サラ・レインズフォード、BBC東欧特派員、キーウ
ウクライナの人たちがロシアの大統領選挙について書くとき、「選挙」という部分をカギカッコに入れる。
選挙結果は最初から分かりきっていたので、ここウクライナの人たちは、ハラハラしようもなかった。
ただひとつ未知数だったのはウラジーミル・プーチン氏の得票率だけで、たとえプーチン氏にしても87%という結果はたいしたものだった。
しかし、ウクライナでそれを笑う人などいない。
表向きの結果はどうであれ、ウクライナへの影響は明白だからだ。
ミサイル攻撃によってますます人が死ぬ。ドローン攻撃が続く。砲撃が続く。プーチン氏が2年前に命令した全面侵攻は、今後も続くのだ。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は17日夜、ロシア大統領選の公式結果についてこう述べた。ロシアの指導者は「権力にまみれて病んだ」人間で、彼を止めることは誰も、何も、できないのだと。
そして、プーチン氏が自らの行動についていずれ責任を取らされるよう、確実に行動するよう、ゼレンスキー大統領は協力国に求めた。
に、英語でこう書いた。
「この者は、ハーグで収監されなくてはならない」と。ハーグとはつまり、国際刑事裁判所のことだ。
プーチン大統領はすでに、ハーグの国際裁判所に起訴されている。戦争犯罪を裁く国際刑事裁判所は、ウクライナ占領地域から子供たちを強制的にロシアへ移住させた罪で、プーチン氏の逮捕状を出している。
ロシアの選挙はもう長年、年を追うごとに厳しく管理されてきた。今回の大統領選では、本格的な対立候補は誰もいなかった。
クレムリン(ロシア大統領府)は長年かけて、ほかに選択肢などないのだという印象を作り上げてきた。プーチン氏はロシアそのものなのだと。
しかしウクライナの人たちにとっては、プーチンとはすなわちマリウポリであり、ブチャであり、バフムートだ。
ウクライナであらゆる町の墓地に新しい墓が並ぶのは、プーチン氏のせいだ。何百万人もの人が家を追われ、国内に残った人たちがシェルターや地下室で夜を過ごすのも、彼のせいだ。
私は北部チェルニヒウで、ミサイル攻撃のため重傷を負った女の子に会った。彼女の兄は軍に志願し、そして前線で戦死した。その原因となった戦争を始めたのは、プーチン大統領だ。
その戦争でまたひとり、ウクライナの兵士がきょう前線に戻った。出発前に彼は私に、開戦当初に30人はいた自分の仲間のうち、「まだ歩いている」のは自分だけだと話した。
もちろん、プーチン氏がすべて一人でやったことではない。
だからこそ今のウクライナでは、すべてのロシア人について好意的なことを言う人はほとんど見つからないのだ。隣り合う両国の関係は台無しだ。この状態は今後何十年も、あるいはそれより長く続くだろう。
ロシアのウクライナ侵略は何年もかけて進行したことで、それを阻止するためのロシア人の努力が足りなかった――。ウクライナでは多くの人がそう考えている。そして、ロシア人の努力不足の代償を、今やウクライナ人が払っているのだと。
同じように思っているロシア人が複数いることを、私は知っている。プーチン氏による国内の抑圧と外国への侵略行為に抗議して、母国ロシアで刑務所に入れられた人たちさえいることも。
ロシアを逃れて、できる限りのことをしてウクライナを助けようとしている亡命ロシア人もいる。
ウクライナのために武器を取って前線に立ち、自分と同じロシア人と戦う人たちもいる。
良心の問題なのだと、彼は私にそう話した。自分は罪の意識にさいなまれているのだと。
この人は、戦い続ける。
しかし、ロシアも戦い続ける。プーチン大統領のもとで。
そして、ウクライナも戦い続ける。ウクライナはそうするしか、ほかにどうしようもないのだ。
(英語記事 Ukraine war: No choice for Ukrainians - more Putin means more war)