NECと東京歯科医科大学がAIを活用した慢性腰痛のセルフケアを支援する技術を開発

日本電気株式会社(NEC)と国立大学法人東京歯科医科大学(TMDU)は、スマートフォンやタブレット端末を使って自身で撮影した映像や、問診アプリで回答した問診データをAI(人工知能)により解析して、慢性腰痛のセルフケアを支援する技術を開発しました。
この技術を利用すれば、慢性腰痛を持つ人は、理学療法士が支援するレベルの改善運動を、時間や場所を選ばずに手軽に行うことができます。
この技術は、自治体・健保組合・リハビリクリニックなどに、「クラウド型サービス」として提供していく計画で、来年度中に「NECカラダケア神楽坂店」などにおいて実証を行い、有効性を検証するとともに、サービス提供時期や金額などを決めていくといいます。

国民病といわれている「腰痛」。経済的損失は年間3兆円

厚生労働省の「2022年(令和4)年国民生活基礎調査」によりますと、腰痛は、日本における病気やケガなどによる自覚症状で男女とも第一位となっており国民病といわれています。また、経済的損失も年間3兆円にのぼるといわれています。

こうした課題の改善につながることや、事業的にも需要も見込めることから、開発したといいいます。

開発した技術では、腰痛の原因を推定するために必要な「姿勢状況確認」、「原因推定」、原因推定から割り出したその人に最適な「改善運動の提案」を、AIなどを使って理学療法士と同レベルの水準で行います。

姿勢状況確認では、利用者自身がスマホを使って撮影した写真を使いますが、スマホで自身で撮影すると撮影角度によっては、骨格が歪んで推定され、制度が低下する原因になっていました。
そこで、NECが開発した「2D/3D骨格推定技術」(人物がカメラに映る角度をAIが自動的に考慮して骨格を推定する技術)を使い、理学療法士相当の骨格推定精度を達成しました。

上から撮影すると肩が大きく映ってしまいますが、2D/3D骨格推定技術を使うとスマホでも高精度に骨格を推定できます

また、理学療法士などの専門家は、慢性腰痛の原因を探るため、身体の部位と背中の形状との関係性などから、関節の屈曲具合(不足、適度、過剰)など身体の「部位ごとの状態」を評価します。
しかし、撮影した映像からは、身体の部位と背中の形状との関係性を加味することは困難です。
こうした中、NECが開発した「姿勢状態認識技術」(映像から背中の形状を高精度に推定する技術)で、「身体の部位と背中の形状との関係性」などにおいても理学療法士相当の認識率を達成することができるようになりました。

写真のオレンジ色の部分が新たに認識できるようになった部分です

さらに、暗黙知であった慢性腰痛に対する理学療養士の知識を、「形式知化」し、映像や問診データ(問診アプリで回答)から慢性腰痛を引き起こす主要な原因を平均10秒以内で推定する「仮説推論技術」を開発しています。
形式知化にさいしては、東京医科歯科大学の協力のもと、1,500以上からなる慢性腰痛に対する理学療法士の知識を活用しました。

こうして推定された原因に応じて、慢性腰痛の改善に適した運動プログラムを端末上に提示します。運動プログラムは動画とともに提供されるため、慢性腰痛を持つ人は、自宅などで動作を確認しながら運動プログラムに取り組むことが可能です。

今後は首や肩の痛みのセルフケア支援サービスも展開

NECでは、ヘルスケア・ライフサイエンス事業として「メディカルケア(電子カルテ・病院DX)」「ライフサイエンス(AI創薬)」「ライフスタイルサポート(検査・健康増進サービス)」を手がけています。
このうちライフスタイルサポートでは、「意識せずに健康でいられる」というテーマを掲げ、歩行センシング、NECカラダケアなどを提供しています。
今回開発した慢性腰痛のセルフケア支援も、ライフスタイルサポート部門の領域になりますが、現在、慢性腰痛のセルフケア支援に加え、首や肩の痛みのセルフケア支援サービスの提供に向けて準備を進めているとのことです。

デモンストレーションの様子

(文/ヘルスケア・マネジメント.com)

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