統廃合の危機にあった広島県安芸太田町の加計高校が、一転して広島県内有数の人気校に。その逆転劇のワケを取材しました。
旅立ちの春。安芸太田町にある加計高校では、3年生27人が卒業を迎えました。その加計高校に ”あるうれしいニュース” が入ってきました。卒業生一人ひとりの表情は達成感に満ちています。そのワケは…
卒業生
「まさか県内1位になるとは思っていませんでした」
ことしの一般入試の志願倍率が広島県内の公立高校で最も高い1.69倍で去年に続き、2年連続の1位となりました。
加計高校は人口わずか5500人の安芸太田町唯一の高校で、うれしい知らせに町の人も大喜びです。
町民
「2年連続、本当にぶったまげーよ」
「町民としては『よっしゃ』っていう感じです」
1学年1学級で全校生徒もわずか100人という小さな高校ですが、6年前に全国から生徒を募集する「地域未来留学」を始め、現在は全校生徒のおよそ4割が県外から集まっているといいます。
いったい、なぜ、全国から加計高校にやってくるのでしょうか?
鹿児島出身の1年生
「やっぱり国際交流がしたくて」
千葉出身の1年生
「国際交流が魅力だと思っていて、ふだん会えないような人、島国などからも学校に来てくれて、こんな人とも話ができるんだと世界が広がります」
アジア・中南米などから外国人の訪問を受け入れ、多い時には1年に100人と交流することも…。また、ハワイの高校とも姉妹校提携をしていて、毎年、2人が約2週間の交換留学ができる制度も整えられているなど、盛んな国際交流活動に魅力を感じて進学先として選ぶ生徒が多いといいます。
さらに、県内で2校しかない「射撃部」は毎年、国体に出場している常連校です。
こうした魅力が人気となっている加計高校ですが、実はかつては定員割れが起こり、統廃合の危機にさらされていました。生徒数は県教委が統廃合などの検討対象とする80人未満が目前になっていたのです。
"県内1位” の倍率に… 大逆転劇のワケ
廃校の危機を乗り越え、逆転劇に導いた理由について加計高校の校長は「生徒たちが主体的に情報発信してくれて、学校の雰囲気を伝えてくれていることは大きいのかなというふうに思います。偏差値などで決めているのではなくて、加計高校でやっていることを見られて、加計高校で高校生活を送りたいというふうに考えられて志望されてる傾向があります」と話し、この春に卒業した3年生が中心になり、国際交流やボランティア活動など、高校の魅力発信に取り組んだ結果だといいます。
3年生の 隠居大介 さんは、兵庫県の中学校出身です。生徒会長を務めるなど立役者の1人として貢献してきました。
兵庫県の中学校出身 3年生 隠居大介 さん
「人数が少ない中で活動に臆病になってしまう時期もあったけど、必死にがんばってきたので」
県外から進学した生徒が暮らすのは人財交流センター「黎明館」。5億円をかけて安芸太田町がおよそ2年前に建設しました。
卒業式の前夜、その学生寮で行われていたのは「3年生を送る会」です。同期や先輩・後輩と家族のような絆をつくることができるのは、寮ならではです。
福岡出身 3年生
「毎日ずっと一緒にご飯を食べて、一緒に学校から帰ったりとか、寮生活だからこそ、ここまで近くなれた」
加計高校が人気の一方… 町が抱える深刻な問題
一方で町が今、抱えるのはある深刻な問題です。
町民は「人口がどんどん少なくなってきている。去年・ことしだと年間で町内で生まれる子どもの数が10人台になってきている」と話します。
子育て世代の流出などで人口減少が進む安芸太田町。現在の人口はおよそ5500人と、20年前と比べ4割近く減少しています。その中で町に明るい兆しをもたらしているのが「加計高校の存在」だといいます。
町民たち
「町としてはほんまに活気や元気をもらえとる思うし、希望の星というか、なくてはならんもんじゃ」
「イベントなんかでもボランティアで加計高校の生徒に出てもらったりとか、わたしたち年取った人間がどういうことをやっているかって見に来られたりもあるので、わたしたちもちゃんとしてなきゃっていう気持ちになる」
地域住民とのさまざまな交流も生まれています。
3月5日、生徒たちは広島駅を訪れました。安芸太田町の住民、乾一心 さんが祇園坊柿などの特産品を販売する店を出店していて、「高校生らしいアイデアで地元のお店を盛り上げたい!」と先月から店の商品を宣伝する活動を始めました。
東京出身の2年生・武田咲香 さんは、「わたしたち高校生でポップを作りました。歩いていて、目を引いて、かわいいとお店に来てもらえるきっかけになったらいいな」と、商品の「棒いなり」のオリジナルキャラクターを考案。かわいいポップを手作りしました。
安芸太田町 みんなの店 乾一心 さん
「みんなが力を貸してくれることが小さなところにも伝わるから、生徒が手伝ってくれて、本当に違うけぇ」
全国から集まった生徒一人ひとりが安芸太田町に活気をもたらしています。
卒業生27人が旅立ち 卒業生の願いとはー
3年生は地域の人に見守られながら学び舎をあとにし、新たな一歩を踏み出しました。
卒業生
「最高の友だちと出会えたし、自分自身もすごい成長できたし、また何かの形で安芸太田町の役に立ちたいと思います」
兵庫県の中学校出身 3年生 隠居大介 さん
「廃校寸前って言われていたのに、今ではもう2年連続で倍率が1位で本当にうれしい気持ちと、また、でもここから次の世代がつなげてくれないと、また戻っちゃうよということをやっぱり伝えていかないといけないと思うので、その役割はもう自分は果たしたかなというふうに思っているので、次の世代に期待をして、また10年後、20年後、ここに戻ってくる場所があればいいなという気持ちです」
卒業生は後輩76人にバトンを託しました。
2年生
「街全体がキラキラ光るような、そんな加計高校にしていきたい」
加計高校はますます進化を続けます。