2024年2月の「雇用調整助成金」不正受給76件 公表累計は1,040件、不正受給額は311億円に

~ 第5回 「雇用調整助成金」不正受給企業 調査 ~

全国の労働局が2月29日までに公表した「雇用調整助成金」(以下、雇調金)等の不正受給件数は、2020年4月に調査を開始以来、1,040件に達した。不正受給の総額は311億4,553万円にのぼる。

前回調査(1月発表、2023年12月31日公表分まで集計)から2カ月間で121件増加し、1,000件を超えた。月別では2024年1月が45件、2月は76件と増勢をたどり、2月は月間最多の2023年10月(97件)に次ぐ歴代2番目の高水準だった。

不正受給で社名が公表された1,040件のうち、東京商工リサーチ(TSR)の企業データベースに登録された776社を対象に分析した。産業別では、最多はサービス業他の347社(構成比44.7%)で、内訳は飲食107社、宿泊25社、経営コンサルタント23社、人材派遣18社、旅行16社、美容11社など、コロナ禍で痛手を受けた業種が目立った。

公表時点の業歴別では、10年未満が318社で3割(構成比40.9%)を占めた。このうち、新型コロナ感染拡大で雇調金の特例措置が始まった2020年4月以降に設立(創業)した企業は38社だった。経営計画が甘く、財務基盤の脆弱な新興企業が、資金調達のために不正に手を染めた背景が浮かび上がってくる。

雇調金の特例措置では、迅速な支給に向けて手続きを簡素化した弊害で、制度を悪用した不正受給も相次いだ。発覚した不正受給は、2023年12月末で2,666件、支給決定取消金額は約532億5,000万円に及ぶ。2023年3月の特例措置の終了から1年が経つが、不正受給の摘発が減少する兆しはうかがえない。

※本調査は、雇用調整助成金または緊急雇用安定助成金を不正に受給したとして、各都道府県の労働局が2020年4月1日~2024年2月29日までに公表した企業を集計、分析した。前回調査は1月30日発表。

2月の公表件数は歴代2位の76件、社名公表は累計1,040件に

各都道府県の労働局が公表した雇調金等の不正受給の累計は、2024年2月29日までに1,040件と1,000件を突破した。また、支給決定が取り消された助成金は総額311億4,553万円にのぼる。

月別では、2021年2月の初公表から1年余りは1桁台で推移したが、2022年6月(15件)以降は高止まりが続く。公表件数は、2023年10月が最多の97件で、2024年2月も歴代2位の76件を記録するなど、まだ沈静化の兆しは見えない。

不正受給の内訳は、「雇調金」だけの受給が582件と約6割(構成比55.9%)を占めた。また、パートタイマー等の雇用保険被保険者ではない従業員の休業に支給される「緊急雇用安定助成金」のみが153件(同14.7%)、両方の受給は305件(同29.3%)で約3割を占めた。

最多は関東が断トツの395件、直近2カ月の増加率も最高

地区別では、最多が関東の395件(構成比37.9%)で約4割に迫る。次いで、近畿192件、中部185件、九州89件、中国77件、東北39件、四国35件、北陸19件、北海道9件の順。直近2カ月間(2024年1-2月)の増加率は、関東16.5%増(339→395件)、中国14.9%増(67→77件)、近畿14.2%増(168→192件)の順で高い。一方、最も低かったのは、九州の1.1%増(88→89件)。

都道府県別では、東京都が135件で最多。次いで、大阪府127件、愛知県120件で、上位3都府県が100件を超えた。

次いで、神奈川県87件、広島県52件、千葉県51件、埼玉県と福岡県が各36件、栃木県33件、三重県29件、京都府22件の順。

10件以上の公表は26都府県に及び、前回調査より2県増加した。このうち、11都府県で20件を上回った。

※ 各都道府県の労働局が公表した住所に基づいて集計しており、本社所在地と異なる場合がある。

サービス業他が突出

雇調金等の不正受給が公表された1,040件のうち、TSRの企業情報データベースで分析可能な776社(個人企業等を除く)を対象に、産業別と業種別で分析した。

産業別では、サービス業他が347社(構成比44.7%)で最も多く、4割を超えた。次いで、建設業100社(同12.8%)、製造業86社(同11.0%)、卸売業58社(同7.4%)が続く。

産業を細かく分類した業種別では、「飲食業」が107社(同13.7%)で最も多く、「建設業」の100社が続き、上位2業種が100社を超えた。このほか、人材派遣や業務請負を含む「他のサービス業」74社、経営コンサルタント業などの「学術研究,専門・技術サービス業」55社、旅行業や美容業を含む「生活関連サービス業,娯楽業」54社、運輸業50社が続く。上位6業種までが50社を超え、コロナ禍で打撃を受けた対面サービスを主体とする業種が目立った。

業歴浅い新興企業に偏り、10年未満が4割

TSR企業データベースに登録された776社について、創業年月または設立年月から起算した公表月までの“業歴”では、最多が10年以上50年未満の350社(構成比45.1%)だった。

次いで、5年以上10年未満203社(同26.1%)、5年未満115社(同14.8%)、50年以上100年未満90社(同11.5%)、100年以上18社(同2.3%)の順。

業歴10年未満は318社(同40.9%)と4割を占めた。このうち、38社は雇調金の特例措置がスタートした2020年4月以降の設立(創業)だった。精緻な事業計画や資金手当てが出来ないままの設立で、コロナ禍の業績不振から不正に手を染めたとみられる。


コロナ禍の営業自粛や人流抑制などによる業績悪化に直面し、従業員の雇用を維持するため、中小企業から上場企業まで多くの企業が雇調金を活用した。特に、対面型サービス業や労働集約型産業などで雇用下支えの効果が大きかった。

ただ、コロナ禍でのスピーディーな支給に向けた申請書類の省略などの手続き簡素化に伴い、申請の過誤や不正受給も頻発した。厚生労働省によると、各都道府県労働局の遡及調査で発覚した不正受給は、2024年12月末で2,666件、支給決定取消金額は約532億5,000万円に及ぶ。

このうち、延滞金等も含めた回収済額は約370億9,000万円で、約161億6,000万円が未回収となっている。雇調金等の主な財源は、企業が負担する雇用保険料を積み立てた「雇用安定資金」で賄われており、公平性の観点から不正受給には徹底した追及が求められる。

不正受給案件では、支給決定の取消金額が100万円以上、また悪質と判断されたケースは社名や代表者名、受給金額等が公表される。特に、悪質な場合は代表者など個人も対象とした刑事告訴もあり得る。不正受給金額が最大の水戸京成百貨店(2023年2月公表、10億7,383万円)では2024年1月、不正受給を主導した疑いで元社長が茨城県警に詐欺容疑で逮捕されている。

刑事告訴まで至らなくても、不正が公表された企業はコンプライアンス(法令遵守)違反で信用が失墜し、レピュテーションリスクに晒される可能性もある。さらに、受給金額に違約金と延滞金を加えた返還を求められ、雇用関係助成金の受給も5年間制限されるため、資金繰りへの影響も小さくない。

厳正な制度運用と公正さの維持のため、今後の公表件数の動向が注目される。

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