「アバター接客は心がオープンになる」 アバター活用で社会課題を解決

AVITA株式会社COO・西口昇吾さん

劇作家・演出家 平田オリザさんのラジオ番組(ラジオ関西『平田オリザの舞台は但馬』)に、アバター(Web上のコミュニケーション時に用いられる自分の分身となるキャラクター像)やAIを活用したDXサービスを展開するAVITA株式会社COO・西口昇吾さんが出演。アバター技術によって広がる人間の可能性について語った。

【写真】アバターが接客対応!? 人々の可能性を拡張する「アバター接客」の様子

鈴鹿工業高等専門学校を卒業後、大阪大学基礎工学部に編入学した西口さん。そこでロボット研究者である石黒浩教授や、コミュニケーションの研究を行っていた平田オリザさんに出会う。折しも、研究室では「性能をあげればロボットは人間に近づける」という視座を超え、ロボットの動きを“演出”することで「人間らしさとは何か」を模索していた。

大学在学中について、西口さんはこう振り返った。

「オリザさんは意思決定が正確で速いので、演出家というより起業家もしくはプログラマーという印象でした。ロボット演劇の演出においても『楽しそうに』というぼんやりとした指示ではなく、『あと0.5秒、間(ま)をとって』『3メートル前に』など、定量的なディレクションをする。そんな演出法を分析していくと、“話す”という行為よりも先に身体の一部が動くなど、“人間らしいふるまい”のルールも言語化できるようになりました。このときの経験は、今の事業でも役に立っています」(西口さん)

その後、「テクノロジーを用いた会話型双方向メディアの提供を試みたい」という思いから日本テレビの技術開発部に新卒入社。アンドロイドアナウンサー「AOI ERICA」を起用したプロジェクトや、バーチャルYouTuber事業などを立ち上げ、新しいメディアの創出に奮起していたところ、石黒氏と再会した。

「20年以上にわたってロボットの研究をしてきて、僕の父ほどの年齢である石黒先生が、『世の中を変えるためにはビジネスにする必要がある』『スタートアップをやりたい』と言うんですよ。『オジサンばかり集めてもどうしようもないしね』って(笑)。これは誘ってもらっているんだと思って、その日に決断し、(日本テレビを)退職してAVITAを設立しました」(西口さん)

AVITAが提供するサービスのなかで注目を集めているのが、アバターを使ったリモート接客サービス「AVACOM」だ。インターフェイスとしてアバターを用い、ChatGPTなどのAIと連携することにより、自宅から複数拠点への対応が可能となる。すでに大手コンビニエンスストアや保険会社が導入しており、店舗における省人化や売上アップなどさまざまな効果が表れているという。

以前よりアバター接客に興味を持ち、実際に体験をしたことがあるという番組アシスタントの田名部さんはこのように語った。

「なにより、自宅でお茶を飲みながらノーメイクで働けるのは魅力(笑)! アバターという“仮面”を被ることで老若男女問わず従事できるので、外出困難な方も社会と接点をつくることができる。声かけの手法などはトレーニングが必要だが、笑顔の可愛い自分の化身(アバター)を見ていると、おのずと自身も笑顔になるという予期せぬフィードバックもあった」(田名部さん)

サービスを展開するなかで、西口さんは「アバターの活用は人の可能性を拡張させる」と確信しているという。

「見た目はマスキングされるけど、心はオープンになる。生身の人間のほうが、社会的地位や人との関係値に左右されて信用できないですよ。実際に保険会社では、顧客に年収や家族構成などデリケートな情報を自己開示してもらう必要があるため、アバターの指名率・売上率がナンバーワンというデータも出ています。リアルの延長線ではなく、リアルでできなかったことにチャレンジしようという発想でアバターをとらえることができるのは、八百万の思想やロボットアニメに親しんだ日本人のほうが有利かもしれません」(西口さん)

西口さんのコメントをうけ、平田さんもこのように応えた。

「『仮面劇』は、人類の歴史においても古くから用いられてきたコミュニケーション法です。人はもともと多様な人格を持っていて、日常生活においても仮面をかぶるように人格を切り替えている。話せなかった人が、アバターを介して話せるようになる可能性がある。教育の分野でも応用できますね。多くの人の福音になるのではないでしょうか」(平田さん)

働く人々のQOL向上、労働人口減少問題などの社会課題を、アバターは軽やかに解決してくれるのかもしれない。

※ラジオ関西『平田オリザの舞台は但馬』2024年3月14、21日放送回より

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