訪問介護、報酬減に悲鳴 事業撤退、人材不足で「難民」発生の恐れも 青森県内

木村友和さん(仮名)宅で生活援助を行う坂井さん(右)。「一人一人に向き合う訪問介護はやりがいのある仕事」と語る=4日、むつ市

 青森県内の訪問介護事業所が、ホームヘルパー(訪問介護員)不足や収益不足に苦しんでいる。事業撤退や縮小を余儀なくされるケースもあるとされる。2024年度の介護報酬改定で、訪問事業所の基本報酬が下げられた。関係者は「さらに撤退が進み、サービスを受けられない『介護難民』が発生する恐れがある」「人材が集まるような報酬体系が必要」と訴える。

 「住み慣れた家での生活を支援するのが訪問介護。報酬減となれば、事業継続が難しくなり、サービスを受けられない人が多くなる」

 むつ市ホームヘルパーステーションの介護支援専門員・横山一枝さん(53)は、先行きの不安を口にした。

 厚生労働省は24年度の介護報酬改定で、訪問介護事業所について、全体で見ると利益率が高いとして、報酬の基本料を減額することを発表した。

 ただ、関係者によると、地方の中小の事業所は、広い地域の高齢者宅を一軒一軒回るため、時間も経費もかかるという。「特に冬場は移動が大変。燃油高の影響も大きい。人手不足も深刻」と横山さん。

 同事業所のホームヘルパーは8人。1日4~5軒の利用者宅を回るが、通院対応すると1人に1日がかりとなる。人員不足のため、日曜日のサービス提供を縮小しており、新規利用の申し込みは、断らざるを得ないこともある。市内にある20弱の事業所はどこも人材不足という。

 「ヘルパーはなり手が少なく、“絶滅危惧種”とも言える。働き盛りの人が減っている下北では特になり手がいない。人員を確保するためには、より高い賃金水準が必要。その賃金を支える報酬のアップが必要」と、横山さんは厳しい表情を見せる。

 同市で特別養護老人ホーム「恵光園」を運営する社会福祉法人・光仁会は、10年ほど前から休止していたヘルパー事業を再開する方向で動いている。在宅介護のニーズが増しているからだ。ただ、ヘルパーの求人を出しても集まらない。特に朝夕の食事時間帯に働ける人材は少ないという。市中心部から南に約10キロ離れた南通り地区にある法人周辺は、在宅介護を受けられない世帯が出てくる恐れがあるという。

 村田敏子施設長は「高齢者が高齢者を介護する『老老介護』の世帯では、ヘルパーの支援はとても重要。しかし、その担い手が少ない」と表情を曇らせる。

 むつ市の社会福祉法人・青森社会福祉振興団の中山辰巳理事長は今回の報酬改定について「自宅に訪問し、個別のニーズに対応する本来の訪問介護は立ちゆかなくなるだろう。一方で一定の敷地内にある有料老人ホームなどに効率的にヘルパーを派遣する大規模事業所はますます大規模化するのではないか」と説明する。

 階上町などで介護施設を運営し、介護人材育成にも力を入れる株式会社リブライズの下沢貴之代表は「マイナス改定になると、確実に事業者は少なくなっていく。現在でも相当数閉鎖はあるはず」と話す。

 厚労省の集計によると、22年度、全国の訪問介護事業所のうち、36.7%が赤字経営。東京商工リサーチによると、23年の訪問介護事業者の倒産は全国で67件と過去最多となった。 

▼ヘルパー不足 生活困難/むつの男性

 「ヘルパーさんのおかげで自分の生活は成り立っている。しかし、妻の在宅療養がかなわないのは残念」

 むつ市の木村友和さん=80代、仮名=はこう語る。木村さんの世帯は市内のヘルパー不足の影響を受けている。

 友和さんは持病のリウマチ、妻の裕子さん=80代、仮名=は脳血管障害の後遺症のため長年、ヘルパーの生活援助を受け、夫婦で支え合いながら自宅で暮らしていた。

 しかし、昨年夏、裕子さんが感染症発症で一時入院。退院後、自宅に戻ろうとしたが、状態が悪化した裕子さんの就寝を介助するヘルパーが見つからない事態に。ケアマネジャー(介護支援専門員)が複数の事業所に問い合わせても夜間に従事できる人がおらず、やむを得ず裕子さんは施設に入ることになった。

 1人暮らしとなった友和さんは「妻と2人、テレビでメジャーリーグの大谷選手の活躍を見るのが楽しみだったが今はできない」と寂しそうに言う。現在週2日、むつ市ホームヘルパーステーションのヘルパーに来てもらっている。

 3月4日は同事業所の坂井純さん(51)が清掃の援助に入っていた。坂井さんのテキパキとした仕事ぶりを見ながら友和さんは「ヘルパーがいなかったら自宅での生活はできない」と語った。

 坂井さんは以前はデイサービスで働いていた。訪問介護の魅力について「一人一人と向き合い、その人に合ったサービスを提供できる。利用者さんから感謝されるとやりがいを感じる」と述べた。

 ◇

ホームヘルパー(訪問介護員) 在宅の高齢者や障害者を訪問して身体介護や家事支援などをする。食事や入浴、排せつ、着替え、寝返りの介助など基本的な生活を継続できるようにするほか、掃除や洗濯、買い物や調理などを援助したり、代行したりする。

© 株式会社東奥日報社