ナイスアイデアの“濃い”写真が目白押し! 学生達の写真にプロ写真家がアドバイス

By CAPA編集部

『CAPA』本誌連動企画として毎月公開している、月例フォトコンテスト「学生の部」ピックアップ作品レビュー。今回は『CAPA』2024年4月号より、誌面に掲載された入賞作品に加え、全応募作品の中から審査員の鵜川真由子先生が目を留めた “気になる作品” をピックアップしてアドバイスします。さらなるレベルアップのためのヒントが満載です!

自分の写真を自分の目でセレクトしよう

今回は新たにたくさんの方が応募してくださり、一段と濃い内容になりました。まず、1席の下浦茉侑さんの作品はオリジナリティーという点で飛び抜けていました。美しいものをただ美しく撮るだけではない、世界を独自に捉える視点を持つポテンシャルの高さに期待しています。

そして今回初めて動物の作品が入賞したことも嬉しいですね。風景・乗り物・スポーツなどさまざまな作品を拝見できることは楽しみですし、ぜひ上位を目指してほしいと思っています。

今回一つ気になったことは、一人で大量の写真を応募するというスタイルの方が多かったことです。いい写真とは何なのか、自分の表現とは何なのかを考え、自分の目でセレクトをすることは、上達のために非常に大切なプロセスです。最終的には2~3点まで絞れるよう、意識して考えてみてください。

〈講評〉鵜川真由子

1席「四感」(4枚組)

下浦茉侑 (和歌山県田辺市 / 18歳 / 和歌山県立神島高校 / 写真部)

ニコン D5600 18-55mm 絞りF10 1/10秒、1/1600秒、1/160秒、1/80秒 -0.7補正、-1.3補正 ISO800

その場の空気までも写し込んでいるかのような瑞々しさに引かれました。きれいなだけではなく、ざらざらとした引っ掛かりがあるのがいいと思います。枕についた髪の毛もとてもいいですね。それによって単なる物質としての布ではなく、人の気配まで捉えることができ、匂い立つような色香を感じられる作品になりました。

2席「ハレの日準備中」(3枚組)

柳生陽音 (福井県越前町 / 18歳 / 福井県立丹生高等学校 / 写真部)

ニコン D500 17-50mm 絞りF7.1、F3.5、F3.2 1/160秒、1/125秒 ISO3200、ISO1600

てらいのない、真っ直ぐストレートな描写が気持ちのいい作品です。双子の存在感が大きいのはもちろんですが、彼女たちが撮影者に心を許している様子から、きちんとコミュニケーションを取りながら撮影していることが伝わってきます。

3席「センチメンタリスム」

三谷蒼天 (大阪府松原市 / 16歳 / 大阪府立生野高等学校)

ニコン D5500 AF-S DX NIKKOR 18-55mm 絞りF5 1/100秒 +1.3補正 ISO2500

美しい作品ですね。まずはやってみよう! という姿勢が写真上達への第一歩です。アイデアを持ち、それを形に落とし込めていることが素晴らしいです。試行錯誤を繰り返すことで自分の世界が出来上がってくるので、ぜひこのまま続けてほしいと思います。

入選「みてみて」

板倉音瑠 (愛知県岡崎市 / 17歳 / 光ヶ丘女子高等学校 / 写真部)

キヤノン EOS Kiss M2 EF-M55-200mm F4.5-6.3 IS STM 絞りF5 1/1250秒 ISO1600 WB : オート(撮影地 : 愛知県豊橋市)

子どもの小さな手と、もっと小さなお猿さんの手が、多くを語っているように思います。素敵な瞬間に出会えたこと、それを逃さずシャッターを切ったこと。写真というものの一番大切な部分を、シンプルに表現している作品です。

入選「静寂 (しじま)」

牛田千結沙 (愛知県稲沢市 / 16歳 / 愛知県立津島高等学校 / 写真部)

ニコン D300 70mm 絞りF22 1/2500秒 ISO1000

電車の大きな音が聞こえそうなのに、それが無音になるほど引き付けられた風景だというのがなんとも文学的です。はみ出すほどのダイナミックな構図が少女の存在感を引き立てていますが、その背中は一体何を語りかけているのでしょうか。

入選「空模様」

佐野 碧 (千葉県流山市 / 17歳 / 千葉県立柏の葉高等学校 / 写真部)

キヤノン EOS 7D 絞りF8 1/1600秒 ISO400

とても不思議な作品ですが、なぜだかとても引き付けられます。見ている側が勝手に何かを想像したくなるような、いくつものストーリーがあるような、そんな魅力がありますね。個人的には作者の頭の中をのぞいてみたいと思いました。

入選「まる さんかく」(2枚組)

藤澤 心 (大阪府松原市 / 16歳 / 大阪府立生野高等学校)

キヤノン EOS Kiss X10 EF-S18-55mm F4-5.6 IS STM 絞りF5.6 1/250秒、1/60秒 ISO100 WB : オート

自然体でのポートレートが印象的ですが、それに視覚的な面白さが加わり奥行きのある作品となりました。作者には「場」を作る力があるのでしょう。撮る側も撮られる側も楽しんでセッションしている様子が伝わり、見ていて気持ちが温かくなりました。

入選「年輪」(4枚組)

川﨑廉斗 (和歌山県田辺市 / 17歳 / 和歌山県立神島高校 / 写真部)

キヤノン EOS Kiss X10 EF-S18-55mm F4-5.6 IS STM 絞りF5、F6.3、F8、F16 1/1000秒、1/400秒、1/250秒、1/500秒 -0.3補正 ISO400

写真のうまさはダントツでしょう。高校生でこんな写真が撮れることに感心しています。ただ今回は組写真にしたことで説明的になってしまいました。「お爺さんの手」一枚で勝負した方がより強い作品になっと思います。そのような大胆さも時には必要かもしれませんね。

入選「付喪神 (ツクモガミ)」

田中大喜 (愛知県日進市 / 17歳 / 愛知県立天白高等学校)

キヤノン EOS 6D 80mm 絞りF13 1/80秒 ISO2000 WB : 3200K

寝ている間に課題を終わらせてくれたら……というのは作者の素直な願望なのでしょう。しかし現実はそうはいかないというストーリーがユーモアあふれる作品となり、思わずクスッと笑ってしまいました。アイデアがとても良かったです。

入選「青春もたけなわ」

堀川大地 (川崎市川崎区 / 16歳 / 神奈川県立川崎北高等学校 / 写真部)

キヤノン EOS RP RF50mm F1.8 STM 絞りF6.3 1/80 秒 ISO6400

大胆な構図がいいですね。ガラスへの映り込みを利用した作品はよくある手法ですが、今回はその中にしっかりとストーリーが感じられたのが良かったです。嘘のない、女子高生たちのリアルな日常が描写されていて、美しいと感じました。

ここからは、惜しくも選外となった作品の中から、鵜川真由子先生が気になった作品をピックアップしてアドバイスします。

ピックアップ「Angel」

佐藤怜奈 (川崎市高津区 / 15歳 / 神奈川県立川崎北高等学校 / 写真部)

ニコン D7000 Nikkor 28-80mm F3.3-5.6 絞りF5.3 1/30秒 -2補正 ISO250 WB : オート

丸いライトを天使の輪に見立てたアイディアがとても面白いですね。ただ、描写にはリアルな人間っぽさが残っていて、どっちつかずになっていたのが残念なポイントでした。もし作り込むならば髪型や衣装、背景の色など細部までこだわる必要がありますし、反対に自然体で撮るなら偶然の出来事のように見せることでユーモアのある作品になったかもしれません。

ピックアップ「こっち向いて」

坪井柚奈 (愛知県小牧市 / 17歳 / 愛知県立小牧南高等学校)

キヤノン EOS RP 24-105mm 絞りF20 1/250秒 ISO3200

逆光の中でふんわりと撮りたかったのですね。惜しいです。光が強過ぎました。直射日光にレンズを向けると白く飛び過ぎてしまうので、レースカーテンを一枚引くなどして、少し光を柔らげましょう。その上で、日光をレンズに直接入るか入らないかの位置に持ってくる、そして露出を少し上げる、という工程を経れば、フレアは入るがまぶし過ぎない、ちょうど良いふんわり感になります。

ピックアップ「夏、晴れのち雨」(3枚組)

廣畠大侍 (和歌山県田辺市 / 17歳 / 和歌山県立神島高校 / 写真部)

ニコン D7500 18-55mm 絞りF29 1/320秒、1/250秒、1/160秒 -0.3補正 ISO20000

雨の中でも果敢に写真を撮る姿勢、素晴らしいですね。その甲斐あって非常にパワフルな作品になりました。最後の一枚は幻想的でもあります。ただしタイトルを見た時、セレクトはこれで良かったのかな? と思いました。少ない枚数で何かを伝えるには、セレクトが鍵になります。自分の写真を客観的に見る癖をつけられるといいですね。

ピックアップ「性」

宇井絢音 (和歌山県田辺市 / 18歳 / 和歌山県立神島高校 / 写真部)

キヤノン EOS Kiss X10 18-55mm 絞りF4.5、F4 1/40秒、1/25秒、1/200秒、1/20秒 +0.3補正、-1補正、-1.3補正 ISO1600、ISO800、ISO400

力のある写真を撮る人だからこそ、今後の飛躍のためにあえて厳しめのアドバイスをさせてください。今回の題材は深く繊細なテーマです。まずは挑戦する姿勢が素晴らしいし、写真もとても美しいです。ただし実際の心の機微を当事者ではない人が演じ、作品として発表することは「表面上そのように見える」に過ぎず、時には他人の人生を搾取することにもなり得ます。

テーマが深ければ深いほど、なぜあなたがそれを撮るのか、撮らなくてはならないのか、その意味を問われるのです。よく考え、リサーチし、掘り下げること。そして知識としてだけではなく自分が体験して感じたことを大切にしてください。その時に見えたことこそがあなたの「核」であり、撮るべきテーマなのだと思います。期待しています。

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