家庭用ゲーム機に初移植の「S.T.A.L.K.E.R.」 “洗礼”を乗り越えた先にある、色褪せない独自の魅力

3月7日、ウクライナのゲーム開発会社であるGSC Game WorldがPlayStation 4/Xbox One向けに『S.T.A.L.K.E.R.: Legends of the Zone Trilogy』を発表し、同日に発売が開始された。

これは同社が2007年から2009年にかけてリリースした「S.T.A.L.K.E.R.」シリーズの初期3部作である『S.T.A.L.K.E.R.: Shadow of Chornobyl』、『S.T.A.L.K.E.R.: Clear Sky』、『S.T.A.L.K.E.R.: Call of Pripyat』を収めたバンドルであり、各作品を個別に購入することも可能となっている。同シリーズが家庭用ゲーム機に移植されるのは史上初だ。

何の前触れもなくリリースされたために(筆者を含めて)多くの人々が驚きと喜びを同時に感じたと思われるが、恐らくそれ以上に「S.T.A.L.K.E.R.」自体を今回のニュースで初めて知ったという方も少なくないのではないだろうか。同シリーズはチョルノービリ原発跡地の周辺地域を舞台としたサバイバルホラーFPSであり、累計販売1,500万本を突破するほどの強い人気を持つだけではなく、現代のビデオゲームにも間違いなく大きな影響を与えている、隠れた傑作である。

とはいえ、日本国内におけるその知名度はそこまで高いものではない。同シリーズが「隠れていた」のは、前述の通り、現在に至るまで家庭用機版自体が存在せず、あくまで当時のPCゲームのシーンを起点に強い支持を集めていたという背景が大きい。今年の9月4日には約15年ぶりとなるシリーズ最新作『S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl』が控えているため、今回の家庭用機版のリリースが同シリーズの敷居の高さを軽減し、より多くの人々がこの世界(ゾーン)へと足を踏み入れることが期待される。

日本語話者にとって重要なのは、今回のリリースに伴い、同シリーズが公式に日本語対応(字幕)したということだ。これまでは公式の日本語訳自体が存在せず、あくまで有志による翻訳MODを使ってプレイしていたことを踏まえると、本バンドルのリリースは移植以上の大きな意味を持っていると言えるのではないだろうか。さらに言えば、今回は家庭用機版ということは当然ながらコントローラーでの操作に最適化されているのだが、実は同シリーズがゲームパッドに正式対応するのも史上初となる。ちなみに、本稿執筆時点で従来のPC版については日本語/ゲームパッド未対応のままとなっており、ぜひこちらにも反映をお願いしたいところだ。

「S.T.A.L.K.E.R.」シリーズの概要やいまも色褪せないその魅力については、先日のコラムで紹介しているので、本シリーズになんとなく興味を抱いているという方はぜひそちらを読んでみてほしい。本稿では、実際に家庭用機版『S.T.A.L.K.E.R.: Shadow of Chornobyl』を触ってみたインプレッションと、今回のリリースで初めて同作に触れる人に向けたアドバイスをまとめていこう(執筆にあたっては、PlayStation 5の環境でプレイしている)。

■コントローラーでの操作や日本語翻訳は好感触。一方で見逃せない問題も

最初に結論から書いてしまうと、家庭用機版『S.T.A.L.K.E.R.: Shadow of Chornobyl』は、見逃すことのできないいくつかの問題を抱えてはいるものの、コントローラーでの操作についてはまったく違和感を感じさせない良質なプレイフィールを楽しめる仕上がりになっている。

グラフィックについては特にリマスターなどの実施が公言されているわけではないのだが、(もちろん現世代機と比較すれば明らかに劣るし、ポリゴン感の強いキャラクターモデルははっきりと時代を感じさせるが)特に自然の風景において2007年の作品とは思えないくらいの美しさを誇っており、テレビ画面いっぱいに広がる荒廃しきった世界はいまでも唯一無二の独特な魅力を放っている。フレームレートは基本的には60FPS付近で安定しているが、凄まじい戦闘に巻き込まれるような場面や、急に走り出すような場面ではやや挙動が不安定になる様子が見られた。

また、今回のインプレッションの執筆にあたっては約8時間ほど同作をプレイしているのだが、マップが切り替わる場面やミッションが完了するタイミングなど、計3回ほどゲーム自体がクラッシュする場面に遭遇した。幸いなことにそうした場面では基本的に直前の状態がセーブされているため、プレイ自体に致命的な影響を及ぼすことはなかったのだが、こうした現象が起こると、どうしても不安を感じてしまうのは正直なところである。

UIや設定周りについては、(2007年製ということを踏まえるとやむを得ないとは思いつつも)文字サイズを変更することができないため、基本的に極小サイズのテキスト(最初期の『DEATH STRANDING』と同程度と言えば伝わるだろうか)を通して台詞やログなどを読むことになる。また、プレイヤーの動きに合わせてカメラが揺れるようになっているのだが、これが現代のシューターと比較するとなかなかに激しく、普段は滅多に3D酔いすることのない筆者でも、万全ではないときにプレイすると気持ち悪くなってしまうことがあった。この辺りは、あくまで本作はリマスターやリメイクではなく、良くも悪くも2007年の体験がそのまま再現されていると捉えた方が良いだろう。

今回の家庭用機版の最大の魅力は、なんといってもキーボード・マウス操作前提の同作としては驚くほどに自然なプレイフィールを実現したコントローラー操作にある。レスポンスは極めて良好で、デフォルトのエイムアシストも違和感なく機能しており(とにかく小さな点を狙うことの多い本作でも)しっかりと照準をコントロールすることができる。複数の武器の切り替えについては「Grand Theft Auto」シリーズのようなホイール式を採用しており、アイテム画面もワンボタンで開くことができるため、状況に応じてクイックに武器を持ち替えたり回復したりという本作ならではの忙しない操作についても、思ったよりスムーズにこなすことが可能だ。普段、『Apex Legends』のようなシューターをプレイする人でも、ある程度触れれば本作の感覚を掴むことができるだろう。

また、公式日本語翻訳についても、個人的には自然で違和感のない仕上がりになっているように感じられた。筆者はもともと、有志翻訳を通して原作をプレイしていたのだが、本作のテキストを読んでいて疑問を抱くような場面はほとんどなかったので、経験者も安心して触って良いのではないだろうかと思われる。一点、会話ウィンドウやUI周りのテキストは翻訳されているのだが、探索中にNPCが発する言葉やカットシーンについては特に字幕が表示されないため、必ずしもすべての内容が日本語化されているわけではないということには注意してほしい。

というわけで、全体としてはある程度問題があるものの、プレイフィール自体は良好であるという印象だ。個人的には、前述した内容が今後のアップデートを通して改善されることを願いつつも、筆者のようなのんびり家庭用ゲーム機で遊ぶことを好む身としては、これまでよりもカジュアルに同作を楽しむことができるようになったことが単純にうれしいと思える仕上がりになっている。

■最初は迷わず「ルーキー」からプレイするのがオススメ。弾が当たらないことにも慣れよう

移植自体のクオリティはここまでに書いた通りだが、何度も書いているように本作はあくまで2007年のゲームであり、現代の作品と比較するとさまざまな面において「優しくない」部分があるのは間違いない(いわゆる「死にゲー」とは違う意味で)。今回の家庭用機版は特にバランスや挙動に手を加えているわけではないため、恐らく初めてプレイした際には、そうした要素の数々に面食らうことだろう。というわけで、ここではそんな(以前の筆者が浴びた)「S.T.A.L.K.E.R.の洗礼」的なものをあらかじめ書いておくことで、プレイ時のギャップを軽減する助けになればと思う。

まず、本作の難易度設定は最低難易度の「ルーキー」から最高難易度の「マスター」まで4段階が用意されているのだが、ここは迷わず「ルーキー」を選択し、もし簡単だと感じたら徐々に上げていくことを強くオススメする。特に序盤においては、恐らく普段のシューターの感覚でプレイすると、(特に序盤において)敵が固く、自分の体力が少なく、さらに弾薬も枯渇していくという状況に陥る可能性が高い。まずは最低難易度で様子を見ることで、本作のシステム自体に少しずつ慣れていこう。

そこまでシューターが得意なわけではない筆者の場合は、一体の敵を倒すためにアサルトライフルのマガジンを使い切ることも珍しくなく、中盤から登場するゾンビと対峙した際には、早々に弾薬を使い切ってナイフを片手に必死で走り回ったりする始末である(実はこれが有効な戦略だったりもする)。実は本作ではしゃがんだ状態で撃った時の精度が通常時よりも格段に優れているため、激しい戦闘の場面でも落ち着いて冷静に対処していくのが大切だ。また、武器や弾薬の使い分けも重要であり、一方で持ち運べる荷物には重量制限があるため、何度もトライ&エラーを重ねながら状況に応じた戦略を考えていくことがミッション突破の鍵となる。

また、本作の全体マップは複数のオープンなエリアが連結するような構造になっているのだが、一見するとオープンワールドに見えるようでいて、実際は脇道に逸れたりショートカットを試みようとすると、どこまでも連なるフェンスに阻まれたり、おびただしい量の放射線を浴びてその場で崩れ落ちることになる。というわけで、実際には道沿いに歩くというリニアな進め方が基本だ。オープンに感じられる一方で、必ずしも自由というわけではないので注意してほしい。

本作では、特に序盤から中盤においては、(少なくとも筆者の場合は)少し進んでは銃弾に倒れ、また少し進んでは動物に蹂躙され、さらにその先で凄まじい放射線に身体を蝕まれたりと、数えきれないくらいの死体を積み重ねながら、少しずつ前へと進んでいくことになる。だからこそ、個人的に本作をプレイするうえで最も重要なのは、なによりもこまめにセーブをするということだ。本作にはオートセーブ機能自体は存在するものの、それほど頻繁ではないため、一度ゲームオーバーになってしまうと数十分の苦労が吹き飛んでしまうことも珍しくない。一方で、マニュアルセーブ自体はメニュー画面からいつでも実行することができるため、少し進んだらすぐにセーブすることで、そうした被害を最小限に食い止められる(ちなみに筆者の場合は、大体3~4分ごとにセーブしている)。

このような内容を書くと、「なぜ、わざわざそこまでして約17年前のゲームをプレイする必要があるのか」と疑問を抱く人もいるかもしれない。だが、むしろそこまでしてでも先へと進みたい、この世界をもっと見てみたいと感じさせるのが「S.T.A.L.K.E.R.」というシリーズがいまなお愛され続ける理由でもある。今回、家庭用機を通して本作をプレイすることであらためて感じたのは、テレビ画面いっぱいに広がる「ゾーン」の荒廃とした光景や、そこに満ちているムードが、最新技術を駆使した作品がひしめく現代においてもなお、他に代えがたい異様な魅力を放っているということだ。もちろん、必ずしも万人向けの作品ではないのもまた事実だが、もし興味を持ったのであれば、ぜひ、今回の家庭用機版を入り口にして「S.T.A.L.K.E.R.」の世界に足を踏み入れてみてほしい。

(文=ノイ村)

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