<ライブレポート>石田組×鈴木愛理の異彩コラボコンサート 美しい演奏が全身に響き渡る

ヴァイオリニスト石田泰尚率いる弦楽器集団「石田組」と、ソロボーカリスト鈴木愛理によるコラボレーションコンサート【billboard classics 石田組×鈴木愛理 -石田組から鈴木愛理への挑戦状-】が2月29日、東京・紀尾井ホールにて開催された。

石田組は、石田の呼びかけにより2014年に結成された弦楽器合奏団。構成メンバーは「組長」である石田が信頼を置く、第一線で活躍しているオーケストラメンバーを中心にその日のプログラムによってさまざまな編成で演奏するスタイルを取っており、この日はヴァイオリンに佐久間聡一、野尻弥史矢、大宮臨太郎、丹羽洋輔が、ヴィオラに生野正樹、古屋聡見が、チェロに西谷牧人、広田勇樹が、そしてコントラバスに米長幸一が招集され、クラシックの名曲から映画サントラ、そして鈴木の持ち曲をはじめとしたJ-POPのナンバーまで、幅広いジャンルの楽曲が演奏された。

この日は昼の部と夜の部があり、筆者が訪れたのは昼の部。客席には清塚信也の姿もあり、観客として訪れていたにもかかわらず石田によりステージに引っ張り出され、鈴木と3人で軽妙なトークを聞かせるサプライズな一幕もあった。

会場となった紀尾井ホールには、石田組のファンと鈴木のファンが混在。中にはピンクに光るペンライトを手にした鈴木のファンもおり、普段のクラシックコンサートとはひと味違う熱気に開演前から包まれていた。

定刻となり、石田組の「組員」たちが登場すると客席から大きな拍手が起こる。遅れて石田が姿を現し、さっとチューニングを済ませるや否や、息を呑むような美しいヴァイオリンの響きが会場に降り注ぐ。まずはチャイコフスキーの代表作の一つである「弦楽セレナーデ」の第一楽章でこの日のコンサートが始まった。チャイコフスキー曰く、「モーツァルトへのオマージュ」として書かれたこの曲は、どこか悲しげでメランコリックな主旋律が心のひだに染み渡る。

続く「リベルタンゴ」は、アルゼンチンのバンドネオン奏者、アストル・ピアソラによるタンゴの名曲。コントラバスとヴィオラが絡み合いながらリズミカルなフレーズを高速で繰り返し、その上でチェロとヴァイオリンが伸びやかな旋律を交互に奏でていく。先ほどの美しいアンサンブルから一転、楽器のボディを叩いてタンゴのリズムを生み出すなど、そのパンキッシュとさえいえる演奏に客席のボルテージもどんどん上がっていく。

「今日の歌手、どうぞ!」

ここで石田がぶっきらぼうに呼び込んだのは、今日のゲストである鈴木愛理。黒いドレスに身を包んだ彼女が笑顔で姿を現すと、会場からは大きな拍手が巻き起こった。2人の出会いは、鈴木が清塚と司会を務めるNHKの音楽番組『クラシックTV』。そこに石田がゲスト出演したことが、今回のコラボレーションコンサート実現のきっかけになったという。

そのコワモテな風貌からは、想像もつかないほど照れ屋でシャイな石田。ステージ上の鈴木とほとんど目を合わせることもなく、挨拶もそこそこに次の曲へ。スリリングかつエキゾチックなヴァイオリンのフレーズは、日本歌謡史に輝く久保田早紀の名曲「異邦人」のイントロだ。ファルセットと地声を巧みに使い分けながら、切なくも美しいメロディを情感たっぷりに歌い上げる鈴木。続く「おとなの掟」は、鈴木が大のお気に入りというTVドラマ『カルテット』のために、椎名林檎が書き下ろした主題歌。オリジナルでは、松たか子や満島ひかりらドラマの主要キャストが入れ替わり立ち替わり歌うこの曲を、鈴木はキュートな声や艶やかな声、透き通るような美しい声など、声色を使い分けながら歌っているのが印象的だった。

ここで石田と鈴木のクロストーク……かと思いきや、鈴木が何度か言葉を交わそうと試みるも、やはり照れて一言も話さず次の曲の準備をし始める石田。続く「笑顔」は、鈴木が2022年にリリースした楽曲である。吉澤嘉代子が作詞作曲を手がけるこのアコースティックなワルツを、弦楽器でアレンジ。鈴木はまるでミュージカルのように、言葉の一つひとつを確かめ、慈しむように歌い上げていた。

絢香の「三日月」を、まるで月明かりのような青い照明の下で歌い、1部の最後はディズニー映画『美女と野獣』から「美女と野獣(Beauty and the Beast)」。どこまでも駆け上がっていくような、高揚感たっぷりのメロディを力強く歌う石田。それに応え、彼女を支えるように石田がヴァイオリンでハーモニーを奏でている。その美しい響きが会場を満たし、この日の最初のクライマックスが訪れた。

2部は再び石田組だけで、エンニオ・モリコーネによる屈指の名曲「ニュー・シネマ・パラダイス」。美しくノスタルジックなその演奏にうっとりしていると、一転してステージは紫の照明に包まれる。ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロがユニゾンで繰り出したのは、英国出身の1970年代ハードロックバンド、ディープ・パープルの代表曲「紫の炎(Burn)」のリフだ。抑揚たっぷりのメロディを、石田が体を激しく動かしながら奏で、目まぐるしく転調を繰り返すエンディングに客席からは大きな拍手と歓声が鳴り響いた。

ここで鈴木も再登場。彼女が鈴木雅之とコラボした「DADDY ! DADDY ! DO !」、「光」を続けて披露し、鈴木が所属していたアイドルグループ℃-uteの代表曲「夢幻クライマックス」へ。ショパンの「革命のエチュード」やベートーヴェンの「ピアノソナタ第14番《月光》」など、クラシックの名曲が散りばめられたこの曲が、石田組バージョンではパガニーニの「24のカプリース第24番」、メンデルスゾーンの「ヴァイオリン協奏曲」が引用されリアレンジされている。超絶な速弾きで煽る石田に、負けじと鈴木も熱唱。本編最後は、鈴木のニューシングル「最強の推し!」。客席から自然発生的に始まったハンドクラップに乗せて、〈あなたがいるだけで こんなに強くなれるの〉と石田を見つめながら歌う鈴木が、そのまま満面の笑みを客席に向けると、会場はひときわ大きな拍手に包まれた。

アンコールでは、クイーンの「ボーン・トゥ・ラヴ・ユー(I Was Born To Love You)」を石田組だけで演奏し、石田組のオリジナルTシャツ姿になった鈴木とともに、中島みゆきの「糸」を披露。この日の公演を締め括った。

鈴木の伸びやかな歌声と、石田の力強くも繊細なヴァイオリンで、〈いつめぐり逢うのかを私たちはいつも知らない〉〈縦の糸はあなた横の糸は私〉〈織りなす布はいつか誰かを暖めうるかもしれない〉と歌われる、この中島みゆきの屈指の名曲を聴きながら、全く違う場所で、全く違うキャリアを重ねてきた世代も性別も違う2人のアーティストが、こうして巡り合い“音楽”というタペストリーを織りなす、そんな“運命の悪戯”に想いを馳せずにはいられなかった。

Text:黒田隆憲
Photo:石阪大輔

◎公演情報 ※終演
【billboard classics 石田組×鈴木愛理 ―石田組から鈴木愛理への挑戦状―】
2024年2月29日(木) 紀尾井ホール

出演:石田組
ヴァイオリン:石田泰尚 / 佐久間聡一 / 野尻弥史矢 / 大宮臨太郎 / 丹羽洋輔
ヴィオラ:生野正樹 / 古屋聡見
チェロ:西谷牧人 / 広田勇樹
コントラバス:米長幸一

ゲストヴォーカル:鈴木愛理

◎セットリスト
M1 弦楽セレナーデより 第1楽章
M2 リベルタンゴ
M3 異邦人
M4 おとなの掟
M5 笑顔
M6 三日月
M7 Beauty and the Beast
M8 ニューシネマパラダイス
M9 紫の炎
M10 DADDY!DADDY!DO!
M11 光
M12 夢幻クライマックス
M13 最強の推し!
EC1 I Was Born To Love You
EC2 糸

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