え、ホントに誰!? 初対面の幼児が寄ってきて「パパ~」…真相は〈幼児の言語習得プロセス〉にあった

(※写真はイメージです/PIXTA)

非英語圏の赤ちゃんでも「パパ」「ママ」という言葉を使うのはなぜなのか。幼児が初対面の男性を「パパ」と呼ぶことがあるのは、なぜなのか。こうしたささいなところにも、“納得のいくきちんとした法則”が存在します。関正生氏の著書『カラー改訂版 世界一わかりやすい英文法の授業』(KADOKAWA)よりコラムを抜粋し、見ていきましょう。

なぜ赤ちゃんは「ママ・パパ」と言うのか?知れば納得の“法則”

赤ちゃんは自分の親を「パパ」「ママ」って呼びます。日本でもアメリカでも英語を話さない多くの国でも、です。なぜでしょうか? さらに、「バーバ」とは言えるのに、「ジージ」とは(しばらくの間)言うことができません。一体なぜでしょうか?

ためしに言ってみてください。おっきな声で「ママァ!!」って。周りに人はいませんか? ではもう1回。口の、どの部分を使っているかを意識してみてください。「ママ!! パパ~!!」

わかりました?

唇を使ってますね。上の唇と下の唇が一度くっついて離れるその瞬間に出る音が「マ」「パ」「バ」なんです。赤ちゃんには歯がありませんね。だから唇だけで出る音しか話せないんです。

「ジージ」って言ってみてください。唇はくっつきませんよね。「ジ~…」って言うと、歯の裏側に息が当たってるのがわかりますよね? だから「ジ」の音は歯がないと出ない音なんです。

待ちに待った初孫、ついにしゃべれるようになったのに「パパ」「ママ」「バーバ」しかしゃべってくれない。おじいちゃんの目を見て何か言おうとしている赤ん坊。ドキドキしながら何を言うのか期待してたら、「マンマ」…。全国のおじいちゃんはテンション下がりまくりですが、実際は言いたくても言えないんですね。歯がないので、唇だけで出せるマ行、パ行、バ行でしゃべるんです。

こんなささいなことでも、納得のいくきちんとした法則が存在するのです。丸暗記と例外の連続だった英文法も、こうやってきちんと考えるようになると、ホントにスッと頭にしみこむんです。

初対面の男性は「パパ」、野球のバットも「パパ」!?

ボクが大学生のときのことです。コンビニで20代の若いママが3歳くらいの男の子を連れていました。その男の子はフラっとボクの足元へきて、ボクのジーンズをつかみながら言いました。

「パ~パ」

店内は凍りつきます。ボクもビックリ。ボクのことをまったく知らない親子です。

その若いお母さんも一瞬固まって「パパじゃないでしょ!!」

ボクも「おっ、おっ、お~。パパじゃないよな。うん、パパじゃない。きっとパパじゃない」

アセリました…。いまだったら「初めてパパって呼んでくれたね」ってジョークのひとつも言えるかもしれませんが、当時はシドロモドロ…。

その出来事の数ヵ月後、大学で「幼児の言語習得論」に関して課題が出ました。そのため大学の図書館で専門書をあさっていたところ、突然この出来事のカラクリが頭にひらめきました。説明いたしましょう。

幼い子どもにとって、この世界はほんのいくつかのモノにしか分けられないのです。

まずは「ママ」、「パパ」、それと「マンマ(ごはん)」などほんの数種類です。

イラスト:ツダタバサ
出所:関正生著『カラー改訂版 世界一わかりやすい英文法の授業』(KADOKAWA)

ある日、その男の子はコンビニで、ボクを見かけました。さあ、この男の子の世界観で、「ボク」という存在はどこに分類されるでしょうか?

「ママ」じゃない、「マンマ」でもないですよね。そう、「パパ」しかないんです。

つまりその男の子は「パパ」=「背が大きくて、ママよりずっとモサっとした存在」って定義してるんです。間違っても「この男はママを傷つけた悪いヤローだ。ママのカタキはボクがとる。みんなの前で暴露してやるぞ、せ~のっ…パパァ~!!」って言ったわけじゃないのです。

ここで、その男の子は「パパ」と「おじさん」の違いを知るのです。いつもママのそばにいる人が「パパ」で、それ以外の人を「おじさん」って言うんだと。そこでボクに向かって言うわけです。

「おじさ~ん」

「お兄さん」だろ。

さらにその子は「おじさん」と「お兄さん」の違いを知って…。

このように子どもは語彙を増やしていくんです。実は私たちはこうやって苦労しながら日本語を身につけてきたんですね。

ちなみに以前、プロ野球選手のお宅訪問をテレビでやってました。その中で、幼い女の子がバットを見て「パパ」って言ってました。テレビの中でお母さんは苦笑いでしたが、これもその子どもから見たら、バットは「ママ」じゃない。「マンマ」じゃない。ってことで「パパ」って呼んでるんです。バットのことを本気で自分の父親だと思ってるわけないですよね。

関 正生

スタディサプリ講師

1975年東京生まれ。埼玉県立浦和高校、慶應義塾大学文学部(英米文学専攻)卒業。TOEIC L&Rテスト990点満点取得。リクルート運営のオンライン予備校「スタディサプリ」講師。スタディサプリでの有料受講者数は年間140万人以上。

著書は「世界一わかりやすい授業」シリーズ、「大学入試 関正生のプラチナルール」シリーズ(以上、KADOKAWA)など累計350万部突破。またNHKラジオ「基礎英語2」テキストでのコラム連載、英語雑誌『CNN ENGLISH EXPRESS』での記事執筆など多数。

オンライン英会話スクールhanaso(株式会社アンフープ)での教材監修、社会人向けの講演など、20年以上のキャリアで磨かれた「教えるプロ」として、英語を学習する全世代に強力な影響を与えている。

© 株式会社幻冬舎ゴールドオンライン