医師不足…埼玉北部の患者、群馬県へ流出する事態も 全国的に医師数が少ない両県、抱える喫緊の課題は

未来医療人の育成プログラムのシンポジウムに登壇した小和瀬教授(左端)と柴崎教授(右端)と、医学部生=さいたま市大宮区のレイボックホール

 埼玉県と群馬県が共有する課題を解決しようと、埼玉医科大学と群馬大学などによる「埼玉・群馬未来医療人育成シンポジウム」が、さいたま市大宮区のレイボックホール(さいたま市民会館おおみや)で開かれた。講演した筑波大学付属病院副院長で総合診療科長の前野哲博さんは、総合診療専門医制度に触れ、「地域を丸ごと診る」地域医療の意味を説いた。当日は、オンライン参加を含め、高校生や医学生、医療関係者ら123人が参加した。

 両県は、人口当たりの医師数が全国的にも低く、深刻な医師不足の課題を共有している。また、本県北部の一部地域では、患者が県境を越えて群馬県へ流出。地域の医療需給の問題を解決することも喫緊の課題となっている。

 前野さんは6年前に導入された総合診療専門医制度について「地域医療の担い手を育てる制度として期待される一方、その育成が充分に進んでいない」と説明。教育プログラムのコーディネートをするなど力を注いでいるという。

 「サッカー場に例えるなら命のゴールを必死に守るペナルティーエリアが医療機関。ほとんどの医師がここにいる。フォワードの仕事は住民がさらに健康になるように病の早期発見や治療をする。総合診療医は地域社会の中で、場を診る、丸ごと診る、ずっと診るの三つが重要」と話した。

 これからの高齢化社会においては、医師としてオールラウンドプレーヤーが必要となり、総合診療医は臓器別のハードルを取り払い、患者自身だけでなくその地域を診る「かかりつけ医」として力を発揮できる存在となる。

 今春、埼玉医科大学に地域枠で入学する三郷市の高橋直暉さん(19)は、「父が開業医。父の背中を見て地域の方々に信頼される医師になりたいと思った」と話した。

 第2部の育成プログラム紹介では、群馬大学大学院医学系研究科教授の小和瀬桂子さん、埼玉医科大学教授の柴崎智美さんと医学生3人が登壇。「初めて学ぶ地域医療、両大学生の合同授業」について発表した。

 群馬大学医学科1年の多賀谷滉世さん(19)は、「地域医療のイメージが具体的につかめた。他学部や多職種の皆さんと連携していきたい」。埼玉医科大学1年の富岡美羽さん(19)と諫山あおいさん(19)は、「地域を支えるさまざまな要素の一つが医療。地域の背景を理解し、予防へのアプローチができたらいい」と目を輝かせていた。

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