2022年7月に行われたUEFA欧州女子選手権（女子ユーロ2022）でイングランド女子代表が優勝して以降、英国女子サッカーは世界的にも注目度が急増している。代表選手の多くが所属する女子スーパーリーグ（WSL）がトップに存在し、同リーグで活躍する日本人選手も増えた（2024年3月時点9名所属）。
そんな注目のWSLは、過去数年間の女子サッカーの基盤作りを経て、2024年8月に次のステップへと歩み始めるようだ。その大きな第一歩がイングランドサッカー協会（FA）から独立し、新たな体制へと移り変わることである。2024/25シーズンからWSLとWC（2部女子チャンピオンシップ）に属する計24クラブを株主とした新組織に管理権が引き継がれ、独立した運営体制となることが発表されている。
この記事では、イングランド女子リーグを新たに牽引する新組織「NewCo（仮称）」について紹介していこう。
女子サッカーのイメージを変える！
2024年2月20日に開催されたWEリーグ（日本女子プロサッカーリーグ）主催の海外サッカー勉強会に、WSLのマーケティングコミュニケーション本部長キャサリン・ローリー氏が講師として参加。新組織NewCoについて、いくつかのキーポイントを挙げた。
新組織NewCoとは？
- 完全なスタートアップの独立した組織（企業）
- イングランド全ての女子サッカーを管理しWSLとWCの2リーグを運営
- シェアホルダー（株主）は（上記2リーグ）所属24クラブ
- 女子サッカーのイメージを変える
これまでのFAの動きの多くは、新たなことに挑戦することよりも長い歴史の前例を活かしたレールに沿ったものだった。しかし完全な独立組織になることで新しい戦略が立てやすくなり、運営方法にもさまざまな可能性が広がることが期待される。
最後の項目である「女子サッカーのイメージを変えていく」組織として「トランスフォーム（変革）」という言葉を挙げたローリー氏は「新たな取り組みを重視するだけでなく、これまでの旧戦略も組み合わせた方法で発展させていく」と加えてコメントしている。
女子サッカーをエンタテインメントに
完全な新組織になるということは、企業理念となるミッションの存在は絶対であり内容も気になるところ。NewCoのミッションと、信念として掲げるいくつかの点が下記のように紹介されている。
NewCoのミッション
女子サッカーをより競技的にして、エンタテインメント性に溢れる存在にする。そして女子サッカーの可能性を信じ、世界に変化をもたらす存在になる。
NewCoの信念
1. 少年少女がたくさんの機会を得られること
2. 少女たちが自信を持って生きていけるということ
3. 女子サッカー選手が世の中のロールモデルとなること
4. サッカーは誰もが楽しめるものであること
5. 女子サッカーは「サッカー」を変化させられるということ
ローリー氏は、女子サッカーをよりエンタテインメント性の高いものにするために、試合に関しては「ライバル争い」や「トップと降格争い」、そして認知度の視点では「ワールドクラス選手」の存在や、NewCoという「ブランド名」を世界に広めることを例に挙げた。
リーグを面白いものにすることで、おのずとファンは増えていくという理想の状況をNewCoは実現してくれるのか、期待がかかる部分だ。
代表はカナダ出身のナイキの元取締役
前例のないFAからの独立で、英国全土から注目を浴びているNewCo。多くの期待を背負った新組織の代表（CEO）を務めるのは、カナダ出身でナイキ（NIKE）の元取締役であるニッキー・ドゥセ氏だ。元証券業者（投資銀行業）の経歴を持ち、その後にナイキで約8年間勤務。ナイキでは女性スポーツ部門に在籍し、英国とアイルランド地域を管理統括していたという。2015年から家族と共に英国に移住している。
新組織NewCoの代表へと転身したドゥセ氏に、英メディア『Soccerex TV』が独占インタビューを行い、組織立ち上げに対するいくつかの心境が明かされている。
ー女子サッカーに対する想いは？
女子サッカーは競技であり熱意や興奮、エンタテインメントに溢れていて、スタジアムの雰囲気は年齢や性別を問わず、誰もが一員になれるもの。それはまさに地球上のロールモデルのような存在。
ーなぜNewCoが創設されるのか？
これまでのFAは、女子サッカーを信じ概念実証のために資金を提供し土台をつくってくれた。第二のステージとして私たちNewCoの時代で、FAが築いた基盤を活かしながら更に大きな存在へ輝くものに変えていきたい。
ー自身がイメージする女子サッカーのビジョンは？
私たちNewCoの言葉で言えば「女子サッカーの変革（Women’s football transformed）」。例えば10年後にWSLのスタジアムが満員になったとき、どうすればチケットのキャンセル待ちを解消できるのか尋ねてきてほしい。そして全ての女子チームの試合を観てほしい。きっと皆が思う女子サッカーの印象を払拭し「素晴らしいパフォーマンスだ！」と感じるはず。その想いには、ためらいなんてない。私には、10年後のそんな状況が見える。
純粋に女子サッカーを観戦することが好きで、とても楽しい！わがままかもしれないけど、私が子供の時に今の（女子サッカーの）状況があったら最高だったのにと感じる。でも次世代の子供達、たとえば私の娘が生きている現代の状況と、私自身が子供の頃とは異なるということを知るのが、私にとって一番大事なこと。
ドゥセ氏は娘を持つ1人の母親でもある。そのことから子供が今生きている現代と、自身が子供時代の女子サッカーの環境の違いについてもコメントをしている。
2024年8月イングランド女子サッカーが変わり、日本を含め世界にどんな新風を巻き起こしてくれるのか。ドゥセ氏が想像する10年後にも期待したい。
