【寄稿】駒場書籍部店長が語る、表現する場としての書籍部

駒場Ⅰキャンパスの一角にある東大生協駒場書籍部。東大生の多くが大学の教科書や参考書、趣味の本などを購入するため、一度は立ち寄ったことがあるだろう。しかし駒場書籍部は、単なる本の「売り場」ではないという。書籍部の機能について、店長に寄稿してもらった。(寄稿=東京大学生協駒場書籍部・足立裕太、画像はすべて駒場書籍部提供)

東京大学生協駒場書籍部で店長をしている足立と申します。今回は書籍部における“本を売ること”以外の側面をお伝えするために寄稿させて頂きました。その側面とは“書籍部は利用者の声を表現する場”であるということです。4つの事例を挙げてご紹介します。

1つめに“店頭在庫希望用紙”をご紹介します。これは「確実に買うか分からないけど現物を見てみたい」「他の本と内容を比較してみたい」といった要望を書いて頂くためのものです。仕入れ可能なものは売場に揃え、仕入れ不可の場合は理由をご返答しています。利用者の声を反映できるリアル書店ならではの仕組みだと思っています。「他の書店で見かけないから仕入れてほしい」という要望に応えられると、書籍部を頼って頂けて嬉(うれ)しく思います。

実際の店頭在庫希望用紙

2つめに“一言カード”をご紹介します。これは書籍部に限らず東大生協の店舗に置いてあり、要望だけでなく思ったことやメッセージなど何でも書いて頂けるものです。昨年、書籍部に「そろそろ『4分33秒』のような本が売られてもいいはず」という投稿がありました。『4分33秒』はジョン・ケージが作曲した、4分33秒の間なにも演奏しないという曲です。これを本に置き換えると、書名があり本の体裁はしているが本文は空白であるものだと理解しました。私が調べたところ合致する商品が2つ見つかったので、ジョン・ケージの関連書籍とあわせてミニコーナーを設置しました(当コーナーは現在設置していませんが、音楽書棚に商品自体は残してあります)。これは利用者の声を、生協職員がアレンジして表現した事例と言えます。投稿をされた方は、そういう本が仮にあればおもしろいなというニュアンスで書かれていたように思いますが、実物をお見せすることができてよかったです。

一言カードの実例

3つめに“利用者からの企画提案”をご紹介します。学生団体や教職員の方から、テーマとそれに合致する品揃えリストを提案して頂くことがあります。ご提案があれば、設置場所と仕入れ商品の調整を行い、できるだけご要望に沿ったコーナーを設置するようにしています。テーマは様々で、この本とこの本を関連づけるのかといった発見や、普段在庫のないジャンルを仕入れる新鮮味があり、私たちも楽しく取り組んでいます。直近の事例ですと、児童文学読書サークルによる企画を実施しました。利用者の反応は上々で、発信の場として書籍部を活用して頂けたことを嬉しく思います。企画提案をしてみたいという方は、東大生協HPにある“書籍部からのお知らせ”を参照して頂くか、店舗でお声がけください。

児童文学読書サークルによる企画

4つめに、先にご紹介した2つめと3つめをあわせた事例をご紹介します。直近の事例として、昨年12月に「パレスチナ問題に関する誤った情報が書かれた本が出回っているので、信頼できる本を東大の先生に推薦してほしい」という投稿がありました。この投稿を受けて、書籍部をご利用の先生方にご相談したところ快く選書を引き受けてくださいました。つまり利用者の声に対し、利用者の企画提案で回答したということです。仕入れた書籍に先生方のコメントを付してコーナーにし、多くの方にご注目頂いています(当コーナーは2024年5月上旬頃まで設置予定です)。東大の中で普段過ごしていると意識しなくなるかもしれませんが、キャンパス内にその道の第一人者が大勢いらっしゃるわけです。利用者から寄せられた声に対して、第一人者たちが丁寧に回答をくださり、その結果を利用者全体に広めることができるというのは、考えてみれば贅沢な話です。それができるのは、普段から書籍部をご利用頂いている方々のご参加とご協力があってのことです。

パレスチナ問題に関する選書コーナー

今回ご紹介した売場の作り方は、街中の書店やネット書店ではあまり見かけないと思いますが、個性を出すことを目的に取り組んでいるわけではありません。“利用者の参加によって運営される”という大学生協の在り方そのものが表れた結果です。それが結果的に個性や特徴になっているかもしれませんが、店舗側からの一方的な提案だけではなく、利用者側から発信されたものが形になることに意味があります。次回ご来店の際に“書籍部は利用者の声を表現する場”であるという見方でも楽しんで頂ければ幸いです。

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