関わる人の心に“小さな革命”の灯火を着火させるような不思議な魅力と引力がある。

彼らの革命を目の当たりにしてアイコンが声を振り絞って紡いだ言葉が現実になることを、切に願う。

「隣にいる君に手を差し伸べたい、そばにいるあなたの力になりたい、そうやって誰かを思いやれる力があればこの世界はきっと変われるはず」
「誰もがもっと他人を労われる優しい世の中でありますように」
(文=佳香(かこ))

© 株式会社blueprint