母親が重篤状態だったクボファンの少年に届いた久保建英からのメッセージ。無事に回復し父親は感激「日の丸を持参してアノエタに戻るよ」【現地発】

悲劇と隣り合わせの出来事が起こったのは今回が初めてではない。ウルトラスを巡る問題は疫病のようにヨーロッパ中に蔓延しており、もちろんレアル・ソシエダにとっても他人事ではない。

近年、ゼニト・サンクトペテルブルク、ローマ、ベンフィカなどのクラブの過激派がアノエタを訪れた際には、何度か深刻な諍いが起きている。だからこそ、ヨーロッパで最悪の部類に入ると言われるパリ・サンジェルマンの過激派の来訪に際して、警報が鳴り響くのに時間はかからなかった。最も暴力的なサポーターから身を守るため、サンセバスティアンの街は準備を整え、身を固めた。

試合当日は、街を闊歩するパリのサポーターが、ロープを張った警官隊に囲まれている映像が目を引いた。その努力の甲斐あり、翌日、数件の小競り合いを除いて、両チームのサポーター同士の衝突を防ぐことに成功したと発表された。

しかしその後、44歳の女性のファンがスタジアムの入り口付近で、バスク自治警察のエルツァインツァによる発泡スチロール弾を頭部に受けて、ICUに収容されたというニュースが流れると、すべてが水の泡となった。当初、彼女はスタジアムに入場して試合を観戦していたが、体調が悪化。夫が息子と一緒に病院に連れていかなければならない事態となった。

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それから家族にとって落ち着かない日々が続いた。ホキン・アペリベイ会長が容態を尋ねるために電話をかけるなどそれこそ街中の人々が推移を見守る中、彼女の夫は落ち込んでいる息子を元気づけるためにあるアイデアをひねり出した。

ヒントとなったのは、恐ろしい出来事が起こる前、息子がタケ・クボ(久保建英)からユニホームをプレゼントしてもらえるよう、いつも日の丸のフラッグを持参してアノエタに駆け付けていたことだった。

クラブを通じてタケから息子へ何かしてもらえないか。そんな話を進めているさなかに朗報が届いた。妻のアマイアさんが無事に回復し、退院したのだ。ソシエダは息子のアインゲル君にメッセージを宛てたタケの映像を送った。

私は父親から連絡を受けた。「金曜日のカディス戦で、アインゲルは日の丸のフラッグを持参してアノエタに戻るよ。タケがその存在に気づいて、ユニホームをプレゼントしてもらうためにね。記事にもその息子に関するエピソードを差し込んでくれたら嬉しいよ」と電話口で声を弾ませていた。

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しかしそのカディス戦、肝心のパフォーマンスが伴わなかった。試合前日にイマノル・アルグアシル監督が言及したように、タケは全体練習に合流したばかりで、実質、ぶっつけ本番だったことが影響したことは否めない。

そんな中でも、指揮官は、お気に入りのシステム、4-3-3を復活させ、いつものように右サイドに配置した。両チームの実力差は明らかで、ソシエダが優勢に試合を進めた。しかしタケのプレーからはいつもの正確さ、アクティブさ、鋭さがを欠き、見せ場と言えるのは右CKからル・ノルマンのヘディングシュートをお膳立てしたシーンくらいだった。

後半に入っても、献身性を発揮するも、チャンスに絡むことができないまま、66分に交代で退いた。試合後、アインゲル君にユニホームをプレゼントしなかったのも、自らのパフォーマンスに満足できず、そのことを忘れてしまっていたからだろう。

もっともチャンスはこれからいくらでもある。タケがインターナショナルブレイクを経て、本来の姿を取り戻してくれることをアインゲル君も願っている。

取材・文●ミケル・レカルデ(ノティシアス・デ・ギプスコア)
翻訳●下村正幸

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