『リビングの松永さん』中島健人がシェアハウスを去る ミーコを守るための松永の決断

「両思い」の先にあるのは「付き合う」選択肢だけではない。付き合わなくても、触れなくても、顔を見るだけで元気になれる。そんな相手がいることの幸福をドラマ『リビングの松永さん』(カンテレ・フジテレビ系)は教えてくれる。

第10話のエピソードで松永(中島健人)は、自身の心の奥底に秘めていた想いを受け入れ、美己(髙橋ひかる)への愛を告白した。シェアハウスに戻った松永は、凌(藤原大祐)にも美己へ告白したことを伝える。告白したことを凌に隠すこともできたはずだが、あえて正直に打ち明けた松永。嘘はつかずに真っ直ぐにぶつかるフェアな姿勢は、第1話からずっと彼の魅力として描写されてきたものである。

一方、あかね(大久保桜子)らシェアハウスの友人たちからも祝福され、松永との相思相愛に喜ぶ美己は幸福感に包まれている。しかし、松永から「保護者のような立場で恋人にはなれない」と言われ、「同居人以上、恋人未満」という関係性に戸惑いを感じている一面も。

ペットボトルを取ろうとして手が重なっただけでも、「身体的接触はまずいよな……」と悩む松永。一方で美己は「でもこれは手が触れちゃっただけだから……」「すき!」と、すでに松永への溢れんばかりの気持ちで頭がいっぱいになっている。何はともあれ、美己はまだ高校生。純粋に松永への想いを募らせていく彼女にとって、この状況は複雑で難しいものだ。

また、シェアハウスでは、「健ちゃんとはお試しでキスしただけだから」という朝子(黒川智花)の大人な恋愛スタンスが対比として描かれる。美己との距離感に悩む松永の堅苦しさに苦笑いする朝子だが、その“ぎこちなさ”には覚えがある様子。

それは朝子自身が、水族館でのキス以来、健太郎(向井康二)に対して気持ちが変化し、以前のように話せなくなっているから。「両思いでも付き合えない」こともあるし「キスをしてから確かめる」恋もある。年上女性ならではの朝子の恋愛観が、若い2人のプラトニックな関係性を浮き彫りにしているのも面白い。

そんな中、松永は大きな広告コンペティションへの参加が決まり、成果を残すべく奮闘する。まさに「顔を見るだけで元気が出る」と言わんばかりに、松永が扉を閉めた後に、嬉しさでくるっと回ってしまう美己の姿が愛くるしい。

これまでも高橋ひかるの“かわいすぎるミーコ”には惹かれるものがあったが、松永と思いが通じ合ってからはモノローグのセリフの“乙女度”が増しているようにすら思える。松永に告げた「美己を泣かせたら許さない」という凌の言葉は、ここまで美己を見守ってきた私たち視聴者の心情とも言えるかもしれない。

しかし突如、和歌山から朋子(映美くらら)が現れ、事態は思わぬ方向へと進む。イルミネーションでの2人の様子を、美己の父に目撃されていたのだ。朋子に対しても嘘をつかず、「俺は美己さんのことが好きです」と正直に心のうちを吐露する松永は、やはりどこまでもフェアな男だ。

それでも朋子の許可を得られず、現実の壁に阻まれた2人の関係性は、新たな局面を迎える。美己を連れ戻すと言い出した朋子の言葉を受け、松永は突如自分がシェアハウスを出て行くことに。美己の保護者の役割を健太郎に託し、「ミーコとはもう会えない」と覚悟を決める。松永の決断は、美己を守るための選択であり、彼なりの愛情表現なのかもしれない。

それでもやはり、私たちはリビングで美己を待つ松永さんが見たいのだ。不器用で、頑固で、どうしようもなく優しい。そんな松永が居るリビングの光景が、我々にとっては週1回の癒しなのである。いよいよ迎える最終回、松永と美己はどんな結末を迎えるのだろうか。あわよくば、美己の最高の笑顔で飾られるラストであってほしいと願わずにはいられない。

(文=すなくじら)

© 株式会社blueprint