ウェルビーイングで「ごきげん」な社会を実現するために。企業利益と個人の幸せの二項対立をどう超える?

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ウェルビーイング(Well-being)を『ごきげん』と訳しています
そう語ったのは、全国こども食堂支援センター「むすびえ」理事長の湯浅誠さん。

朝日新聞が主催する、ウェルビーイングな社会を推進する取り組み「WELLBEING AWARDS(ウェルビーイング・アワード) 2024」の決勝プレゼンでの言葉だ。企業の経営方針で掲げられることが増えたウェルビーイングだが、その解釈、実現に向けた方法は様々。個人が心も体も充足した状態であるために、企業ができることは何だろう。きれいごとに終わらず、利益追求との矛盾を超えてウェルビーイングを実現するため、必要なものとは。

ウェルビーイング学会代表理事の前野隆司さん、同学会副代表理事の宮田裕章さんが審査委員長を務めた今アワードから探る。

左から前野隆司さん(慶應義塾大学教授、ウェルビーイング学会代表理事)、宮田裕章さん(慶應義塾大学医学部教授、ウェルビーイング学会副代表理事)

令和の家庭科の教科書には「自立と共生」も

そもそも、実現すべきウェルビーイングとは具体的にはどのようなものなのか。ウェルビーング特集記事を掲載している「ハフポスト日本版」泉谷由梨子編集長は「バズワード化しているけれど、ウェルビーイングの実態はつかみどころがない」と問題提起。

これからの社会に必要なウェルビーイングは何かを考えるプログラム「ウェルビーイングテーブル」(ウェルビーイング・アワード2024内で開催)で、SIGNINGビジネスプロデューサーの佐藤克志さんらと話し合った。

そこで注目を集めたのが、「家庭科の教科書」。ウェルビーイング100 byオレンジページ編集長の前田洋子さんは「今、家庭科の教科書がすごいです。ある高校の家庭科の教科書には《自立と共生を目指そう。あなたは『大人になる』とはどのようなことだと思いますか?》とあります。そのために『自分を見つめる』といった項目もある」と令和の家庭科の教科書を紹介した。

令和の家庭科の教科書を紹介する前田さん

これには「料理のつくり方などからはじまり女性も大工仕事をするようなところまで進んできて、自立して生きるというところまで教科書で扱われるようになったのかと驚きました」(泉谷編集長)、「自分の第一の居場所である家庭。そこから未来を変えていくことは根本的解決につながるのでは」(佐藤さん)、「地域やコミュニティを見直すべきだと言われている。いろんな家族があるなかでコロナ禍以降の家庭や地域社会がどのように表現されているのか。興味深い」(SIGNINGチーフリサーチディレクターの鷲尾和彦さん)などの感想が。ウェルビーイングが個人や家庭のあり方と切り離せないこと、教育現場でも変革が行われていることについても話し合われた。

社会、人間のA面・B面。どちらもウェルビーイングに大切な要素

個人のあり方におけるウェルビーイングについて、社会生活と人間の「A面」「B面」も話題に。漫画家・田房永子さんによる「A面B面概念図」(「上野先生、フェミニズムについてゼロから教えてください」大和書房より)を泉谷編集長が紹介した。A面とは職業や立場など対外的なもの。B面とは心やあるがままの自分といった内面的なもの。

田房永子さんによる「A面B面概念図」を紹介する泉谷編集長

泉谷編集長は「どちらも大切なものなのに、これまでニュースではA面に重心を置きすぎていたかもしれない」と発言。前田さんは「人間のなかでA面・B面は常にせめぎあっている。昔は『幸せになりたい』と思っても牧歌的なこととされてあまり表明することはできなかった。今は『私は幸せになりたい。幸せになるにはどうしたらいいんだろう』と堂々と言える、考えることができる時代ですね」と応えた。

佐藤さんは「サイレントマイノリティレポートを制作して、そこでわかったのは社会的にマイノリティというだけでなく、個人である一人ひとりが他人には言えない悩みを持っていること」、鷲尾さんは「これまできちんと扱われてこなかったB面にどれだけ気づけるかが重要。今回のウェルビーイング・アワードで発表されたプレゼンにもすべてB面への観点が混ぜられていると感じました」とコメント。

ウェルビーイングな社会の実現には表層的なA面、より内面的なB面両方が必要であり、企業のあり方にも重要ではないかという視点が共有された。

左から泉谷編集長、佐藤さん、前田さん、鷲尾さん。佐藤さんと鷲尾さんは幸せの国といわれるデンマークの事例から、人々が居場所を感じられる仕組みも紹介した

WELLBEING AWARDS2024。各部門のグランプリは

「商品・サービス」「活動」「組織」のなかで多様な幸福価値観と健康に向き合い、認め合える社会づくりに貢献する事例とは実際どのようなものなのか。最優秀賞に輝いた、各部門グランプリとコメントはこちら。

【モノ・サービス部門】グランプリ株式会社丸井グループ「応援投資」~人と人をつなぐ、新たな投資のかたち~

「自分の資産形成と誰かを応援するという応援投資の取り組みを2015年よりスタートし、インドをはじめとした新興国での8万人の女性の就労支援とお客様の資産形成につなげています。利益と幸せの二項対立を乗り越えた、手触り感のあるサービスを構築することができました」(丸井グループチーフウェルビーイングオフィサー小島玲子さん)

左から審査員の森永貴彦さん(株式会社LGBT総合研究所 代表取締役社長)と松田文登さん(株式会社ヘラルボニー 代表取締役Co-CEO)、株式会社丸井グループの池田さんと小島さん

【活動・アクション部門】グランプリ認定NPO法人 全国こども食堂支援センター・むすびえ地域の多世代交流拠点である「こども食堂」の支援を通じて、「誰も取りこぼさない社会」をつくる活動

「誰からも頼まれてない、お金も儲からない、制度にもなっていないこども食堂が全国で続々と立ち上げられていることに日々感動しています。そんなみなさんの取り組みが『ごきげんな人と地域をつくっている』と認められました。祝福したいと思います」(湯浅さん)

左から審査員の大高香世さん(Hakuhodo DY Matrix 100年生活者研究所所長)と鈴木寛さん(東京大学公共政策大学院教授、ウェルビーイング学会副代表理事)、むすびえの湯浅さんと三島さん

【組織・チーム部門】グランプリ株式会社ポーラ/ポーラ幸せ研究所リーダーもメンバーも幸せに成果を出すーウェルビーイングマネジメント7か条ー

「ポーラにはビューティーディレクターと呼ばれるスタッフが全国に約2万3000人おります。これまでずっと、みなさんが幸せに働くために試行錯誤をしてきました。その活動自体がウェルビーイングの探求であることに気づき、体系化したのが幸せなチームつくり7か条です」(元林由喜さん)

左から審査員の島田由香さん(株式会社YeeY 共同創業者/代表取締役、アステリア株式会社CWO、日本ウェルビーイング推進協議会理事長)、株式会社ポーラの手塚さんと元林さん

「これからはウェルビーイングな組織が世界をリードしていく」

最後に、前野審査委員長は「ウェルビーイングな世界では利他的な人が幸せです。今日は日本中、そして世界中の人がウェルビーイングな世界をつくろうという大きな変革のための一歩。最後は80億人がウェルビーイング・アワードを受賞するようになってほしい」とコメント。

宮田審査委員長は「農業革命、産業革命と続いてデジタル革命の時代。ここから先はウェルビーイングな組織あるいはネットワークが世界をリードしていく。つながりであり、多様性やウェルビーイングを可視化しながら未来をつくっていくことが重要だと感じています」とコメントした。

ウェルビーイング・アワード2024で発表されたプレゼンは、どれも企業によるものでありながら個人的な領域への踏み込み、組織外への広がりを感じさせるものであった。

社会は変化しているし、個人と企業のあり方も変わることが必要。単一企業だけの利益追求ではなく垣根を超えたつながりを持つこと、成長ではなくお互いただ「ある」ことを尊重すること、未来を信じることがウェルビーイング社会の実現へのヒントになるのではないだろうか。

▼WELLBEING AWARDS2024 決勝プレゼン・トークセッション・授賞式の内容はこちら
https://www.youtube.com/live/zs86xjK2hxU?si=GsQHW8PhV4QgpvzJ

主催:ウェルビーイングアクション実行委員会
共催:ウェルビーイング学会
特別協力:ワークスタイリング

(取材・文 樋口かおる)

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