児童に土下座強要、羽交い絞め…令和にも存在する“暴力教師”なぜいなくならない?

体罰は学校のみではなく社会全体で考える必要がある(榎園哲哉 ※写真はイメージ)

児童に土下座をさせ宿題の提出先延ばしを要望させる、プロレス技のスリーパーホールド(背後から腕で首を絞める)をかけて失神させる。今年1月から2月にかけて、静岡県内の小学校、大阪府内の高校で発生した、にわかには信じられない教師からの暴力行為。

このような報道が未だ後を絶たないが、現実の教育現場では何が起きているのかうかがい知ることはできない。昭和の風景として絶滅したと思われていた“暴力教師”はなぜいなくならないのか。『学校ハラスメント』などの著書もある教育問題の第一人者で、名古屋大学大学院教育発達科学研究科の内田良教授に根底にある要因など聞いた。

暴力行為「表沙汰にならない」

関東で行われたインターハイ(全国高等学校総合体育大会)を報道記者としておよそ20年前に取材した時、一つの光景が衝撃とともに目に入った。ある高校の柔道部監督が女子部員を平手打ちしていたのだ。会場の体育館を多くの観衆、関係者が埋めていたが特にざわつくようなこともなかった。

昭和40~50年代に教育を受けた筆者自身も平手打ちの体罰をよく受けていた。むしろ、それが“当たり前”だった。しかし、そうした体罰、暴力は時代に合わせ減少しているだろうと考えていたので驚いた。

内田教授によると、2012年12月に起きた大阪・桜宮高校バスケットボール部生徒の自死事件が教育における体罰を見直す「大きな転機になった」という。同部の2年生の主将(当時17歳)が自ら死を選んだ原因が、顧問の体罰によるものだった。

2020年2月には、厚生労働省がガイドライン「体罰等によらない子育てのために~みんなで育児を支える社会に~」を発表。そうした背景も受けて、内田教授の下には教員らから、「かつてはビンタなど当たり前だったが、さすがに今はできない、やってはならない」といった声も届いているという。

内田教授は教育現場の体罰の件数について、「明らかに減っている」と語る一方で、「暴力などはなかなか表沙汰にならない。(正確な)件数が分からない。減っていると言っても何かエビデンスがあるわけではなく、減っていると推測される、と答えざるをえない」とも語る。

“指導の一環”だと思われている

学校教育法第11条には、教師は「児童、生徒及び学生に懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加えることはできない」と記されている。しかし、冒頭に挙げた児童へ土下座を強要、首締めで失神させるといった行為に見られるように、実際に教育現場で体罰がなくなったとは言い難い。

そうした理由について、内田教授は、「(体罰を)教育だと思っている。児童に土下座させるのも子どもに反省させるため。指導の一環だと思われている側面がある」と分析。

また、部活動でのレギュラー確保や進学のための内申書への影響などに子どもたちが縛られ、「先生にノーと言えない文化」があるといい、次のように指摘する。

「ノーと言っても先生に握りつぶされ、保護者も『お前が悪かったのだから』と聞き入れない。大人全体が暴力を必要悪として受け入れている。(体罰は)決して学校だけの問題ではない。保護者、あるいは(部活動を経て)卒業後に進むスポーツ界など、体罰を容認する文化が学校の外にもある」(内田教授)

中には“指導”として体罰に対し、「(生徒自身が)自分のためを思ってくれた、励ましてくれた、先生の本気の思いを感じた、立ち直った、と体罰を肯定してしまう」反応もあるという。

さらに、体罰行為が発覚した際の“処分の甘さ”も問題が根絶されない理由のひとつだと内田教授は話す。

たとえば、わいせつ事案の場合、発覚すると2件のうち1件は懲戒免職となるが、体罰は年間数百件が発覚しながらも懲戒免職はほぼゼロ件だという。

「体罰に対する処分は非常に緩い」(内田教授)

教師自身が被害者となるケースも

一方で、教師による体罰・暴力は、それを行う「教師のみの問題ではない」とも内田教授は指摘する。

教師が生徒から暴力を受けたり、ほかの教師、あるいは保護者から暴言を浴びせられたり、自身が“被害者”になっているケースもある。

さらに、いわゆる「ブラック部活動」担当者として、週末も出勤して指導に当たることを余儀なくされるなど、過酷な勤務を強いられる現状も考慮する余地はあるだろう。筆者の知人の元教師も「毎日授業があり有休が取れなかった。部活動(の指導)はサービス残業だった」と過去を振り返り語っていた。

社会全体の問題として考えてほしい

教育・指導の名の下での暴力、体罰に頼らない「クリーンな教育」のために内田教授はまず、発覚した際の教師への処分厳格化を提案する。

威圧して抑え込むしかないような問題のある生徒らには暴力という手段を用いるのではなく、スクールカウンセラーやスクールロイヤー(学校内のトラブル等を解決する弁護士)、スクールソーシャルワーカーなど外部の専門家に委ねることによる矯正、ケアを勧める。

「体罰を容認する文化は、学校の外にも広がっている。(多くの人が)体罰を受けて育ち、暴力的な文化を受け入れてきた。会社やスポーツに関わる中で、過酷な厳しい指導をよしとしていないか改めて問い直す。そして、学校を別世界として捉えるのではなく、日本社会全体の問題として考えてほしい」(内田教授)

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