「常にルーキーでいたい」リリー・フランキー60歳が語る“年齢を重ねる極意”

リリー・フランキー 撮影/山田智絵

イラストやデザインのほか、文筆、写真、作詞・作曲など、多分野で活動するリリー・フランキー。最近では映画やドラマに多数出演し、個性派俳優としても高い評価を集めている。今60歳となった彼の「THE CHANGE」を聞く。【第1回/全2回】

イラストレーターや文筆業であったり、俳優仕事であったり、ジャンルを問わずお仕事をいただいてきましたが、全部、“なんとなく”でここまできました。

僕は結構、受動的というか、「やってみないか」と言われて始まっているんですよ。お芝居にしても、「俺でいいと言うのなら……」みたいな。そういう無責任さというか厚かましさで今に至る、と。

当時は原稿の連載も、依頼が来たら断りませんでした。受けるだけ受けて、書けなかったら……落ちる。もちろん良くないんですが、それを続けていくと、もう「一人殺すも二人殺すも」みたいな感覚になるんですよ(笑)。本当に多いときは月に50本ぐらい連載していたんですけど、そうなると一日に3本書かなきゃ終わらない。

でも不思議とね、そういうときのほうが原稿を落としてないんです。とは言いつつ、連載が1本しかないときにも落としていましたけど(笑)。つまり、忙しさとか媒体とか分け隔てなく、落とすときは落とす(笑)。そんな僕でも書籍が出ていたり、お芝居をやっているっていうのは、何かの巡り合わせがあったからなのでしょうね。

あと、常にルーキーでいたいという気持ちがあります。新しいことをやっているうちは、自分もみずみずしい気持ちでいられますし。知らないことをやっているほうが楽しいですよね。でも、年齢を重ねるとなかなか新しいことを始めるということにためらう人は多いかもしれない。

でも、新しいことを始めたとして、それまでやってきたこと……それがまったく別のことに反映されることもある。お芝居についてだと、映画の連載でたくさんの作品を観てきたというのは、当時、未経験の僕にすごく生かされていました。

人って無理やり大人にさせられていく

うちの母もそうで、年を取ってからカルチャーセンターに行って七宝焼とかいろいろなものを始めたりしていましたが、そういうことってすごく大切だなと。年をとったからいまさらって考え方をすると精神的に老けてしまう。まだまだ知らないことがいっぱいあるんだと自覚したほうがいいような気がしています。

その母ですが、小説(『東京タワー〜オカンとボクと、時々、オトン〜』扶桑社)などでも書きましたが、僕が38歳のときに亡くなりました。そこで僕が喪主を務めまして、なんか喪主って大人だな、と感じました。

その頃は、まだ喪主ってもっと大人がするものだという感覚があったので、人ってそういうふうにして、無理やり大人にさせられていくんでしょうね。

僕の場合は、自分の中での死生観みたいなものはちょっと変わった気がします。それに親とか、妻とかが亡くなって後悔しないおじさんは、多分いないんじゃないですかね。

あのとき、ああしてあげれば良かったなって、どれだけ親孝行していても心残りはあるんじゃないでしょうか。逆に親孝行している人ほど、そう思うんじゃないでしょうか。

母がこの世を去った後に「こんな悲しいこと世の中にあるんだ」という感覚が湧き上がると同時に、なんか渋谷のスクランブル交差点を歩いている人たちすらも、みんな愛おしく思えたんです。みんな、こんな悲しい思いしながら生きているんだ、って。

リリー・フランキー(りりー・ふらんきー)
イラストやデザインのほか、文筆、写真、作詞・作曲、俳優など、多分野で活動。初の長編小説『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』は2006年本屋大賞を受賞し220万部を超え、絵本『おでんくん』はアニメ化。俳優としては、映画『ぐるりのこと。』でブルーリボン賞新人賞を受賞。また、『凶悪』(13/監督:白石和彌)『そして父になる』(13/監督:是枝裕和)では、第37回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞(『そして父になる』)優秀助演男優賞(『凶悪』)ほか多数の映画賞を受賞。

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