母子の部屋は、一階にあるその角部屋である|うさぎの耳〈第一話〉谷村志穂

小さな部屋だ。客間も含めて八つある屋敷の中で、一番と言っていいはずの狭い部屋を、私たちはもらっている。

〈勝手なことを言います。理玖をお願いします。君なら、きっと僕の分まで良き親になってあげられます。僕は今、自分一人すら持て余している状態です。

母も子も、今日は風呂に入るのは諦めた方がよさそうだ。窓から外を見上げながら、私に抱き抱えられていた理玖は、むずかりもせずに、まどろみ始めた。一日くらい風呂に入らなくたって、赤ん坊からは清潔な生命力だけが伝わってくる。

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谷村志穂●作家。北海道札幌市生まれ。北海道大学農学部卒業。出版社勤務を経て1990年に発表した『結婚しないかもしれない症候群』がベストセラーに。03年長編小説『海猫』で島清恋愛文学賞受賞。『余命』『いそぶえ』『大沼ワルツ』『半逆光』などの作品がある。映像化された作品も多い。

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