“金融”は平均で3割減も…統計でわかった「定年後の再雇用」で給料が減る業界

(写真:Taka/PIXTA)

「仕事内容は変わらないのに、定年、再雇用後の給与が6割もカットされたのは不当だ」

そう訴えた裁判が注目を集めている。名古屋高等裁判所の「定年前の6割を下回る給料は不合理」という判決を2023年7月最高裁判所が破棄し、審理を高等裁判所に差し戻したからだ。

「再雇用後は“定年前の6割”が基準になると思っていましたが、もっと低くてもいいという風潮が広まりそうで怖いですね」

そう話すのは人事コンサルタントで新経営サービス代表取締役社長の山口俊一さんだ。現在、従業員が希望すれば65歳まで働き続けられる。雇用確保は企業側の義務だ。なかには、定年制の廃止や定年年齢の引き上げに向かう企業もあるが、「60歳定年で再雇用」を行う企業が全体の7割に及ぶという。

「定年後の給料がもっとも下がるのは、60歳定年、再雇用を行う企業です。世間では3割カットは当たり前、大企業に勤める方が7割カットされたなんて話もよく聞きます」(山口さん、以下同)

公的年金の受給は原則65歳からだ。60歳で大黒柱の収入が減ると、家計へのダメージは大きい。

「実は定年後の給料の下がり方は、業界によって特徴があります」

そこで、労働政策研究・研修機構の調査結果を元に、定年後給与が激減する業界ランキングを作成した。

■50代からの準備で給与減には対応できる

給与激減ランキングの上位は、1位電気・ガスなど、2位金融・保険業、3位卸売・小売業と続く。60歳直前の給料を100としたとき、定年後61歳の年収水準が72前後とかなり厳しい。

「これらは定年前の給料が高い業界です。採用力が高く人材も豊富なので、60代の人材が減っても困らないと考えているのでしょう」

詳細な分析を見ると、5位自動車メーカーでは3人に1人が定年前より3割超も年収が減っている。2位金融・保険業も同様で、3割超の年収カットが3分の1に及ぶ。

「大企業のほうが定年前の給料が高い分、定年後との落差が大きくなります。高収入に慣れた家計には、つらい状況でしょう」

また、6位IT業界など、若い能力や感受性が戦力になる業界も定年後の減収が大きいという。反対に、給料が下がりづらいのは、14位建設業、15位運輸業、16位医療・福祉だ。

「人手不足で人材の確保が難しい業界です。運輸業のたとえばタクシー業界は60代以降が主力ですし、建設業の現場では年長者の資格や熟練の技が必要です。若手の採用も難しく、60代に頼らざるをえない業界なのです」

どの業界で働いていても、60代の給料は確実に減る。私たちは貯蓄に励むしかないのだろうか。

「早めに対策をとれば、給料の減額幅を抑えることができます。50代の方は今すぐ始めましょう」

今から始められる対策を聞いた。

【現状把握と将来像のリサーチしよう】

勤め先の定年制度などを確認しよう。定年後の給料水準は先輩に聞くなどしてリサーチを。

「定年後の先輩方は幸せそうですか? 明日はわが身、そうなりたいかを考えましょう」

【60代以降の選択肢を広げる】

60代以降も給料の減額が少なく、楽しく仕事が続けられそうなら、最後まで勤め上げるといいだろう。だが、幸せな60代が見えないなら、選択肢を広げよう。

「激減ランキング上位の業界や大企業に勤めているなら、中小企業への転職も選択肢の1つです。大企業で定年を迎え給料は大幅減額のうえ窓際に追いやられるのと、中小企業でそれなりの給料と責任あるポジションのどちらがいいですか。やりがいのある職業人生を選ぶ手もあります」

【お試し副業にチャレンジ】

いきなり転職はリスクが大きい。まずは副業から始めてみよう。

「副業OKの会社も増えていますし、プロジェクト単位での求人も多い。これまでと違う職種、やってみたかった仕事を試してみるのもおすすめです」

【必要な資格は50代で取ろう】

60代でも稼げる社会保険労務士や行政書士などの資格への挑戦も一案だ。

2級の人が1級にトライするなど、50代のうちに仕事に直結する上位資格を取得しましょう。給料の減額幅を抑えられることも」

【定年を待たず50代で転職も】

「役職のある50代のほうが転職活動は有利です。大企業に勤めている人は、その経験を武器に、新しい環境に飛び込むのもアリだと思います」

人生100年時代、定年後の人生は長く険しい。豊かな晩年の生き方を探るのは今しかない。

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