60歳 一級建築士 田中ナオミさんの暮らし「困りごとがあったら、腹をくくって対処に動きます」

日々を明るく照らしてくれる小さな楽しみや、心を潤すための暮らしの工夫は、幸せを感じさせてくれます。そんな暮らしを営み、わたしらしく、今を生きる女性を紹介する『60代からの小さくて明るい暮らし』(主婦の友社)から、一級建築士の田中ナオミさんを2回に渡り掲載します。

PROFILE
一級建築士
田中ナオミさん(60歳)
東京都在住
夫婦ふたり暮らし(ご両親との二世帯住宅)
大阪府生まれ、徳島県育ち。1999年、東京都八王子市に「田中ナオミアトリエ一級建築士事務所」を設立。生活者目線に立った住宅設計が専門。近著は『がんばりすぎない家事の時短図鑑』(エクスナレッジ)。

人が好き、暮らしが好きだから家づくりを続けてきた

「あー気持ちいい。やっぱりよく晴れた青空が一番好きだなあ」
抜けるように青いこの日の空を見上げて、田中ナオミさんは言いました。自宅には、住宅設計を担当した芸術家が彼女のためにつくったアートがいくつか。青空をモチーフとしたそれらのアートは、からりと晴れた空のような彼女の人柄も表しているかのようです。

美大でインテリアを学び、建築デザイン事務所に就職した田中さん。
「でも若い女が資格もなしに現場に行っても相手にされず、お客さんは所長の顔ばかり見て話していて。わたしもお客さんとしっかり向き合って仕事をしたい。それには建築全体を指揮できないとだめだと思って、働きながら夜間学校へ。猛勉強の末に建築士資格を取りました」

努力が実り、自身の主導で設計を行う中で、魅力を感じたのが“住宅”でした。
「人が好き、暮らしの営みが好き。それが生業につながるのが家づくりです。家は、住み手としっかり関わらないとつくれないもの。プライベートな空間をつくることで、住み手と深い交流が生まれることもよくあります。机上の空論ではなく、リアルな日常の家事の経験がすべて生かせるのも楽しいんです」

2つの事務所で経験を積み、36歳で独立。八王子市の夫の実家を建て替えて二世帯住宅兼アトリエに。以来、住宅を専門とする建築家として活躍しています。

「建築は大きなお金が動くしお客さんの思い入れも強いから、心配で眠れないような夜もあります。それでも解決に向けて動くしか道はない。経験を重ねた今でも気が重い現場に行く前には、お守り代わりに手帳に挟んでいる亡き母の手紙に勇気をもらいます。“どんなに怒られても殺されはしないから”という施工業者さんもいたけれど、それくらい腹をくくらないと立ち向かえないこともまれにあります」

持ち前の明るさと、数々のタフな現場で培われた胆力が、ちょっとやそっとではゆるがぬ足腰をつくっているようです。

「わたしはくよくよしない。全力で対処にあたったら、ケセラセラ。たいていのことは、それでなんとかなるって信じています」

日々を照らす、小さな楽しみ

朝は4時起き。朝日を浴びて体調を整えます

朝日を浴びると体がしゃきっとするし、夜に悩んでいたことも“なんとかなるさ”と思えるので、わたしのつくる家は朝日が入る設計が多いです。自宅も朝日がさんさんと降り注ぎ、朝の仕事が心地いい。起床する4時台はまだ暗いのですが(笑)。

飲酒はガマンしたくないから、スポーツクラブで汗を流し水をがぶがぶ飲む!

おいしく飲み食いするのが大好き。だからできるだけ毎日スポーツクラブで汗を流し、水をがぶがぶ飲んで体内を循環させます。夏場は3リットルは飲みますね。水は「ソーダストリーム」で微炭酸にしたり、畑でとれた柚子をしぼったりも。

日常に小さなユーモアを!

くすりと笑えるものは、なごやかな会話を生んでくれます。下の写真の左中央の「妄想工作所」のほっケース(ホッケ型ペンケース)では仕事現場でどれほど笑いをとったか!その下の写真はコピーライターの土屋耕一さんの回文豆本。お気に入りは「酢豚つくりモリモリ食ったブス」。

「妄想工作所」のほっケース(ホッケ型ペンケース)(左中央)
土屋耕一さんの回文豆本。
仕事のあとは、ふたりで乾杯。話題を持ち寄って、興味の幅を広げていきたい

365日お酒を飲むわたしに、夫は小さなグラスでつき合ってくれます。おかずは自家農園のイモと玉ねぎの煮物や魚の南蛮漬けなど、野菜中心で塩分控えめに。一日別々に過ごしたからこそ話題はいろいろ。これが夫婦の円満の秘訣です。

読書をしながらの入浴で心身の巡りを活発に

お風呂に浸かって汗を流しながら読書するのが日々の楽しみ。重松清さんなど好きな作家はいますが、ジャンルを決めずガツガツとブックサーフィン。1冊読むとその関連で読みたい本が出てくるし、新聞の書評欄で本に出会うことも多いです。

同志と旅に出て、好奇心を満たしています

建築視察が目的の国内外の旅は、ひとり旅か同業の仲間と。メキシコのブリキのアート、インドネシア・バリ島の木彫りはその思い出。最近も建築家チーム「まちいえ東京」の仲間と山形へ。網戸の話だけで数時間話せる、大切な同志です。

メキシコのブリキのアート。
バリ島の木彫り。

写真/清永洋

※この記事は『60代からの小さくて明るい暮らし』主婦の友社編(主婦の友社)の内容をWeb掲載のため再編集しています。


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