白髪予防で食べていたのに…ワカメを過剰に摂取することで起こりえる「思わぬ健康リスク」

(※写真はイメージです/PIXTA)

年齢を重ねれば重ねるほど増えていく「白髪」。老化の代名詞と捉える人も少なくありませんが、実際のところ、年齢との相関関係はあるのでしょうか? 本記事では米国老年医学の専門医である山田悠史氏による著書『健康の大疑問』(マガジンハウス)から一部抜粋して、白髪のメカニズムや「ワカメが白髪に効く」ことの真偽などを解説します。

「ストレスで白髪が増えちゃって…」に科学的根拠はある?

外見上「白髪の多さ」というのは老化の象徴のようにもなっていて、若々しく見られるために白髪染めをするという人も少なくないと思います。白髪は目立ちやすく高齢になればなるほどその頻度が高いので、「老化」を示すものと思われるのも無理はありませんが、実際のところ、白髪と体の老化の関連性というのは知られていません。

白髪のメカニズムを少し掘り下げてみると、そもそも髪の毛の黒は、「メラニン」と呼ばれる色素で構成されています。この色素が上手にできれば黒い髪の毛になります。この色素を作っている細胞(メラノサイト)が毛根にいて、その細胞の働きで髪の毛の黒が維持されているのです。

しかし、メラニンの工場として機能しているこの細胞の働きが何らかの原因で悪くなり、メラニンをうまく作れなくなると、白い髪の毛が生え始めてしまいます。

白髪になりやすい人の特徴として、遺伝的な背景(すなわち親が若くして白髪になる人は子供も白髪になりやすい)、ベジタリアン、飲酒、喫煙などとの関連性が報告されています。

肉や魚に多く含まれるビタミンBの欠乏症や甲状腺疾患で、若くして白髪を発症する可能性があることも知られています。このように必ずしも加齢が全てではないことが分かります。

また、巷(ちまた)ではよく「ストレスが白髪につながる」と言われますが、これはどうでしょうか。若くして白髪の多い人に、「あの人は苦労しているから」と言われているのを耳にしたことがあるかもしれません。

しかし、実際にはストレスと白髪が関連するという科学的な根拠はありません。その人の白髪には、ただ遺伝的な背景があるだけかもしれません。あるいは、「ストレスで白髪になった」と言っている人は、ストレスそれ自体ではなく、ストレスを解消するための喫煙や飲酒が白髪につながっているのかもしれません。

このように、白髪一つとっても、様々な言説があるものですが、必ずしも科学的な根拠が確立していないこともしばしばです。

白髪予防という観点でいえば、遺伝的な要素もあるので、なかなか予防は難しいかもしれませんが、禁煙や節酒といった行動は、その他の健康維持にもつながるものですので、試してみる価値は十分あるでしょう。


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「白髪予防でワカメを過剰摂取」に思わぬリスク

一方で、「ワカメが白髪予防に効く」などと謳(うた)われることもありますが、特定の食品で白髪予防の効果が科学的に証明されたものはありません

「ワカメに含まれるヨードがメラノサイトの働きを活性化して、白髪を予防します」というように「細胞レベルでの仮説」をもとにもっともらしく説明されていることもありますが、その場合、本来ならワカメを食べた人と食べなかった人で白髪の発症率を比較するような試験を行う必要があります。

そのような実証がないのであれば、「効果は分からない」と言わざるをえません。

むしろ、特定の食品を過剰に摂取することは健康被害につながるリスクとなります。ワカメも過剰な摂取は仇(あだ)となるかもしれません。ヨードが多く含まれるために、過剰に摂取を続けると、ヨードがその働きに影響を及ぼす甲状腺の病気を発症することがあります。甲状腺疾患が原因で、白髪はむしろ増えてしまうかもしれません

このように「食品と健康」に関する情報は、常に注意して見なければいけません。誰もが経験をし、避けたいと思っている老化は、ビジネスにつながりやすいのです。科学的な根拠という視点で見ると、そのほとんどが残念ながら過剰な広告になってしまっています。

健康情報で出てくる「科学の話」を読む際には、「それが本当に人レベルの臨床試験で検証されているのか」を確認するのが大切です。もし、マウスや細胞レベルの実験を引用しているのであれば、それはまだ根拠としては未熟です。また、「活性化」などのもっともらしく聞こえる言葉にも注意が必要です。

Roti E, Degli Uberti E. Iodine excess and hyperthyroidism. Thyroid 2001; 11: 493–500.

山田 悠史

米国老年医学・内科専門医

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