「求人2.0」時代突入!スキマバイトの活用で人手不足を解消

「働きたい時間」と「働いてほしい時間」をマッチングする「スキマバイト」という新たなかたちの求人サービスを開発したタイミー(東京都)は、慢性的な人手不足の課題を抱えている流通業界にとっても欠くことのできない存在となっている。代表取締役の小川嶺氏にスキマバイトサービスの外部環境と同社の事業戦略、リーディングカンパニーとしてのミッションについてきいた。

売場の人手不足を解消、SMでも導入が加速

──「スキマバイト」という新たな働き方を提案するサービスを開発し、直近の導入事業者数9万8000社、ワーカー数700万人の実績を持つタイミーですが、流通業界の人手不足に関する見解を聞かせてください。

小川 業界にかかわらず日本全体が求人媒体に求人を出しても人が集まらない、深刻な人手不足に陥っていることが前提にあります。流通業界、とくに食品スーパー(SM)の場合、レジ打ちや品出しのほか、調理やパック詰めなど作業が多岐にわたり、せっかく雇ってもすぐにやめてしまうという離職率の高さも課題となっています。デジタル・トランスフォーメーション(DX)による自動化も推進されていますが、コスト面が折り合わず導入が思ったように進んでいない印象も受けます。

流通業界のトレンドは日々変化しており、プライベートブランド(PB)比率を上げることによる利益率の向上、自社アプリを活用した販促や顧客の囲い込みなどさまざまな取り組みを行っていますが、いずれの施策も最終的には売上、利益に貢献することが目標です。

これらと同様、「スキマバイト」という仕組みを活用し、売場の人手不足を解消することでチャンスロスを減らし売上に結び付ける。そういった攻めの文脈で「タイミー」を活用していただけたらと考えています。

小川嶺(おがわ・りょう)立教大学経営学部卒。高校生の時に起業に関心を持ち、リクルート/サイバーエージェントでのインターンを経験。2017年8月にアパレル関連事業の株式会社Recolleを立ち上げるも1年で事業転換を決意。18年8月よりスキマバイトアプリ「タイミー」のサービスを開始

──タイミーはさまざまな業界で導入されていますが、業界別の導入実績について教えてください。

小川 事業スタート後の2019年7月は飲食関連での導入が6割弱を占めていましたが、コロナ禍に入り物流業界での導入が増えました。23年7月現在は「軽作業」が48.7%、「飲食」28.7%、「販売」が13.5%となっています。「販売」の内訳を見ると、SMが45%と最も多く、次点でコンビニエンスストア、ドラッグストア、総合スーパーと続いています。

──SM業態ではどのような募集が多いのですか。

小川 店舗での採用が中心で募集職種はチェッカーをはじめ、総菜調理やパック詰め、値札付け、シール貼り、商品陳列・補充などさまざまです。スキマバイトはこの数年で認知が広がったことからSMでの導入が加速しており、23年7月の募集人数は前年同月比の約22倍と過去最高を記録しました。とくに平日と週末で客数に差がある店舗では、曜日によって必要人員に差が生じるため、その人時差を埋めるために当社を活用していただくケースが増えています。

営業部門の手厚いサポートが高いリピート率へつながる

──SMの職種は内容によって事前の教育も必要だと思います。タイミーではどのようなサポートを行っていますか?

小川 まず当社の社員数は約1000人ですが、そのうち約半数がカスタマーサクセスと呼ばれる営業部署に所属しています。当社のサービスはクライアントに対し、本部に1人、事業所に1人、担当者が付き、クライアントと伴走する点が特長です。カスタマーサクセスの事業所担当は店長やエリアマネージャーなど現場からのニーズをヒアリングする役目、本社担当は事業所担当からの情報を集約し本社の人事・幹部と相談しながら全体の方向性をプランニングする役目を担っています。カスタマーサクセスは飲食、物流、小売など業界ごとにセクターが分かれており、同セクター内で情報共有することでサービスの向上につなげています。

──ITスタートアップで営業人員がそれほど多いというのは珍しいですね。

小川 ええ、当社が営業部門の人員を強化しているのはクライアントである事業者のサクセスを重視しているからにほかなりません。

当社はビジョンとして「一人ひとりの時間を豊かに」、ミッションとして「『はたらく』を通じて人生の可能性を広げるインフラをつくる」を掲げています。「タイミー」は、事業者が勤務時間や求めるスキルを設定するだけで条件にあったワーカーを自動的にマッチングするサービスです。昨今の人手不足により求人コストの上昇や、既存スタッフの残業増加、労働環境の悪化といった問題が起きていますが、当社のサービスはこれらの問題を解決するソリューションの1つと考えています。

──実際のSMでの活用事例を教えてください。

小川 店舗での導入の場合、事業所担当が店舗にお伺いし、募集する職種や時間、求めるスキル等をお聞きして提案します。職種によっては事前教育も必要となりますので、そういった場合は店舗と協力しながらマニュアルを作成し、ワーカーに事前送付するようにしています。また総菜などの調理作業がある場合、検便が必要となりますが、事業者・ワーカーともに費用負担なしで検便検査が実施できる「検便検査対応」を23年6月より導入しています。

──ワーカー向けのマニュアルはどのように作成しているのでしょうか?

小川 基本的にはクライアントのパート・アルバイト向けマニュアルをワーカー向けにアレンジし製作しています。ワーカーの場合、スポットでの起用が基本ですのでたとえば入店方法や着替えの場所など、専用の項目も加筆しています。

──就業後には評価・レビュー制度があると聞きました。

小川 はい。ワーカーは就業後、「掲載内容どおりの業務だったか」「勤務時間は提示どおりか」「またここで働きたいか」の3点について、「GOOD」「BAD」で回答します。一方、事業者側もワーカーの働きぶりについて評価を行います。

当社ではリピート率の向上に注力しており、現在はワーカーの約70%がリピーターとなっています。同じ店舗で何度も働くワーカーが増えれば、事業者側も教育コストを抑えることができる。評価・レビューのデータを積み上げることは事業者・ワーカーともにマッチングの精度向上につながり、結果的にリピート率の向上につながります。SMの場合、ワーカーからの評価はミステリーショッパーのような機能も持っています。実際に同じ企業でも店舗によって評価に差が出るケースも多く、ワーカーからの評価を生かし、マニュアルの改定や現場の人材育成にも生かすことができます。

無料でワーカーの引き抜きが可能

──スキマバイトのサービスは競合も出てきています。タイミーを選ぶメリットはどこにあるでしょう?

小川 まずはカスタマーサクセスによるサポート体制の手厚さが挙げられます。タイミーは単なる単発バイトの採用ツールにとどまらず、クライアントの健全経営のために何ができるかを常に考えサービスを提供しています。たとえばワーカーからの評価が悪かった場合、事業所担当のカスタマーサクセスが改善点を一緒に考え、ワーカーにとっても店舗の従業員にとっても働きやすい環境づくりをめざしています。

また当社は事業者数9万8000社、約23万拠点という規模感とともに、就労実績を持つアクティブなワーカー登録数が他社に比べ多い点が特長です。たとえばSMの場合、早朝の時間帯やオープニングスタッフなどできるだけ近所の方に働きに来てほしいというニーズがあります。当社の「タイミー」には大抵の地域に就労経験を持つワーカーが登録しているため、マッチングのミスマッチも起きにくいという利点があります。

また事業者とワーカーの中で互いに長期雇用を希望した場合、「引き抜き」ができる点も当社の大きな特長です。引き抜きがあった場合も当社への報告義務や紹介料は必要なく、その点でも多くの導入企業から高い評価をいただいています。

──熟練したワーカーを引き抜ける点は現場にとって大きなメリットですね。

小川 ありがとうございます。タイミーを利用したことがない企業によっては「初めて来た人がきちんと働けるのか」と不安に感じ、導入を見送るところもありますが、こうした企業は従業員にマルチタスクを求める傾向にあります。

ただ少子高齢化が進む日本において人手不足は今後も続くでしょう。求人広告を出稿したり、正社員が残業をしたりすればコストがかかりますし、過度の残業は離職率増加にもつながりかねません。それであれば部門ごとに業務の切り分けを実施し、スキマバイトを活用することは既存従業員の労働環境改善、生産性の向上にもつながります。

──最後に今後のミッションについてお聞かせください。

小川 「タイミー」は23年10月にワーカーのスキルや実績を可視化する「バッジ機能」を追加するなど、さらなるサービス向上に注力しています。当社はスキマバイトのサービスを通じ、事業者・ワーカーともに働きたくなる環境づくりをめざしていきたいと考えています。

タイミー 企業概要

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