自分の“推し”を本棚にディスプレイ「オーナー制図書館」とは? 絵本・ぬいぐるみ・自分で描いた絵…個性あふれる空間に込められた思い

島根県松江市の中心部に、一風変わった小さな図書館がオープンしました。単に本を借りるだけではなく、オーナーとなって、人に読んで欲しい「推し」の本、自分の作品などを置いて"自己表現"ができる図書館だということなんです。
この小さな空間に、どんな思いが込められているのでしょうか?

この日訪ねて来たのは、小さな赤ちゃんを抱いたお母さん。雲南市に住む三島皆美さんです。やってくるなり、かばんの中から1冊の絵本を取り出しました。

三島皆美さん
「宇宙人が帰れなくなったから、仕事でもしなよっていう。そんな本です。」

ここは、松江市にある「すきがあつまるみんなの図書館たう」。
今年1月にオープンしたばかり、私設のミニ図書館です。

すきがあつまるみんなの図書館たう 松浦みどりさん
「よく置いてある本がばらばらだって言われますよ。でもオーナーさんが説明をすると、皆さん『なるほど』って!」

この図書館を運営しているのは、峠優子(たお・ゆうこ)さんと松浦みどりさんの姉妹。壁に並んだ棚には、本だけでなく、ぬいぐるみ、さらには感想を書いた紙も貼ってあって、それぞれ千差万別です。

すきがあつまるみんなの図書館たう 松浦みどりさん
「思いのある本っていうのはきっと皆さんあると思うので、そういった形で好きな本を通して交流できると良いかなと思って。」

そう、ここは本棚を借りたオーナーが、そこに自分の好きな本やグッズなどを自由にディスプレイして、興味を持った人が借りていくというユニークな図書館なんです。

三島皆美さん
「ヨシタケシンスケさんがお仕事に関する本を出された所なので、きょうはそれを持ってきました!」

実は、赤ちゃん連れの三島さんも本棚のオーナーの一人。
持ってきた絵本を本棚にディスプレイします。

こうした一箱本棚オーナー制の図書館は全国に70か所ほどあり、山陰ではここが初めてです。

名前の「たう」には、ある意味が込められています。

すきがあつまるみんなの図書館たう 峠優子さん
「アインシュタインの相対性理論の時間の単位なんです。
相対的っていうか、人と人は感覚的に違う所もあるよ、人それぞれだよ、という話もするんですけど。ここで過ごすそれぞれの時間は1人1人違って良いんじゃないっていうような思いを込めてつけました。」

長年島根県内の特別支援学校で働いていた峠さんと松浦さんは、6年前に早期退職し、現在は乳児から大人までを対象とした発達支援教室「まなび舎ぽっと」を運営しています。

そんな2人が「たう」をオープンした理由は・・・

すきがあつまるみんなの図書館たう 峠優子さん
「楽しむとか好きだなっていう、共感し合える仲間に出会っていくっていうのが1つの社会参加になるんじゃないかなと思って。“好き”なものを求めて、まずは小さなコミュニティから参加していって、それがいずれ大きな社会参加につながっていく。“たう”は、そういう場になっていくと良いなと思っています。」

棚の1つ1つを見ると、オーナーの個性がにじみ出ています。

本棚のオーナー 三島皆美さん
「それぞれの方の個性が出ていて、絵を描かれていたりとか、本当にお部屋のように何かお人形さんがあったりとか、各々違う。ここでほかの本棚のオーナーさんに会えるとしたら、面白いなと思います。」

人となりが窺えるのは本棚だからこそといえるでしょう。
それぞれの棚のオーナーはどんな人なのでしょうか?

すきがあつまるみんなの図書館たう 松浦みどりさん
「この棚は小学生さんが借りて下さってるんですけども、本もなんだけれども、作った作品も置いてある。ちょっと表現の場みたいな形で借りて下さっています。」

別の棚は、もの作りが好きな人のようです。

すきがあつまるみんなの図書館たう 松浦みどりさん
「手作りの良さを紹介したいなということで、手芸関連の本、子どもさんにも手に取って実際に作ってもらえそうな本を持って来て下さっています。本当に自分の思ったようにして頂けるのは、個性があらわれて楽しいですね。」

そして、三島さんの本棚は手書きのポップが特徴です。

本棚のオーナー 三島皆美さん
「この辺の本の説明、推しポイントを書いてます。私の思いっていうか。」

三島さんは、これまでの人生で自分を助けてくれた本をほかの人にも知ってもらい、役立ててもらえたらと話します。

本棚のオーナー 三島皆美さん
「この本は高校卒業以来、手に取ってはなかったんですけど、昔苦しい時にあの本に助けられたなっていう記憶だけはずっとあったので。この一画を本を置かせてもらえるってなった時に、じゃあ人にも読んでもらえたらなと思って。」」

「たう」では、月1000円から2000円で本棚のオーナーになることが可能。
本を借りたい人は、最初に登録料500円を払うと、3週間3冊まで無料で借りることができます。

また、「たう」の2階には読書スペースなどとして使える部屋も用意されていて、同じ本に関心を持ったオーナー同士や、本を借りた人同士が好きな本を挟んで交流する場になっていきそうです。

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