複雑なGT300新スタイルの予選はいかに!? ドライバーたちに聞く“模擬予選”から見えてきたものは

 3月16〜17日、岡山国際サーキットで行われたスーパーGT公式テスト。2024年をうらなうテストでもあるが、注目のセッションとなったのが、1日目午後のセッション2だ。“模擬予選”として行われ、2024年からのスポーティングレギュレーションで変更された新たなスタイルの予選をシミュレーションした。実際に走ったドライバーはどんな感想をもったのだろうか。GT500に比べてやや複雑な予選システムをもつGT300クラスの複数のドライバーに聞いた。

 まずおさらいとして、スーパーGTでは2024年からスポーティングレギュレーションが変更され、レースウイーク中に使用できるタイヤのセット本数が変更された。300kmレースの場合、昨年までの5セットから1セット減り、4セットでレースウイークを戦わなければならない。なお今季は350kmレース、3時間レースがあるが、350kmの場合はタイヤ5セット、3時間は6セットとなる。

 タイヤセット本数の削減は、ひとつのセットでより長くレースを戦えるようにし、環境負荷削減を目指すためのものであり、7セット持ち込みが可能だった2019年と比較すると、年間で1台あたり84本ものタイヤ本数削減に繋がっているという。ただ、セット数削減により、土曜午前の公式練習やファン向けサービスであるサーキットサファリを走らないチームが現れる可能性があることから、予選を1セットで戦うことをレギュレーションで定め、決勝もそのタイヤでスタートすることになった。

 昨年まではノックアウト形式の予選だったスーパーGTだが、タイヤ1セット、ふたり以上で戦うスタイルを考えながら、さまざまな検討を経て考え出されたのが今季からの予選方式だ。GT500クラス、GT300クラスともQ1、Q2のタイム合算方式となり、予選上位にはポイントも付与されることになった。また予選不出走車両等はフォーメーションラップ1周目にピットイン、ピットスタートとなるなどのレギュレーションが採用されている。

 GT500の場合は、10分間のQ1、8分間のQ2をそれぞれ15台が走り、そのタイム合算となるのである意味シンプルだが、やや複雑なのがGT300。Q1はA組、B組と分かれそれぞれ10分間行われ、各組の上位がQ2の『アッパー16』、下位が『ロワー17』に分かれそれぞれQ2を行う。またQ2でロワー17の上位4台、アッパー16の下位4台のQ2終了時の合算タイムを比較し、予選順位を入れ替える特別ルールが採用される。なおGT500、GT300とも各組上位3台平均の107%が基準タイムとなる。

2024スーパーGT岡山公式テスト GT300模擬予選中のピットレーンの様子

■さまざまな課題もあれば“メリット”もあり

 GTアソシエイションとしては、この新しいスタイルの予選について「新しいモータースポーツのエンターテインメントとして、新たにチャレンジしたいと思っており、一戦一戦アップデートして面白さを伝えられるようにしていきたい(沢目拓レース事業部長)」と今後もブラッシュアップしていきたいとしている。単に導入して終わり……ではなく、さまざまな意見を採り入れ、より良いものにしていきたいという考え方だ。

 では、実際に岡山公式テストで行われた“模擬予選”に臨んだドライバーたちの感想はどうだろうか。特にQ2については、やはりニュータイヤを履いてのアタックができないことに対して「ドライバー個人としては、それは面白くはないです」とニュータイヤでアタックができないことに対し、異口同音に“課題”が多く聞かれたのは致し方ないところか。

 この予選方式について10名ほどのドライバーに聞いたが、明確に「僕は反対」という声もあれば、「坂東正明代表が言う『音の出るレース』を続けるためには取り組まなければいけないこと」という声もある。ドライバーとしての本音はニュータイヤを履きアタックを決めたいところだが、理解する思いもあり複雑な心情が感じられた。

 一方この予選方式になることでの“メリット”を挙げるドライバーもいた。

「面白いか面白くないかで言えば、それはニュータイヤの方が面白いです。でも、ドライバーふたりとも走るというルールは良いと思っています。どうしても今まではQ1で落ちてしまうと、応援して下さる方がいるのに、土曜に出番がなかったのは寂しいことだと思ってましたから」

「1セットで予選をやるのは仕方がないですし、予選らしくはないですが。あとは見せ方じゃないでしょうか。テレビや場内でどう表示されていたのか分からなかったのですが、あとはメディアの皆さんが頑張って欲しいなと(笑)」

 ちなみに、今回はあくまで“模擬”であったことから、レギュレーションどおりにQ1とQ2で必ずしも1セットのタイヤで全車がアタックしたわけではないことも付け加えておかなければならない。タイヤテストの必要から、Q2もニュータイヤでアタックしたチームは複数存在していた。

 なお、予選形式についての意見もあった。「気になるのはグループAでQ1をやった組がアッパー16に行くと、時間があいてタイヤが冷えちゃうんですよ。そこでグループBとの条件がバラついている」いう声も。Q2までの間がグループAとグループBで異なり、一度熱が入ったタイヤがグループA出走車の方がより冷えてしまう。揃ってニュータイヤで走っていた昨年までのQ2ではなかったことだ。

 さらにQ2のアッパー16に出走したドライバーからは「Q2は時間が短すぎてアタックできませんでした。あの中で引っかかってしまったら、リカバリーが効かないですね」という声も。これまでGT300のQ2は10分間あったが、今季からは8分間。2分の違いが大きいというところだろうか。

 またQ2のアッパー16の前にロワー17の走行があるが、上位は“入れ替え”の可能性があるとは言え、ある意味で下位争いとも言える。「Q1をAグループで走った後だと、アッパー16まで待っているのが長く感じるし、ロワー17を『どういう気持ちで見ればいいんだ?』と思いましたね」という声もあった。

2024スーパーGT岡山公式テスト GT300クラスのスタート練習の様子

■グリッドをうらなうキーパーソンはQ1のアタッカー!?

 Q2については、一方で難しさも聞かれた。「今までの予選だったら、タイヤのグリップがカバーしてくれるので、マキシマムで行ってちょっと滑っても、タイヤがカバーしてくれるところがあったんです」というコメントも。

「でもユーズドだと、マキシマムで行くとやっぱりちょっともたない。横方向のグリップが耐えてくれなかったり。その調整が必要だと思いましたね」

 別のドライバーは「Q1の後にGT500が予選をしますよね。それで路面が仕上がるんじゃないかと予想したんです。たしかにQ2はグリップはしていて、コンディションがかなり良くなったと思いました。意外と新品のQ1とユーズドのQ2がどっこいどっこいになるんじゃないかな? と思います。もちろんニュータイヤの方が面白いとは思いますけど」とも。

「タイヤの温め方はQ1と同じようなイメージで、タレはニュータイヤよりも少ないので、2周連続アタックはしやすいです。意外とQ1の人の方が一発で決めてタイヤを残しておかなければならないので、Q1のドライバーの方がキーパーソンになるのではないでしょうか」

 この言葉にもあるとおり、「難しい」かつ「こっちの方が重要」という声が聞こえてきたのはQ1のアタッカーだ。2023年までのGT300クラスの予選では、2回連続でアタックするのが一般的だった。しかし2024年からは、Q2や決勝を見すえて、タイヤを残しておかなければならない。

「1周しかアタックしなかったです。もう1周いけばタイムはもっと上がったと思いますが、そこでもう1周行ったときのゲインと、Q2でどれだけロスするかをまだ掴めていないですね。もっと言えば、決勝のことも考えなければいけないので難しいですよ」という声も。

 また2周目のアタック時にセクター1のタイムを聞き、取り分が大きければそのままアタック、少なければアタックを止める……といったプランも聞こえてきた。他にも1周のみでアタックを終えたドライバーは多かった。

「Q1の人は距離を伸ばせないです。逆にQ2の方が気が楽でしょうね。Q1でピークを求めていくのか、それなりにQ2へ向けてタイヤを残すために“置き”に行くのか」

 これまでもQ2進出のためにQ1のアタッカーはかかるプレッシャーが大きかったが、今季からはまた違った意味でのプレッシャーがかかりそう。合算タイムならではの難しさが今季の予選では見られそうだ。このあたりは特にシーズン序盤戦、注目のポイントとも言えるかもしれない。

 GTアソシエイションでは環境対応ロードマップ『SUPER GT Green Project 2030』を定め、これに向けてさまざまな施策を行っている。このタイヤ本数削減はその取り組みの一環でもあり、新たな予選方式はそれに対応するためのものだ。先述のとおり「新たなチャレンジ」であり、今後改良が加えられていくはずだ。そのために岡山、そして富士公式テストでもさまざまな意見を募っている。

「たしかにドライバーからも言われているのはQ2で、ベストタイムが更新できない可能性が高いです。ワンアタックしたタイヤでもう一度いかなければいけませんから。自分もドライバーをやっていますが、ニュータイヤよりユーズドの方がタイムを出すのは正直難しいと思います。ちょっとしたミスをタイヤがカバーしてくれるのではなく、ミスがミスとして出る部分があると正直思っています」と岡山公式テストの土曜に語っていたのは、服部尚貴レースディレクター。

「タイムとしてはたしかに落ちると思います。例えば1秒ニュータイヤより落ちるとして、コーナーが10個あったら、各コーナーでコンマ1秒落ちることになりますが、ファンの皆さんにとっては、そのコンマ1秒よりも、クルマをねじ伏せる走りが観られると思うので、逆に自分はその点を楽しみに思っています」

 Q1の難しさや、ユーズドでのタイムの出し方など、新しいスタイルならではの見どころもある。まずはそれを見守っていきたいところだ。服部レースディレクターも「これはやってみないと分からないですし、ドライバーサイド、チームサイド、レースコントロール側もいろいろ変わっていきますので、どう対応していくか。次の富士でもシミュレーションを実施しますが、2回のシミュレーションでタイムの部分、ファンの皆さんにどう見せられるかをやってみて、改善点を洗い出していきたいと思います」と今後のさらなる改善に向けて語った。

「ドライバーたちはみんな良いレースを見せたいと走ってくれると思いますが、この新しい取り組みは自分も未知数すぎて見てみないと分からないことばかりなので、一緒にシミュレーションを観ていきたいと思います」

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