佐藤健、35歳の現在地「プライベートはどうでもいい 作品を後悔なきようにやりたい」

佐藤健 クランクイン! 写真:高野広美

俳優の佐藤健が主演を務める映画『四月になれば彼女は』が3月22日に公開。川村元気による45万部突破の恋愛小説を映画化する本作で、佐藤は恋に悩み戸惑い、答えを求めてもがく精神科医・藤代俊をリアルに体現する。そんな佐藤に、本格初共演となった長澤まさみ、森七菜の印象や、30代半ばを迎える今の思いを聞いた。

◆川村元気の原作は「恋愛の正体についてぼんやり思っていることを言語化してくれている」

精神科医の藤代俊(佐藤)のもとに、かつての恋人・伊予田春(森)から手紙が届く。“天空の鏡”と呼ばれるウユニ塩湖からの手紙には、10年前の初恋の記憶が書かれていた。ウユニ、プラハ、アイスランド。その後も世界各地から届く、春の手紙。

時を同じくして藤代は、婚約者の坂本弥生(長澤)と結婚の準備を進めていた。けれども弥生は突然、姿を消す。「愛を終わらせない方法、それは何でしょう」。その謎掛けだけを残して。春はなぜ手紙を書いてきたのか? 弥生はどこへ消えたのか? 2つの謎はやがてつながっていく。「あれほど永遠だと思っていた愛や恋も、なぜ、やがては消えていってしまうのだろう」。現在と過去、日本と海外が交錯しながら、愛する人の真実の姿をさがし求める“四月”が始まる。

原作を「恋愛についてなんとなくぼんやり思っていることや、恋愛はそんなにきれいごとじゃないとみんなが思っていることを言語化してくれている。『あ、そうそう』って思いながら読んでいました」と振り返る佐藤。川村元気原作作品に出演するのは、『世界から猫が消えたなら』『億男』に続いて三作目となるが、「川村さんは人間が理解できないものというか、身近にあるもののはずなのに、コントロールできないものについて書いているんですよね。『世界から~』は“寿命、命”。『億男』は“お金”。そして今回は“恋愛”。昔から近くにあって身近なもののはずなのに、なぜかわからなかったり、コントロールできなかったりするものばかり。どの作品も、わからないところから始まって、主人公と一緒に読者はその正体を探していく。川村さんの探求心というか、わからないものをわからないままにしておかず、もがきながらでも見つけようとする姿勢が作品にも反映されているのかもしれません」と印象を語る。

今回演じる俊には共感できるところが多かったそう。俊は、過去の恋愛も、現在の恋愛も幸せな日常から一転、突然の事態に苦悩する日々を過ごす。「いわゆる初恋というものにはもう二度と経験できないような感覚があると思います。そういった感覚は森さん演じる春との過去の恋愛パートで表現できたらいいなと思っていて、一方の長澤さん演じる弥生との恋愛パートに関しては、一見冷めているわけではないけど、淡々としている2人の、お互いがお互いの日常になっているような関係を表現できるよう意識しました」。

◆ラブストーリーでは相手によって芝居が勝手に変わっていくところが面白い

意外にも芝居で共演するのは初めてだという長澤と紡ぐ俊と弥生の恋愛は、街でよく見かけるカップルの自然体なやりとりが実にリアルに描かれていた。「(長澤とは)なにか特別に話したことはなかったです。ただやっぱり、普段の延長で映るので、『こうしようね』と話すより、なんとなく一緒にいて、なんとなく他愛のない話をしていました」と撮影を振り返る。

「何年も一緒にいる人たちだから、良くも悪くもお互いがお互いの日常になっている。そういうカップルってたくさんいると思うんです。そんな2人に見えればいいなという思いはありました。外から見るとすごくいい彼や彼女、めちゃくちゃ気を遣い合えているように見えるカップルが、実はどこか一番大事なものが欠落していたりするんだろうなと思って。大事なのは本質で、表面で見えることはすべてじゃないというか、真実じゃない場合が多いなと思うので。この2人も一見うまくいっているカップルで、すごく気を遣える彼で、彼女のこともよくわかっているように見えるけど、実は本当に大切なものが欠けていたから弥生は失踪してしまったのかもしれない。そんなカップルを目指しました」。

一方の森とは、大学時代のまぶしくも壊れやすい恋愛模様を作り上げた。「テレビなどで見た印象で、お芝居に関しては感性でやっていらっしゃる方なのかなという気がしていましたが、その通りでした。この作品は森さんの感性が生きる撮影手法をしていたし、森さんの素敵なところがたくさん出ている作品になっていると思います」。

『るろうに剣心』シリーズで魅せる圧倒的な佇まいも魅力の佐藤だが、ラブストーリーの中で息づく佐藤健には、色気や儚さがあふれる。ラブストーリーに臨む際に意識することはあるのだろうか? 「用意しないようにしようというか、こういう演技をしようと考えないで、その時感じたまま演技ができたらいいなと思っています。だから本当に相手の方によって自分も変わっていくんですよね。今回も森さんや長澤さんとお芝居をして、もちろん過去パートはこうなればいい、現在パートはこうなればいいみたいな思いはあるんですけど、とはいえ、演じるときはいったん何も考えずに臨むと、芝居が勝手に変わるんですよね。それはすごく面白いなって思いながら毎回やっています」との答えが。

また、『恋はつづくよどこまでも』で演じた天堂浬のように相手を振り回す“俺様キャラ”もあれば、今回のように相手に振り回されるどちらかといえば“受け”のキャラクターを演じることもある。どちらがやりやすいかという問いには、「振り回す系の女性キャラが好きなんです。観るときも、演じるときもそっちのほうが楽しいかな。翻弄されている感じはやってて楽しいですね(笑)」と教えてくれた。

◆プライベートはどうでもいい 作品を後悔なきようにやりたい

佐藤は3月21日に誕生日を迎え、35歳となった。30代も折り返しとなり、思い描いていた30代を歩めているか尋ねると、「そもそもこんな30代になりたいと思い描いてなかったです。準備できていない状態で突入し、30代のうちにこれをやろうと考えるようになったのは、32~33歳になってから」だと明かす。「俳優って年代によって演じる役が違うじゃないですか。その尊さをすごく感じていて。10代にしかできない役、20代にしかできない役、30代にしかできない役があるんだったら、悔いの残らないように、30代にやりたい役はやっておきたいなって思っています。そういう意味でいうと、仕事ではやり残したことのないようにしたいという思いが強いです。今の自分の中ではプライベートは正直どうでもよくて。作品を後悔なきようにやりたい」ときっぱり。

最近の佐藤はYouTubeを始めたり、千鳥のノブとバラエティの冠番組に挑んだり、さらにはプロデューサーとして作品に携わるなど、さまざまなジャンルで挑戦が続く。「もちろんやったことがないことにチャレンジしたいという気持ちはありますが、YouTubeもノブと謎解きしたりするのも、自分の中では日常というか、新しいことにチャレンジしている感は自分の中にはないんです。むしろ、いつもやっていることをできるだけ皆さんに見ていただけたらいいなということでしかないですね。作品をプロデュースすることも、作品について考えることはいつもやっていることじゃないですか。より公式的に深いところで関わることができるというだけなので、本質は変わらなくて。面白い作品を作っていきたいということが一番大きい。それだけですね。本当に」。

本作でまた新しい佐藤健像を見せてくれた佐藤だが、自身は佐藤健という人間をどんな人物だと捉えているのだろう? そう尋ねると「“省エネ”だと思います。燃費がいい。昔から無駄にエンジンをふかさないというか。…地球に優しくいたいので」。そう、いたずらっぽい笑顔で答えてくれた。(取材・文:田中ハルマ 写真:高野広美)

映画『四月になれば彼女は』は、3月22日公開。

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