原田マハさん新作小説「板上に咲く」 妻の視点で描く棟方志功 愛に満ちたサクセスストーリー

「板上に咲く」(幻冬舎)

 アンリ・ルソーの幻の名画をテーマにした山本周五郎賞受賞作「楽園のカンヴァス」(新潮社)や「キネマの神様」(文芸春秋)など個性的な著作で人気を集める小説家の原田マハさんが、青森市出身の世界的板画家・棟方志功をテーマにした新作アート小説「板上に咲く」(幻冬舎)を刊行した。妻チヤの視点から波瀾(はらん)万丈の創作の軌跡を描いた異色作で、夫婦愛に満ちたサクセスストーリーに仕上がっている。

 原田さんは美術館勤務を経て2005年、「カフーを待ちわびて」(宝島社)で作家デビュー。フリーのキュレーターとしても活動するなど美術への造詣が深く、数多くのアート小説を世に送り出している。

 棟方をこよなく愛する作家としても知られ、棟方の孫で棟方志功研究家の石井頼子さんともたびたび対談。23年8月に県立美術館で行われたトークショーでは、同じく棟方を敬愛する漫画家のヤマザキマリさんとともに棟方への愛を語り尽くし、棟方を題材にした小説の執筆が最終段階にあることを明かしていた。

 本書では、美術の門外漢だったチヤの視点から棟方の前半生がテンポよく描かれる。青森でのチヤとの出会い、同郷の盟友松木満史宅に居候した上京後の極貧生活、柳宗悦ら民芸運動家との交流など重要な場面を描く筆致も軽やかだ。

 作品を貫くのは、チヤの献身と愛。戦時中、一家で東京から富山・福光に疎開した際、東京の自宅に単身板木(はんぎ)を取りに戻ったチヤが「二菩薩(ぼさつ)釈迦(しゃか)十大弟子」の板木を棟方愛用のウィンザーチェアの梱包(こんぽう)材に仕立てて運んだ場面では、チヤの存在を<棟方という太陽を、どこまでも追いかけてゆくひまわり>と表現した。

 原田さんが棟方に興味を持ったのは、チヤとの夫婦生活を題材に描いたテレビドラマ「おかしな夫婦」を小学生の頃に見たのがきっかけという。トークショーでは、棟方の魅力について「不器用だが、愚直なまでに真っすぐなところが見る人の心を打つ。作品も生命力にあふれ、作りたいものを作ったという思いが表れている」と熱く語っていた。

 執筆に当たっては多くの資料を読み込んだといい、トークショーでは石井さんも太鼓判を押すほどの知識を披露。本書については「史実に基づいたフィクション」とうたっており、棟方の前半生に新たな光を当てる一冊になりそうだ。

 四六判272ページ、税込み1870円。

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