万が一に備えて覚えておきたい! 「雑損控除」と「災害減免法による軽減免除」とは?

所得税法による「雑損控除」

雑損控除は、所得税の所得控除の一つです。対象となる資産は、災害により損害を受けた「生活に通常必要な資産」とされています。対象外となる資産は、棚卸資産や事業の固定資産、山林、生活に通常必要でない資産(別荘、競走馬、1個または1組の価額が30万円を超える貴金属、書画、骨董等の動産)です。

この控除は損害の原因が、震災、風水害、冷害、雪害、落雷など自然現象の異変による災害である場合だけでなく、火災、火薬類の爆発など人為による異常な災害である場合、害虫などの生物による異常な災害である場合に適用されます。そのほか、盗難や横領による損害にも適用されます。ただし、詐欺や恐喝の場合には、雑損控除を適用することができません。

所得控除できる金額は、以下のいずれか多いほうの金額です。

__(A) (損害金額+災害等関連支出の金額-保険金等の額)-(総所得金額等)×10%

(B) (災害等関連支出の金額-保険金等の額)-5万円__

※損害金額とは、損害を受けた直前におけるその資産の時価を基にして計算した損害の額

※災害等関連支出とは、災害により滅失した資産の取壊し、除去、原状回復費用などで支出したやむを得ない費用

※保険金等の額は、まず、損害金額から差し引き、保険金等の額が損害金額を超える場合には、災害等関連支出の金額から差し引く

また、雑損控除の金額をその年の所得金額から控除しきれない場合には、翌年以降3年間に繰り越して確定申告することで、繰越控除を受けられます。

災害減免法による「軽減免除」

軽減免除は、所得税額等が直接減額または免除される制度です。対象となる資産は、住宅と家財のみとされ、その損害金額(保険金などにより補てんされる金額を除く)が、その時価額の2分の1以上であることが適用条件となります。また、原則として損害を受けた年分の所得金額が合計1000万円以下である方が対象となり、減免を受けた年の翌年分以降の適用はありません。

軽減または免除される所得税額は、以下のとおりです。

__(C)所得金額500万円以下の方は、全額免除

(D)所得金額500万円超750万円以下の方は、2分の1の軽減

(E)所得金額750万円超1000万円以下の方は、4分の1の軽減__

有利となる方法とは?具体的な計算イメージ

仮に、会社員Aさん(収入は給与所得のみ)のケースについて、以下の条件を基にした、雑損控除と軽減免除それぞれの場合における所得税額の差を計算してみましょう。

__給与収入 500万円、給与所得控除後の給与所得金額 356万円

雑損控除を含まない所得控除額 186万円

課税所得金額 (356万円-186万円)=170万円

所得税額 170万円×5%=8万5000円

住宅の損害金額 200万円

災害等関連支出の金額 20万円

保険金による補てん 80万円

住宅の時価額 200万円__

【雑損控除の場合】

(A)(200万円+20万円-80万円)-170万円×10%=123万円

(B)20万円-5万円=15万円 < 123万円(雑損控除の額は(A)123万円が適用される)

上記計算の結果、雑損控除を加えた所得控除額は、186万円+123万円=309万円です。それを受けて所得金額は、356万円-309万円=47万円となります。したがって、控除適用後の所得税額は、47万円×5%=2万3500円となり、所得税の減税額は、8万5000円-2万3500円=6万1500円です。

【軽減免除の場合】

損害金額(保険金などにより補てんされる金額を除く) 200万円-80万円=120万円

住宅の時価額の2分の1 200万円×1/2=100万円 < 120万円(適用可能)

Aさんは所得金額が500万円以下であるため、所得税は8万5000円であり、所得税は前項(C)のように全額免除されます。

今回の事例では、災害減免法による軽減免除を適用したほうが有利となります。仮に、損失額が大きく、その年の所得金額から控除しきれない場合などでは、3年間の繰越控除が適用できる雑損控除のほうが、メリットがある場合もあるでしょう。また軽減免除は、その年分の所得金額に応じて軽減割合が変わるため、その点も判断材料となります。

まとめ

本記事では雑損控除と軽減免除の2つの措置について比較しました。これらのほかにも、災害により確定申告が期限までにできない場合は、申告・納付等の期限の延長や、納付が困難な場合は納税の猶予の措置も利用できます。いずれも税務署への申請が必要ですので、申請書の提出を忘れずに行いましょう。

出典

国税庁 No.1110 災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)
国税庁 No.8004 災害を受けたときの所得税の取扱い

執筆者:高橋庸夫
ファイナンシャル・プランナー

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