つらい不妊治療を続けた40代「体も心も痛みが大きいのは女性」 夫の寄り添う一言が欲しかった

不妊治療の種類について説明する動画の一こま(竹内レディースクリニック提供)

 国や自治体は少子化対策の柱に子育て支援を掲げる。少子化の背景には、ジェンダーギャップ(男女格差)があるとの指摘がある。性別による役割分業意識やイメージの決めつけは、出産や子育てにどう影響するか。鹿児島の今を探った。(連載「子育て平等ですか?かごしまの今」④より)

 不妊治療はいつも一人だった。夫は病院に車で送ってはくれるが、診察室まで付き添うことは一度もなく、治療内容を深く知ろうとしなかった-。数年前まで不妊治療を受け、女児を出産した鹿児島市の40代女性は当時を振り返る。

 結婚後、なかなか妊娠せず産婦人科を受診。パートタイムで保健師の仕事を続けながら2010年から7年間、治療に励んだ。予測した排卵日に性交渉するタイミング法から始め、人工授精に切り替えた。体内から取り出した卵子に細い針で精子を入れる顕微授精にも挑戦した。

 1回の採卵につきホルモン剤の注射を10日間ほど毎日打った。採卵日は卵の成熟度合いによって急に決まることが多く、仕事に穴を空けることもあった。業務では、主に妊婦や乳幼児と接する。身体的な痛みと副作用による気分の落ち込みもあり、追い込まれた。

 治療を受けたことに後悔はないが、女性の負担が重い現状に疑問を抱く。「体も心も痛みが大きいのは女性。男性側の寄り添う一言や行動があるだけでも変わってくるのでは」と話す。

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 姶良市の竹内レディースクリニックは、夫婦ともに不妊治療の内容を理解してもらうよう力を入れている。「体外受精の流れ」など24テーマの動画を用意、2人で視聴してから治療に進んでもらう。竹内一浩院長(68)は「不妊の原因の割合に男女の差はない。互いに協力して治療に向き合ってほしい」と願う。

 22年4月から始まった保険適用の条件は、男性に年齢制限はないが、女性は43歳未満が対象となっている。加齢により妊娠は起こりにくくなるとされるが、竹内院長は「43歳以上でも妊娠する女性はいるし、年齢制限を設けるのはいかがなものか。子どもが欲しい全ての人が治療を受けやすくするべきだ」と訴える。

 日本産科婦人科学会によると21年に体外受精で生まれた子どもは6万9797人。その年に生まれた子どもの11.6人に1人になる計算だ。鹿児島市のレディースクリニックあいいくの樋渡小百合院長(43)は、子どもがいないことで周囲からプレッシャーを感じる人を多く見てきた。「そもそも結婚、出産は自由。女性の生き方の多様性が認められたら、不妊治療をする人たちももう少し楽に生きられるのかな」と思いやる。

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 「子どもがいたら楽しいと思うが、いない人生もいい。いろいろな価値観が認められる世の中になってほしい」。鹿児島市の七枝綾乃さん(42)は、2年ほど治療を続ける。

 夫とは何度も話し合いを重ねてきた。「意見が食い違い、つらいこともあったが、その経験が絆を強くした」。週末は共通の趣味であるキャンプや登山に赴き、二人の時間を楽しむ。

 七枝さんが気になっているのは、心のケアや交流の場がないことだ。「経験談や、つらいと思った時に話し合える場所があれば、救われる人もいる。フランクにいろんな人と話ができるようになれば」と話す。

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