香港、反乱や外国勢力の干渉取り締まる「国家安全条例案」可決 市民ら長年反対

BBC中国語、ケリー・アン、BBCニュース(香港、シンガポール)

香港立法会(議会)は19日夜、香港での破壊行為や、外国勢力による干渉などを取り締まる「国家安全条例案」を可決した。中国政府寄りの立法会は、政府提出から2週間足らずの急ピッチで可決にこぎつけた。同条例に反対する人々は、施行されれば香港市民の自由がさらに侵害されると恐れている。

香港の憲法ともいえる「香港特別行政区基本法」第23条に基づく国家安全条例は、外国勢力による干渉や、反乱などを犯罪行為とし、違反すれば最高で終身刑を科すとしている。

国家安全条例は、香港での反政府的な動きを取り締まる中国の「香港国家安全維持法」(国安法、2020年6月施行)を補完するもの。国安法ではすでに、香港の分離独立や破壊活動、テロ行為、外国勢力との共謀などの行為を犯罪と規定している 。

しかし、香港政府トップの李家超(ジョン・リー)行政長官は、「起こり得る破壊行為や、問題を起こそうとする底流」、とりわけ「香港独立という考え」から守るために、国家安全条例が必要だと述べた。そして、同条例の可決を「香港人が26年間待ち望んできた歴史的瞬間」だと称賛した。

中国の丁薛祥共産党中央政治局常務委員・国務院副総理は先に、新条例の迅速な制定は「核心的な国益」を守り、香港が経済的発展に集中できるようにするものだと述べていた。

国際社会の反応

2020年の国安法施行以降、香港では多数の市民が逮捕されており、同法が恐怖の空気を生み出しているとの批判の声が上がっている。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルの中国担当ディレクター、サラ・ブルックス氏は、国家安全条例案の可決は「香港における人権に対する新たな打撃」だと指摘。国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)の中国担当のマヤ・ワン局長代理も「香港を新たな権威主義の時代に導くもの」だと述べた。

ワン氏は「いまや香港では、中国政府に批判的な本を所持するだけでも国家安全保障違反となり、何年も投獄される可能性がある」とし、この条例を即刻廃止にするよう政府に求めた。

国連のフォルカー・トゥルク人権高等弁務官も、「時代に逆行する一歩」だと批判。イギリスのデイヴィッド・キャメロン外相は、かつてイギリスの植民地だった香港での「権利と自由をさらに損なう」ものだと指摘した。

香港市民の反応

香港市民からも、国家安全条例への懸念の声が上がっている。

ジョージという名の公務員はBBCに対し、一番懸念しているのは「国家機密」の定義だと語った。

「例えば、同僚たちがランチに出かけて、仕事上の問題をどう扱うか話し合うとする。こうした行為は、国家機密の漏えいに含まれるのだろうか。誰かが盗み聞きして、その情報を広めた場合、私たちは逮捕されるのだろうか」

「いとも簡単に告発されてしまうのではないかと、私はすごく恐れている」

ジョージ氏は、国安法の施行後、同僚たちの間で「密告する文化」がみられるようになったと話す。同氏の部署ではこの3年間で約5分の1の職員が退職し、その多くは海外に渡ったという。

「もう友人たちとは仕事の話はあまりしない。ただ食事して、飲んで、楽しむようにしている」

企業コンサルタントのリズ氏も、外国政府や政治組織、個人などの「外国勢力」から財政支援あるいは支持を受けるといった、「外国勢力による干渉」という新たな犯罪について、同様の懸念を抱いている。

「『国際組織』の定義はかなりあいまいだ。外国の投資銀行や企業は国際組織に含まれないのか?」

シンガポールに移り住んだリズ氏は、勤務先の会社が自分の名前の入った調査報告書を公表するたびに、起訴のリスクにさらされるのではないかと不安になるという。

香港にある西側諸国の領事館で働くウォルター氏は、自分の身の安全以上に、香港の競争力が失われることを懸念していると話す。

「今後はさらに容易に、誰かを『外国勢力と結託している』と訴えられるようになるだろう」

いわゆる「外国勢力」と関わりを持ちたがる人は少なくなり、香港が中国と世界をつなぐ「スーパー・コネクター」の役割を担い続けるのはより難しくなる。

「このような複雑な法律をどうやって、これほど迅速に可決できたのだろうか。公の場で議論を行う時間も与えられなかったというのに」と、ウォルター氏は疑問を投げかけた。

当局の切り札

国家安全条例は以前から、当局の切り札となっていた。

しかし、2003年に同条例の成立を目指した際は市民が広範な抗議行動を繰り広げ、その試みは頓挫(とんざ)した。

今年になり、1カ月の協議期間を経て、今月初旬に国家安全条例案が立法会に再び提出されると、議員は数日のうちに審議を終えた。3カ月間の協議期間が設けられた2003年とは対照的だった。

BBCが香港市民の懸念について香港政府に問い合わせたところ、国家安全条例は「国家安全保障を脅かす、ごくわずかな人物を対象としたもので、一般市民を対象としたものではない」との答えが返ってきた。

「法を順守する市民が不用意に法に引っかかることはない。(中略)一般市民は、特定の行為をしただけで犯罪を犯したことにはならない。国家安全保障を脅かそうという意図がなければ、法に触れることはない」と、香港政府の広報担当者は述べた。

※記事中に登場する香港市民の名前は、身元を保護するために仮名を使用しています。

(英語記事 Article 23: Hong Kong passes tough security law fought by protesters for years

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