犬のガンを治療するためのワクチン、臨床試験で有望な成果【アメリカ】

犬のガンを治療するためのワクチン

人間と同様にガンは犬の死因の上位に来るものです。犬種によっては死因の半数以上が特定のガンであるという場合もあり、犬のガンを予防する方法や治療法の新開発には多くの飼い主さんが希望を寄せています。

犬に多いガンを予防するためのワクチンの臨床試験が現在進行中であるという話題をご紹介したことがあります。

https://wanchan.jp/column/detail/43586

今回は予防ではなく治療のためのワクチンという違う視点からの研究をご紹介します。研究を行なっているのはアメリカのイェール大学医学部の研究チームです。

自己免疫疾患の知見を利用してガンの免疫療法を開発

このワクチンの開発者マムラ博士は元々はリウマチ学の専門家で、SLEや1型糖尿病のような自己免疫疾患の研究をしていました。

自己免疫疾患とは、免疫機構が自分自身の組織を攻撃してしまう病気です。1型糖尿病であれば免疫系が攻撃するのは自分の膵臓です。

マムラ博士はこの自己免疫疾患の研究の知見を利用して、免疫機構が腫瘍(腫瘍も自分自身の組織と言えます)を標的にして攻撃するという癌の免疫療法を開発しました。

犬でも人間でも、上皮成長因子受容体および上皮成長因子受容体2というタンパク質が遺伝子変異などのために過剰に発現することがあり、この異常は大腸ガン、乳ガン、骨肉腫などのガンの発生、増殖、転移に関与します。

この過剰に発現した受容体に結合して機能を低下させるモノクローナル抗体というタンパク質を、患者に注入するという治療法(ワクチン)がマムラ博士が開発した免疫療法です。

しかし、患者の体はしばしば抗体に対する耐性を獲得してしまい、治療効果が低下するという問題がありました。

この問題を克服するために抗体の改良が試みられ、マウスでの有望な結果を得た後に2016年から犬の骨肉腫に対する臨床試験が開始されたといいます。

この治療法はワクチンと呼ばれていますが、一般的にワクチンという言葉から連想されるものとは違って、病気になる前に行なうのではなく病気と診断されてから治療の一環として行われます。

臨床試験は良好、認可取得も有望!

現在までに、アメリカとカナダの10ヶ所で行われている臨床試験で、300頭以上の犬がこのワクチンによる治療を受けています。この治療法は腫瘍に結合する抗体を作り、腫瘍の増殖の原因となるシグナル伝達経路を阻害するものです。

ある犬は骨肉腫と診断されて左前脚の切断手術を受けました。手術の前にこのワクチンを接種し、手術に続いて化学療法を開始する前に2回目のワクチン接種を受けました。

切断手術や化学療法での治療をしても、骨肉腫に罹患した犬の12ヵ月生存率は約35%ですが、ワクチン療法を受けたこの犬は、発病から2年経った現在も元気に走り回っているといいます。

研究チームによると、このワクチンは特定のガンを持つ犬の12ヵ月生存率を35%から60%に増加させ、多くの犬ではワクチン治療によって腫瘍も縮小しているとのことです。

現在、米国農務省がこのワクチンを審査中ですが、認可の取得が有望視されています。研究者は同じワクチンの人間への臨床試験の開始の可能性もあるが、今のところは犬用ワクチンの認可が取れ次第、広く使用されるための流通に集中したいと述べています。

まとめ

犬のガンのための免疫療法として使用されるワクチンが、臨床試験において高い成果を出しており、米国農務省での認可取得も有望視されているという話題をご紹介しました。

健康なうちにガンを予防するワクチンもその完成が待たれるものですが、ガンと診断された後の生存率を上げる有効な治療法もまた歓迎すべきニュースです。

1日も早く実用化され、苦しむ犬や悲しむ飼い主さんが少なくなることが期待されます。

《参考URL》
https://news.yale.edu/2024/03/05/novel-cancer-vaccine-offers-new-hope-dogs-and-those-who-love-them
https://www.ccralliance.org/yale-status

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