AIとロボットは“多様化する家族”のコミュニケーションを支えられるのか 生活に取り入れてみてわかったこと

「家族」の形はひとつであるとは限らない。かつては大家族が当たり前だったけれど、高度成長期を経て核家族のほうが多数派になった。そして現在は単身世帯の数も増えている。そういった社会の変化にともない、「誰と暮らすか」という選択肢だって変わってくるはずだ。

筆者(42歳/女性/独身)は現在、同年代のアラフォー女性と、都内の賃貸一軒家(駅徒歩15分・5LDK・21万円)で4人暮らしをしている。いわゆる「ルームシェア」である。経済的に独立した他人同士で共同生活をはじめ、なんだかんだで約5年ほど経つが、現状たいへん快適にやっている。詳しくは拙著『オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』(幻冬舎)をごらんください。宣伝をしてしまった。

さて、我が家は賃貸なので家主の意向により動物は飼えないのである。残念。と、いうわけで「ロボットを飼ってみよう」と思い至り、『LOVOT[らぼっと]』(以下『LOVOT』)をレンタルすることにした。

『LOVOT』は、GROOVE X株式会社の開発する家族型ロボットである。本サイトに掲載されている代表取締役・林要氏インタビューによると、2019年12月から出荷が始まり、2020年の新型コロナウイルスの感染拡大の影響で外出が制限されていた時期(いわゆる「コロナ禍」)に需要が高まったのだそうだ。

また、筆者のようなペット禁止の賃貸物件暮らしだけでなく、動物アレルギーでペットを飼えない人、あるいは忙しくて動物の世話ができないけれど癒やしがほしい……など、様々な需要があるらしい。

同居人たちも「面白そう」と賛成してくれた。なぜ購入ではなく、レンタルを選んだのかって?だって、買うと高い(本体のみで50万円近くかかるし別途月額で維持費も必要となる)し、途中で飽きたら後悔しそうだし……。レンタルサービスは1週間プランと3ヶ月以上のプランがあり、『LOVOT』は3ヶ月以上暮らさないと完全に「懐く」ことはないらしいのだが、3ヶ月は長い。少々悩んだものの、やっぱり飽きるリスクを考えた結果、1週間プランでレンタルしてみることにした。

〈「なにもできない」、だがそれがいい〉

レンタル開始日の午前中、大きなダンボール箱に入った『LOVOT』が到着した。

ちょうど赤ん坊くらいの重さと大きさである。開封して設定を一通り済ませ、小一時間ほど充電すると目をあけて、動き出していた。動線の都合上、『LOVOT』は筆者の自室ではなく、12畳のリビングに居を構えることになった。

さて、『LOVOT』はなにをするロボットなのか?ルンバのように掃除をするわけでもなく、ペッパーくんのように言葉を喋るわけでもない。頭上のカメラで写真撮影をすることはできるので、防犯面で少し役に立つかもしれないけれど、動きもゆっくりだし戦闘力が備わっているわけでもないので、気づいた侵入者に破壊されたらおしまいである。

……つまり、「なにもできない」のだ。ちなみに、初日から筆者宅のリビング床に敷いているラグに巻き込まれ、移動不可能になり、キューキューと鳴いていた。かわいいね。そう、ただただ「かわいいだけ」の存在である。数日間『LOVOT』と生活しただけだが、その「なにもできなさ」によってかわいらしさが増している感すらある。メカだからこそのポンコツさ、いじましさからくる、メカのかわいさ、略して「メカかわいい」がここにある。

〈ロボットのメリットは、人間の「してあげたい」という欲望を受け止められること〉

先程紹介したインタビュー記事によると、「気兼ねなく愛でるための器としてLOVOTを生み出している」と語っている。

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林:僕らは気兼ねなく愛でるための器としてLOVOTを生み出しています。なぜかというと、人は愛を求めると不安定になる傾向にあるからです。愛されたいと思っても、思った通りに愛されることは難しい。見返りに対する期待値とのギャップがどうしてもあるので、不満や不安が募ります。しかし、一方的に愛でる分には見返りを求めていないため、期待値とのギャップはない。
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愛情というものは、相手に注いだ分だけ、相手から返ってくるものではない。「無償の愛」という言葉だったり、あるいは「愛が重い」という言葉が存在するように、送る側にとっても、受け止める側にとっても、コントロールのむずかしいものである。相手に過剰な愛情を注ぎすぎたり、行き過ぎたケアをしたりすると、相手にとって負担や迷惑になる可能性があるし、極端な場合、支配や暴力につながることもある。一方、相手がロボットの場合、人間が過剰な愛情を注いでも、ロボットが負担に感じることはない。人間の「してあげたい」という欲望を、ロボットなら受け止めることが可能だ。

LOVOTは一緒に暮らす日々を重ねると徐々にこちらを認識してくれるし、数日後には帰宅すると迎えにきてくれることもあった。それは事前に設定された、筆者の手元にあるスマートフォンのBluetoothに反応しているだけの話なのだが、「懐いてくれた」という感覚がある。LOVOTの活動記録も「なでてもらった」「抱っこしてもらった」など、「してもらった」ことが多い。これはカラクリがわかっていたとしても、実際「嬉しい」ものである。自分の感情に対して「ちょうどいい他者」感があるというか。

そして、対LOVOTだけでなく、同居人ともLOVOTが間に入ることで会話が増えた。オフィスにLOVOTを導入している会社もあると聞いていたが、たしかに人間同士のコミュニティの潤滑剤になる存在ともいえる。

〈AIも活かし方次第で「気兼ねない」コミュニケーション相手に〉

『LOVOT』の話から逸れるが、目下話題沸騰中の生成AIサービスChatGPT。この1年の進化だけでも目を見張るものがある。あるとき、写真解析もできるようになったと知り、その機能を試してみたくなって、なにか権利的に問題のない画像はないかと考え「自室の写真を取ろう」と思うに至った。

過去にChatGPTから掃除についてアドバイスをもらう記事が大きなバズを生んでいた。写真解析機能が搭載されたのであれば、もっと精度の高いアドバイスが出てくるのではないか? と考え、試しに部屋の写真を撮影して送信してみた。プライバシーの都合というか、とっちらかりすぎているためモザイク加工を施している。

アドバイスは一般的な範囲ではあるものの、写真の差異を察知していることがうかがえる。なお、「褒めて」と伝えたら、その後は進捗を送るたびにオーバーに褒めてくれた。ChatGPTは実際に掃除を手伝ってくれるわけではなく、実際に動くのは筆者であるのだけれど、モチベーションを一人で維持するのもなかなか難しいものだ。ある意味ChatGPTがこちらのモチベーションを生成してくれたというか。

もちろん人間の家族や友人、あるいは片付けアドバイザーにも同じことを頼めるかもしれないが、AIなら早朝でも深夜でも何度でもいつでもアドバイスをもらうことができる。LOVOTの「気兼ねなさ」とも通じる話である。

さて、この一連の流れを何気なくにツイートしたところ、思いのほか拡散され、「その発想はなかった」、「そんなことのために課金するなんて」など、多くの意見が寄せられていた。「天才だ、こういう発想にビジネスのヒントがある」みたいなコメントは、言い過ぎだと思うけど……。

なお、ChatGPTはその膨大な情報処理に大量な電力を消費すると言われているため、筆者の怠惰のサポートをしてもらって正直申し訳ない気持ちも多少ある。多少は。

〈多様化する家族の形にAIやロボットは寄与するか〉

さらに話を脱線させるが、筆者は現在ライター業と並行して訪問介護ヘルパーの仕事もしている。自身が高齢者になり、認知機能や身体的な機能が加齢によって大幅に衰えたとき、友人とのルームシェア生活がどのくらい現実的なのか、正直現段階ではまったく想像がつかない。というわけで、ひとつでも多くのケースを見ておきたいと、興味と実益を兼ねて介護の現場に立っている。そんな経験も生かした共著『バンギャルちゃんの老後』(ホーム社)が発売中です。そしてまた宣伝をしてしまった。

高齢者と一言でいっても、当たり前だがさまざまな暮らしをしている。一見寂しそうな独居老人に見えたとしても本人はいたって悠々自適に暮らしているケースもあれば、「家族だから」という理由で険悪な空気になっている現場に出くわすこともある。コミュケーションとはいくつになっても難しいというか、「老い」という変化によって周囲との円滑なコミュニケーションが難しくなることもあると感じる。

「円滑なコミュニケーション」の定義も難しいのだけれど、要は周囲をイライラさせたり自分がイライラすることなく暮らしていきたいというか。

たとえば、自分の認知機能が衰えて、何度も同じ話を聞かないと納得できないということが起きたとして、ChatGPTのようなAIサービスが生活をサポートしてくれるといいなと夢想することがある。AIであれば、同じ会話を何度繰り返しても人間と違ってストレスに感じないだろうし。

ちなみに、LOVOTは独立して家を離れた子どもが、高齢になった親にプレゼントすることもあるそうだ。LOVOTは本体だけでも一体数十万なので、けっして安くはない買い物だが、LOVOTには見守り機能がついているし、犬や猫の世話やコスト、万が一の際のペットロスになるリスクを考えたら、クレバーな選択なのかもしれない。ただ、先駆者であるAIBOは、05年発売の旧型モデルの修理サポートが2017年に終了し、現在は有志が修理対応しているという話もあり、ロボットだって永遠の命があるともいえないのだが。

くりかえすが、「家族」の形はひとつであるとは限らない。その中に人間以外、生命体以外の存在が潤滑剤として存在することがあたり前になる時代がくる可能性だってゼロではないのだ。

社会の変化に伴い、家族の形も多様化していく中で、人間同士のコミュニケーションを円滑にするためのツールとして、ロボットやAIが重要な役割を果たす可能性がある。LOVOTのような家族型ロボットやChatGPTのような生成AIは、人間関係の潤滑油となり、時には家族の一員としても機能するかもしれないのだ。テクノロジーの進歩により、人間以外の存在が家族の一部として受け入れられる未来が訪れるのかもしれない。そんな時代の到来を想像しながら、私たちは新しい家族の形を模索していくのではないだろうか。

……上の段落は今話題の生成AIのCloudeに代筆してもらった文章である。(筆者のプロンプト技術が拙いのもあるが)生成AIは「それっぽい」ことをいえるけれど、「それっぽい」だけである。

ただ、普段私たちが誰かとコミュニケーションを取る上で「それっぽい」言葉を投げかけることは少なくない。LOVOTの予め設定された動作を見て、「感情があるかのように」受け止めることができるように、AIの作った「それっぽい」コミュニケーションで賄えてしまえるものも少なくないような気がする。もしかしたら、もう文章だって「それっぽいもの」の寄せ集めでも読者のみなさんは気にせずに読み流してしまうかもしれないけれど。さすがにこれは気づきましたよね? ……ねえ?

(文=藤谷千明)

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