ガザ全人口が「急性食料不安」に直面 ブリンケン米長官が警告

パレスチナ自治区ガザ地区で悪化する食料不足をめぐり、アメリカのアントニー・ブリンケン国務長官は19日、ガザ全人口の約200万人が「深刻なレベルの急性食料不安」に見舞われていると指摘した。

急性食料不安とは、十分な食料を摂取できずに生命や生活に危険が迫っている状態。対処しなければ飢餓につながる。

ブリンケン氏は訪問中のフィリピンで、現在のガザの状況について、統治や安全保障に関する合意がないままとなる将来を予兆しているのかとBBCから質問を受けた。

ブリンケン氏は、「最も信頼できる指標によれば、ガザでは人口の100%が深刻な急性食料不安に陥っている。全人口がこのように分類されるのは初めてだ」と述べた。

このコメントは、ガザの人道的危機に関する同氏の発言で、これまでで最も強い。

ブリンケン氏は、「国連によると(ガザの)人口の100%、つまり全てが人道支援を必要としている」と説明。

「スーダンで人道支援が必要なのは人口の約80%、アフガニスタンでは約70%であることと比べてほしい。繰り返しになるが、このことは、これを優先させることの緊急性と必要性を強調している」と述べた。

そして、イスラム組織ハマスに武器を置くよう求める一方で、イスラエルに対して、人道支援を切実に必要としている人々への物資供給を優先させる責務があるとした。

国連がイスラエルを非難

国連機関は、ガザで戦闘が停止され支援が急増しなければ、北部で5月までに飢饉(ききん)が起こりうるとしている。

国連のフォルカー・トゥルク人権高等弁務官はこの日、ガザにおける壊滅的な飢餓は「人為的なものであり(中略)完全に防げる」と強調。

イスラエルに責任があるとし、同国について、「人道支援や商業物資の搬入と配布を広範に制限し、住民の大半を避難させ、重要な民間インフラを破壊している」と批判した。

そして、そうした制限は「飢餓を戦争の手段として使用することに等しく、戦争犯罪に当たる」と警告した。

イスラエルは反発

トゥルク氏の発言に、イスラエルは反発している。

国連欧州本部(スイス・ジュネーヴ)のイスラエル代表部は、トゥルク氏がガザの状況についてイスラエルを非難し、「国連とハマスに関しては責任を完全に免除しようとしている」と主張。

「イスラエルはガザに支援を殺到させようと、陸海空のルートなどであらゆる手を尽くしている」と訴えた。

だが、支援関係者はこれを否定。ガザ北部の問題の大部分は、支援物資の運搬車両を護衛していた警官らをイスラエルが標的にし、警備が崩壊したことが原因だとした。

イスラエルは、ハマス壊滅のための行動の中で警官らを攻撃したとしている。しかしアメリカは、このような標的設定は支援物資の配布を不可能にし、逆効果だとして疑問視している。

こうしたなか、米国務省はイスラエルに対し、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)のフィリップ・ラザリーニ事務局長のガザ入りを許可するよう求めた。ラザリーニ氏は18日、不許可とされていた。

イスラエルはUNRWAについて、ハマスを支援をしていると非難している。UNRWAはこれを否定しているが、1月には職員9人を、昨年10月7日のイスラエル襲撃に関与したとして解雇した。

ブリンケン氏、6回目の中東訪問へ

米政府は19日、ブリンケン氏が中東を訪問すると発表した。昨年10月以降で6回目となる。

イスラエルとハマスはそれぞれ人質解放と停戦を求めて合意を探っているが、今のところ進展はみられていない。

イスラエルの交渉担当らは、19日にカタールで協議を開始する見通しとなっている。

ブリンケン氏は、サウジアラビア・ジッダで同国指導者らと協議した後、エジプト・カイロに移動して同国指導層と会談する予定。

会談の焦点は、ガザでの安全確保と統治に関する戦後計画へのアラブ諸国の支援となる見通し。

アメリカは、ガザをパレスチナ自治政府が統治することを望んでいる。オスロ和平後に発足したパレスチナ自治政府は17年前、選挙でハマスに敗れ、ガザの統治を失った。

しかし、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、パレスチナ自治政府によるガザ統治を繰り返し拒否。戦後のガザをめぐる重大な論点の一つとなっている。

ブリンケン氏は、イスラエルの指導者が変わらなければガザの戦後計画は前進しないのかと問われたが、答えなかった。

ジョー・バイデン米大統領は18日夜、ネタニヤフ氏に対し、ガザ南部ラファを攻撃する計画は「間違い」だと伝えた。

(英語記事 Gaza's entire population facing acute food insecurity, Blinken warns

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