【海外試乗】ヒョンデ アイオニック5 N「爆速BEVでMの先を狙う!Nの本気モードに喝采を」

ヒョンデが日本市場に再参入してからまもなく2年が経過する。その代表車種であるミドルサイズのBEV、アイオニック5のスペシャルモデル「N」が2024年中に日本でも登場する予定だ。今回はひと足先にアメリカで試乗した様子をお届けしたい。(MotorMagazine 2024年4月号より)

ドイツ人エンジニアが全霊を傾けて開発

ヒョンデの「Nシリーズ」、すなわちヒョンデのハイパフォーマンスモデルを語る時に忘れてはならないのは、ドイツ人エンジニアのアルバート・ビアマン氏である。

スタンダードなアイオニック5と比べると、全長は80mm長く、全幅は50mm広い。それでいながら全高は60mm低いことからも、スポーティなシルエットに変更されていることがわかるだろう。アイオニックシリーズ共通のランプデザイン「パラメトリックピクセル」はNモデルでも採用される。

彼は2014年にBMW M社の開発担当副社長からヒョンデグループの開発本部長として抜擢されて韓国に渡った。その後、同グループのスポーツセダンであるキア スティンガーを手掛け、やがてヒョンデi20Nやi30Nなどのスポーツモデル「Nシリーズ」の開発を指揮したのである。

「N」とはその開発が行われるドイツの聖地ニュルブルクリンク、そして開発本部のある韓国の南陽の頭文字を意味する。しかし私は、ビアマンの本音は「N」はアルファベット順で、古巣である「M」よりも先を狙って付けたネーミングであるに違いないと信じている。

そしてビアマンが退職時期を延長してまで開発したのが、今回アメリカ・ロサンゼルス郊外にある走り屋の聖地「アンヘレス・ハイウェイ」にて試乗した、ヒョンデのBEV「アイオニック5」のスポーツモデル「N」である。

センターコンソール部分が「Nモデル」専用設計となり、可動式ではない。

アイオニック5 Nのボディサイズはエッジの立ったフェンダーをはじめとする専用パーツが与えられた結果、通常のアイオニック5と比べて全長が+8cm、全幅が+15cm、そして全高は-2cm
となっている。

またCd値は巨大なスポイラーなどによってダウンフォースが増しており、通常モデルよりも優れた0.3と発表されている。(通常モデルは0.32)

インテリアは基本的にはベースとなったアイオニック5に準じているが、サポート性に優れたスポーツシートやアルカンタラが巻かれたステアリングホイールが特別装備されている。

またセンターディスプレイはNモデル専用のアイコンとメニューが用意されており、スポーツマインドを高揚させる演出がなされている。

街乗りで硬い足まわりが生む「オンザレール感覚」

パワートレーンはフロントに226ps、リアに383psの最高出力を発生する電気モーターが配され、最大740Nmのトルクを発生する。また走行状況に応じて前後アクスルのトルク配分を10%〜90%の間で自在に変化できる。

専用のヘッドレスト一体型スポーツシートを装着する。大きなサイドサポートが備わっており身体をしっかりホールドしてくれる。

面白いのはこの電動パワーがあたかも8速ギアを介して走行しているように制御されていることだ。走行モードをスポーツにしてアクセルペダルを踏み込むと、人工の電子サウンドがまるでシフトアップしているかのように車内に響き、圧巻の加速が始まる。

加速時の姿勢は、3000mmのロングホイールベースのおかげもあり非常に安定している。一方で足まわりは、やはりスポーツモデルらしい硬さで、路面の悪いアメリカ西海岸のハイウェイでの120km/h程度の巡航では低扁平タイヤを通じて、ダイレクトなショックが伝わってくる。

ただしこの硬さはワインディングコースに入ればコーナリング時のロールを抑え、オンザレール感覚でラインをトレースすることに大いに貢献する。さらに電子制御のリミテッドスリップデフはきれいなドリフトを見せるように適切な介入を実現していた。

試乗コースは、走り屋の聖地と呼ばれる北米ロサンゼルス近郊の「アンヘレス・ハイウェイ」だった。車両重量は2300kgを越えるが、身のこなしは軽快だ。

アルバート・ビアマン氏はすでに引退したが、彼はこのクルマの開発にあたって「ICE搭載のスポーツモデルに引けを取らないどころか、電気モーターによる優れた反応特性を活かした新しい領域のスポーツモデルを目指した」と表現した。

その言葉どおり、アイオニック5 Nは電気モーター駆動の特徴を生かした素晴らしいEVスポーツモデルだった。日本ブランドも負けていられない。(文:木村好宏/写真:キムラ・オフィス)

■ヒョンデ アイオニック 5 N 主要諸元(欧州仕様車)

「N」マークは、BEVの新たな領域を拓くアイコンなのかもしれない。

●全長×全幅×全高:4715×1940×1585mm
●ホイールベース:3000mm
●トレッド前/後:1667/1672mm
●車両重量:2310kg
●モーター:交流同期電動機
●最高出力 前/後:166kW(226ps)/282kW(383ps)
●システム最高出力:478kW(650ps)
●システム最大トルク:740Nm(75.5kgm)
●バッテリー総電力量:84.0kWh
●WLTPモード航続距離:448km
●0→96km/h加速:3.4sec
●最高速度:259km/h
●駆動方式:4WD
●タイヤサイズ:275/35R21
●ドイツでの販売価格(付加価値税込/日本円換算):約1215万円

■参考:ヒョンデ アイオニック5 ラウンジ AWD 主要諸元

●全長×全幅×全高:4635×1890×1645mm
●ホイールベース:3000mm
●車両重量:2100kg
●モーター:交流同期電動機
●最高出力:225kW(305ps)/2800-8600rpm
●最大トルク:605Nm(61.7kgm)/0-4000rpm
●バッテリー総電力量:72.6kWh
●WLTCモード航続距離:577km
●駆動方式:4WD
●タイヤサイズ:255/45R20
●日本国内での車両価格(税込):589万円

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