「自販機飲料」補充・配送作業者が炎天下“歩かされ”「熱中症」で死亡 遺族らが会社に損害賠償を請求

真夏の補充作業は“命”にかかわる(HiroHiro555 / PIXTA ※写真はイメージ)

3月21日、労働者の男性が自販機飲料の補充・配送業務が原因の熱中症で倒れ後日に死亡した事件に関して、男性を雇用していた会社の安全配慮義務違反などを問い損害賠償を請求する訴訟が、遺族によって提起された。

訴訟の概要

本訴訟の原告は死亡した男性(以下Aさん)の妻と兄。

被告は、コカ・コーラ製品の自販機飲料を補充・配送を行うシグマベンディングサービス株式会社(本社・さいたま市)。

被告には労働契約上の安全配慮義務に違反した債務不履行責任と注意義務に違反した不法行為責任があるとして、約5160万円の損害賠償を請求している。

エアコンが切られたトラックに待機、炎天下を徒歩で移動…

2020年8月13日、Aさんは8時45分から11時30分まで、さいたま市内の業務に従事。当日の気温は午前9時の時点で約30度、11時には約33度まで上昇していた。

Aさんの主な業務は「駐車禁止対策のドライバー助手」。ドライバーが外に出て自販機に飲料を補充している間、警察から駐車禁止で取り締まりを受けることを避けるため、トラック内で待機する。

当日、駐車中のトラックのエアコンは切られ、車内は「蒸し風呂」のようになっていたという(Aさんの兄・談)。なお、後の組合との団体交渉で会社側は「アイドリング・ストップ条例に対応するためトラックのエンジンを切っていた」と弁明したが、Aさんの事件後は駐車中もエンジンを切らずエアコンを入れるようになっている。

通常、集合場所から最初の自動販売機に移動するまでの間、また補充が終わった自動販売機から次の自動販売までの間は、ドライバー助手もエアコンの付いたトラックに乗車してドライバーと共に移動する。

しかし、当日はコカ・コーラ社が製品補充業務をシグマベンディングサービスに委託するのを終了するのに伴う、業務の引き継ぎが行われており、コカ・コーラ社から派遣された従業員が同行していた。ドライバーを含めた3名がトラックに乗ることはできないため、Aさんは徒歩で移動するように指示された。

業務が終わった帰宅後、Aさんが自宅の廊下で倒れている姿を妻が発見した。救急車が呼ばれAさんは病院に搬送されたが、重度Ⅲ(最高値)の熱中症、および「けいれん重積」(30分以上のけいれんが持続した状態)と診断された。

その後、Aさんは病院での入通院治療を継続したが、発症から1年4ヶ月後の2021年12月6日、入院中の病院で死亡した。享年64歳。

「死」にいたる熱中症のおそろしさを訴える

提訴の同日、原告らと代理人弁護士2名、労働組合の代表者が会見を開いた。

「夫は、真夏の交通量の多い道路を歩かされました。闘病中、夫は“歩かされて悔しい”と言っていました」(Aさんの妻)

原告代理人の玉木一成弁護士は、職場における熱中症被害に関して、Aさんの場合のように午前中に2〜3時間の作業を行うだけでも重篤な症状となる事例は多くある、と説明した。

近年では、職場における熱中症の死傷者数は増加傾向にある。猛暑となった2018年には全国で1178件の事例が報告され、死亡者数は28人にのぼった。

全国一般東京東部労働組合の須田光照書記長によると、同じく猛暑となった昨年についても、速報値で1000件を超える熱中症が報告されているという。

「熱中症は重度になると死の危険がある、本当に怖い病気。弟の“同僚”である運送業で働くみなさまに、この裁判を通じて、熱中症のおそろしさを再認識してほしいと願う」(Aさんの兄)

原告代理人の玉木一成弁護士(左)、梶山孝史弁護士(右)(3月21日都内/弁護士JP)

「働き方改革」によりトラックドライバーの残業時間は規制されるが…

働き方改革法案によって、大企業では2019年4月、中小企業では2020年4月から、時間外労働は原則月45時間・年間360時間と規定されている。ただし物流・運送業界は業務の特性を考慮して時間外労働の上限は年間960時間と規定。また、今年の3月末まで、適用が猶予されている。

しかし、4月1日からは上限規定が適用される。これに伴い、トラックドライバーの労働時間が短くなることで輸送能力が不足し、物流が滞る「2024年問題」が懸念されている。

Aさんの兄は、4月以降、労働力不足を解消するためのサービス残業が運送業で横行するのではないか、と懸念を示した。また、ドライバーなど労働者たちの間にも「残業代が減って生活が心配だ」という声があることに理解を示しながらも、「大切なのは自分の命を守ることだ」と訴えた。

「弟の死を無駄にしないでいただきたいと思います。自分のために、家族のために、みなさんの命を大切にしていただきたい。会社は、最後は守ってくれないと思います」(Aさんの兄)

ヒートアイランド現象や、温室効果ガスの排出が原因の地球温暖化のために、近年は毎年のように猛暑となっている。屋外で働く労働者たちにとっては、30度を越える高温という危険な環境のなかで業務に従事しなければならないリスクが増している。

全国一般東京東部労働組合は明日3月22日(金)から3月29日(金)まで「熱中症労災をなくそう!キャンペーン」を開催。平日午前9時から午後5時まで電話での相談を受け付けるほか、メールやLINEでも曜日・時間を問わずに相談を受け付ける。

「今回の熱中症死亡労災の事例を通して、私たちは多くの労働者やその家族が泣き寝入りせずに労災申請や会社への賠償請求などに動くこと、そして労働者が自分たちの安全を守るために職場での熱中症対策を求める労働運動に立ち上がることを訴えたいと考えています」(プレスリリースより)

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