英与党議員の空気暗く……スーナク首相の指導力に疑問符

ヘンリー・ゼフマン、BBC主任政治編集委員

イギリス与党・保守党の空気が暗い。ここ数日でますます暗くなっている。

なぜか。

先週はリシ・スーナク英首相にとって決して良い週ではなかった。控えめに言っても。まず、ロンドンのサディク・カーン市長に関する発言が原因で保守党の党員資格を停止されていたリー・アンダーソン下院議員が、新進の右派政党「改革党」に合流した。

続いて、保守党に巨額献金をしてきたソフトウェア会社経営者、フランク・ヘスター氏によるとされる発言が問題になった。

へスター氏は、ダイアン・アボット下院議員(元労働党、現在は無所属議員)について、「彼女のせいで黒人女性をみんな憎みたくなる」と発言したとされる。へスター氏はこれについて、「無礼」な発言だったと謝罪したものの、「彼女の性別や肌の色とは無関係だ」と釈明。スーナク首相の報道官は、問題の発言について「人種差別発言で間違っている」と批判した。

全体的に保守党の下院議員たちは、ヘスター氏が昨年、保守党に寄付した1000万ポンドを返金しないでおくというスーナク首相の判断には満足なようだ。しかし、問題の発言が報道された当初、ただちに「人種差別だ」と非難しなかった首相の対応などには、多くの議員がまぎれもなく不満を抱いている。

しかし、保守党の中で潮目が明らかに変わったと思える、根本的な理由はほかにもある。ひとつは、世論調査の状態だ(3月11日の時点で、労働党の平均支持率は44%、保守党は23%だった)。世間と同じように、保守党の議員たちもその結果を目にすることができるわけで、それによると次の総選挙では保守党がただ負けるだけでなく、かなりひどい大敗へ向かっていることがうかがえる。

保守党では多くの下院議員がすでに、選挙で同党が敗れる可能性を受け入れているものの、それでも労働党との差はそろそろ縮まっているころだと期待していた。

さらに、今月初めに政府が発表した新年度予算も、支持率になんら影響を与えていないため、これについての議員たちの不満も募っている。閣僚経験者のひとりは、予算発表が「針を大きく動かす最後のチャンス」だと思っていたと話す。しかし、個人の税負担がかなり軽減されたにもかかわらず、支持率には何の変化もなかった。

各地で地方選が続いていることも、総選挙がどうなるか、大勢が集中して考えるきっかけになっているようだ。総選挙ではボリス・ジョンソン元首相が保守党を応援して活動すると、このところ報道され、それに一部の保守党議員が元気づけられている。

しかし、他の議員らにとってはこれは、今の党首に対する自分たちの不満を浮き彫りにするだけだった。

「前回選挙で辛勝した議席にいる議員にとって、応援の選挙カーから降りてきてもらいたいのは、どっちだ。ボリスか、リシか」と、同僚議員に訪ねて回る議員もいる(ちなみにこれは、本当に答えを求めている質問ではない。議員たちの答えは決して「リシ」ではないので)。

党の指導部についてぶつぶつ言っている保守党議員たちは(そして現時点では実際、ぶつぶつ言っているだけだ)、今のところペニー・モーダント下院院内総務に注目している。モーダント氏が保守党党首になりたいのは、誰もが知っている。なんといっても2022年には2回も、党首選に出馬しているのだ。

しかし、このモーダント氏の支持者と党内右派が手を結んだ策略が進行中だなどという話を、真に受ける保守党員は少ない。だからといって、保守党議員がそれに興味を持たないというわけでもない。

「ペニー発ではないと思うが、かなりあり得る話だとは思う」。とあるベテラン議員はこう言った。

しかし、スーナク首相を追い落として5年で5人目となる保守党党首を担ぎ上げるなど、まったくばかげた話だと考える保守党議員も複数いる。

BBCラジオの政治番組で17日夜、テリーザ・メイ元首相の下で筆頭国務相だったデイミアン・グリーン議員は、「とりあえず言えることは、誰も私にペニー・モーダントやそういう人たちの話をもってきていない。なので、実際には起きていないことについて、起きていると主張する人たちがいるのだと思う」と話した。

グリーン議員はさらに、「今回の議会に首相はもう十分だ。どうぞおかまいなく」とも述べた。

別の主要閣僚はさらに端的にこう言った。「頭がどうかしてる」。またしても首相を交代させるという案に対する受け止めだ。

18日朝にはケミ・ベイドノック・ビジネス担当相が、「ごく少数」の保守党議員が慌てて騒いでいると認めるような発言をしたが、「やめなさい」といさめたらしい。

スーナク首相は18日、中部コヴェントリーを訪れて経済の話をした。節目は越えつつあると。それはまた、首相から与党議員へのメッセージでもある。「落ち着け」という。

今週末の時点で政界の空気がさらに、首相にとって変化している可能性はもちろんある。不法移民をルワンダへ移送するという、この政府の目玉政策を法律にして確かなものにしようというルワンダ法案は、週末までに法律として成立する可能性もある。インフレ統計は20日に大幅に落ち込む可能性もあるし、そうすれば金利低下もいずれあり得る。来週になれば議員たちはイースター(復活祭)の休暇に入るため、議員たちが集まって何かたくらむのは、数週間は中断される。

つまり、保守党指導部に危機が訪れるとするなら、それは5月2日のイングランド統一地方選の後だろうと、ほとんどの保守党議員が考えているようだ。

それでも、今の鬱々(うつうつ)とした空気がそれまでもつのか、いぶかしむ人たちもいる。

「党としては、もういい加減にしてくれという感じだと思う」と、首相を熱心に支持する保守党幹部は話した。

「いいことは何も残っていないと、みんな気づいているようだ」

(英語記事 Mood among Tory MPs darkens as Rishi Sunak faces leadership questions

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